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お約束破りの魔王様  作者: 親交の日
勇者編
19/95

そのころ、勇者はⅠ

ジンがなんだかんだで魔王になり、綺麗なお嫁さんをもらって新婚旅行に出かけていたころ、女子高生は何をしていたのか。

 



 ーーーーーー


「どこよ、ここ……」


 車に轢かれたと思えばウザい女神(?)と出会い、謎の光に包まれてーーと、わけがわからない状況の連続に辟易していた女子高生。だが彼女はそんなこれまでの出来事を思い出すよりもまず先に状況の把握に努めなければならなかった。その第一歩が私はどこにいるの、である。


 女子高生はのっそりと、寝起きで低血圧な人のように起き上がる。そして周囲を見回して状況確認。……周りには白や紺の服に金銀宝石がついた装飾品をジャラジャラとつけた男と、シスターのような格好をした女がいた。彼らはグルリと女子高生を取り囲んでいる。


「え?」


 状況がまったく理解できず、首をかしげる女子高生。頭の上を『?』が乱舞する。


(ここどこ? あの人たちは誰?)


 シスターっぽい人々は宗教関係の人だと容易に想像できるが、それ以外の人が謎だった。


 困惑する女子高生を他所に、紺の服を着た厳つい大男が石を両手に持って近づいてくる。殴り殺されるのか、と思った彼女は逃げようとするが、恐怖に足がすくんで身動きがとれない。


「たす、け……」


 声さえもまともに出すことができなかった。絞り出した声も、とてもか細い。


 いよいよ、大男の石が頭上にやってくる。女子高生が最悪の未来を想像した直後、自身から光が立ち上る。


「「「おおっ!」」」


 周囲の人々がいるどよめく。だが女子高生にはまったく状況が理解できない。なぜどよめくのか。


 その間も純白の、汚れを知らない色をした光は大男が持つ石に吸い込まれていく。一分ほどで光は収まった。大男は一際豪華な服装の男に近づき、持っていた石を見せた。石をみた豪華な服装の男は頷き、


「諸君! 神は我らに力をくださった! そしてお命じである! 魔の物を滅し、この世に安寧をもたらすべし、と」


「ではーー」


「うむ。召喚されしは人類の救済者たる勇者! 歴代最高の力を持つ勇者である!」


「「「オオッ!」」」


「「「殺せ殺せ!」」」


「「「魔族どもを根絶やしに!」」」


「「「人類に救済を!」」」


「「「勇者様、万歳!」」」


「「「教皇様、万歳!」」」


「「「人類、万歳!」」」


 まるでカルト宗教の集会のように、全員が同じ言葉を唱和する。女子高生は恐怖した。というか、自分が勇者なのかという疑念を抱く。ーーと、ここで記憶がフラッシュバック。性格が悪い女神の身勝手な都合でこの世界に飛ばされたことを思い出した。


(絶対に許さないーー)


 憎悪を滾らせるが、まずは目の前のことをやらなければならない。さしあたっては勇者として生きなければならないようである。


 ーーーーーー


 あの後、彼女は丁重に扱われた。元々着ていた制服から、この時代では女性貴族の一般的な服装であるドレスへと着替えていた。普通に生きていればそんなものを着る機会なんてない。とても貴重な体験だ。


 勇者は貴族当主と同等の特権的立場である。その目的はただひとつ。この世から魔族を抹殺すること。そのためにはまず強くならなければならない。今日は、その手助けをしてくれる仲間たちとの顔合わせをする日だった。


 女子高生はお世話係に任命されたメイドの後ろをついていく。案内された先にはその仲間たちが待機していた。早速、自己紹介が始まる。


「やあ、麗しきボクの勇者よ。ボクはボードレール王国の第二王子、アルフォンス・ボードレールさ。神速の剣技がボクの持ち味さ」


 自信たっぷりな口調で話すアルフォンスに対して女子高生は笑顔で返しながらも心の中で毒づく。


(誰があんたのものよ。寝言は寝て言え!)


