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七