 顔はイケメンだが、生理的に受けつけなかった。長手袋のお陰で隠れているが、鳥肌が立っている。彼女の中でイケメン補正はかからないようだ。


 するとここで、残念イケメンアルフォンスは最大の禁忌を犯す。


「この艶やかな黒髪もボクのためにあるようなーー」


「触らないで!」


 無断で髪を触ったのだ。女子高生はたまらず身を引く。するとアルフォンスは困り顔で、


「ごめんよ」


 とだけ返答した。一方の女子高生はというと、


(女の子の髪を無断で触るなんて信じらんない!)


 激しく憤慨していた。髪は女の子の命であるーーそんな信念を持つ彼女にとって、無断で髪を触るなど言語道断だ。


「オラはジュリアン。ロマネ村の村長の息子だ。ゆ、勇者様にお仕えできて嬉しいだ。オラの盾で、勇者様を守るだ」


 おどおどして田舎臭い喋りをするジュリアン。女子高生はなぜひとりだけ立っているのかと疑問だったが、村長の息子と聞いて納得した。そりゃ王子様の横に農民が座れるはずなんてない。


(論外)


 そんなジュリアンを、女子高生は冷めた目で見ていた。彼をひと言で表現するなら頼りがいがない、だ。田舎臭い喋りはまだしも、もう少し堂々とできないものか。なんとなく、クラスに必ず数人はいるオタクを思い出した。女子を見る目がいやらしい。ジュリアンが自分の胸元ーードレスの作り上、胸元が大きく開いているーーをガン見しているのには気づいていた。


(気持ち悪い)


 これといった魅力もないため、興味は完璧に失せる。早々と視線を移した。


「わたくしは教会の巫女イライア。勇者様のパーティーでは回復役を務めますわ。怪我なら任せてくださいまし」


 妖艶に微笑む美女はイライアと名乗った。彼女の第一印象はエロい、だ。シスター服はその豊満な肢体を隠しきれず、パツパツだった。特に胸元。女子高生は女として敗北感を感じた。しかし口調こそやや高飛車だが、今までで一番まともな人物である。


(納得いかない……)


 釈然としなかった。


 そして勇者の仲間でラストを飾るのは髭を生やしたお爺さん。場の年齢層から考えれば明らかに浮いている。さながら、幼児向けアニメのイベントにしれっと参加している大きなお友達だ。


「儂は冒険者のスティードじゃ。若いもん。老いぼれと侮るな。これでも儂は魔術師特級じゃ」


「「「ま、魔術師特級!?」」」


 女子高生を除く三人が驚愕した。一方、女子高生とすれば何それ? である。だがスティードには彼女がまだこの世界の常識に疎いのを知らない。そのため彼は勇者にあまり反応がないのを見て焦る。


 スティードとしては、ここで一発かまして小娘勇者の思い通りにはさせないつもりであった。ところが魔術師特級という、魔術師業界最高位の称号を出しても小揺るぎもしない。


(勇者からすれば、その程度は造作もないということか……っ)


 彼は歯噛みした。だが結局は初手が潰れただけ。まだ手は用意している。優秀な冒険者は、常に手札を複数枚用意するのだ。一枚だけで臨むなど無謀の極み。


「このなかでは儂が年寄りだな。じゃが、その分は経験で補える。儂に任せておけ」


「はい。お願いします」


 女子高生はすんなりと主導権を手放した。本音としてはスティードが面倒くさそうな頑固ジジイっぽかったのと、パーティーの動きなんてさっぱりわからないからだ。無理にやるよりも、わかる人に任せればいいじゃん、というのが彼女の考え方だった。現代人はともかく合理的なのである。


「あ、最後は私ですね。ーーえっと、私はみなと麗奈れいなです。よろしくお願いします」


 かくして勇者を含めた五人のパーティーが結成された。


ーーーーーー


 女子高生ーー麗奈は異世界で勇者として生きていくことになった。そんな彼女は一流の職人さんたちが作った超一級品の武器や防具で身を固める。


 剣の銘はエクスカリバー。歴代の勇者たちが持つ剣に名づけられた、由緒ある名前だ。光の魔法が使いやすいように刻印が施されている。


 鎧は白銀に輝いていた。裏面には魔法陣が彫ってあって、魔力を流せば【プロテクト】という魔法が使える。マントも織り目が魔法陣を描いており、状態異常になりにくくする【ヘルス】っていう魔法がかかるようになっているーーと職人のおじさんが自慢気に語った。だがおじさんの熱弁も虚しく、麗奈はよくわかっていない。ただ、ちょっとカッコいいとは思っていた。


 麗奈が装備に身を包んで人前に出ると、誰もが褒めちぎった。


「さすがはボクのレイナだね。いつものドレス姿もいいけれど、その鎧姿も素敵だ」


 とアルフォンス。


(だからあなたのものじゃないの。あと、勝手に名前で呼ばないで)


 麗奈は軽くあしらう。髪の一件、彼女はまだ忘れていなかった。


「ゆ、勇者様はとてもカッコいいんだな」


 とジュリアン。


(気持ち悪い)


 と、こちらもバッサリ。


「あら、とても素敵ですわね。教会の聖印もありますし、きっと神様がお守りくださいます」


 イライアは聖女らしく神様を引き合いに出している。


「ふん。小娘がようやく一人前に見えるようになったようじゃの。ま、格好だけじゃが」


 スティードは相変わらず捻くれたおじいさんだ。しかし麗奈の装備には興味があるらしくて、チラチラと視線を向けてくる。クラスの男子が夏に胸、冬に脚へ向ける視線と同じ。バレてないつもりでも、女の子にはバレバレである。もちろん麗奈も敏感に感じ取っていた。ただ、普通は注意しないで無視する。心の中で評価を下げて。


「それでスティードさん。私たちはこれからどうするの?」


「なにをバカなことを言っておる、小娘。モンスター狩りじゃよ。東の平原でな」


 まず相手を罵ってから本題を切り出すのがスティードの特徴だ。麗奈も最初は憤慨したが、慣れると案外気にならない。


(なので前半部分は聞かなくていいのです。でもでも、今なんて言いました〜? よく聞こえなかったですぅ〜。ちなみに、今の話とは全然まったく一ミリも関係ないんですけど、私は湊麗奈っていう勇者ですよ〜?)


「ほっほっほ。やる気があるのはいいことですな」


「「「きょ、教皇猊下!?」」」


 そこに現れたのは教皇だった。黒い法衣がトレードマークである。麗奈は心のなか中でブラックサンタクロースーー略してクロサンタと呼んでいた。


 クロサンタにアルフォンス、ジュリアン、イライアが跪く。麗奈は教皇と同列だが、スティードは跪かなくていいのか、という疑問が生じる。


「水をさすなよ」


「同郷の誼ではないか」


 気安く話していた。出身地が同じであるらしい。


「スティード殿。猊下の御前ですぞ」


「んだ」


 アルフォンスとジュリアンがたしなめたが、スティードは知らんぷりだ。……イライアがなにも言わないということはオッケーらしい。


「王子殿下。教会において魔術師特級の方々は教皇猊下への拝礼を免除されているのです」


「なっ!? 王族には義務があるのにか!?」


 イライアの説明にアルフォンスか驚いている。王子様なのに大変らしい。


「神の御前では人間誰しも平等。血筋など、神からすれば些細な違いでしかありません。しかし世の中には神のご寵愛を賜る者たちがいます。それが非凡の才を持つ者であり、代表例が勇者様やわたしども聖職者、あるいはスティード殿のような魔術師特級なのですよ」


 クロサンタがアルフォンスに諭すように言う。……なんとなく見下している感じだ。


「なんで王族は特別じゃないの?」


 ついそんな疑問が出る。それにクロサンタは丁寧に答えた。


「先程も申した通り、王族や貴族とは血筋だけの存在。神の前には基本平等であり、そのようなものは関係ありません。ただ我々が重視するのは、神に愛され特別な力を授かっているか否かなのです」


「ふーん」


 要は実力が大事、ってことらしい。


「なら、どうしてそんな凡人が勇者パーティーにいるわけ?」


「うぐっ!」


 言葉の槍がアルフォンスに突き刺さった。ちなみにわざとだ。イケメンだけどウザい、というジャイアニズム溢れる理由で辛辣な言葉が彼に襲いかかる。


「申し訳ないのですが、他の有力者には断られてしまいまして……。スティードになんとか引き受けてもらった次第なのです」


「今の地位を捨てようなんて、まず考えないじゃろう。いくら高い地位を用意されたって、魔王を討伐するのに一体何年かかることか……」


「なら、どうしてスティードさんは引き受けたんです?」


「そりゃあ、儂という偉大な魔術師の名を後世に残すためじゃ」


「スティードさんらしいですね」


「……そうじゃな」


 麗奈もこれがはぐらかされただけだというのはわかった。そして、そのときスティードが見せた影のある表情がとても印象に残るのだった。


「ところで、教皇さんはどうしてここに?」


「そうじゃった。これを渡そうと思うてな」


 そう言ってクロサンタは紙(羊皮紙)を麗奈に差し出してきた。


「これは?」


「礼拝所に召喚されたときの石板があったじゃろ? あれは勇者かどうかを判別し、そのステータスを表示するのだ。これはその写しじゃよ」


(へえ。どれどれ……)


ーーーーーー


 名前:レイナ・ミナト


 年齢:17歳


 種族:人間


 性別:女


 職業:勇者


 レベル:1


 体力:250


 魔力:300


 スキル:片手剣、盾、攻撃魔法、防御魔法etc…


ーーーーーー


(しょぼ! レベル1とはいえただの雑魚じゃん! 勇者ってもっと能力高いもんじゃないの!?)


 とにかくこれは見られたらマズいなんとか隠さないとーーと麗奈が焦っていると、


「いやはや素晴らしい能力です」


 と、クロサンタからお褒めの言葉が。


「そんなに高いの?」


「ええ。記録のある勇者のなかではダントツです。歴代最高の勇者でしょう」


 (マジで!? やったー! 落胆されずに済んでよかったー! ってか、この世界の平均ってどれくらいなの?)


 少し調べてみたくなった麗奈。ターゲットはアルフォンス。この自意識過剰王子様は使いやすいのだ。


「アルフォンス。あんたのステータス見せてよ」


「構わないよ、レイナ。夫となるボクのステータスを見たいというのは当然だからね」


ーーーーーー


 名前:アルフォンス・ボードレール


 年齢:23


 種族:人間


 性別:男


 職業:ボードレール王国第二王子


 レベル:37


 体力:1260


 魔力580


 スキル:レイピア、舞踏、不屈の精神


ーーーーーー


 自信満々に見せてくれたステータスはしょぼい。体力や魔力は麗奈を上回ってる。だが、10も上げれば追いつけそうだ。アルフォンスだけがしょぼい可能性もあるのでメンバー全員のステータスを見たが、全員すぐに追い抜けそうだった。麗奈はちょっと優越感を覚える。


「じゃ、パパッとモンスターを狩りましょう!」


 麗奈は張り切ってモンスター狩りに出た。最初こそメンバーの補助が必要だったが、コツを掴むとひとりでも狩れるようになった。その調子で平原のモンスターを狩りまくる。具体的には平原からモンスターが消え去るまで。おかげでレベルも爆上がり(25になった)。ステータスも爆上がりで、あっという間にメンバーを追い抜いた。ただ、スティードの魔力10800は抜けなかった。


(悔しい!)


 その夜。勇者は歯嚙みをしたとかしなかったとか。




ちなみにステータスの存在が魔界で知られていない主な理由は、その存在が教会や王国の上層部や軍により秘匿されていたため、互いの交流が希薄なーーというかほぼ存在しないーーため、伝わっていないための三つです。


ちなみに一般的な市民はレベルが一桁台と弱く、王国の兵士や教会の聖騎士で二十〜三十台となります。

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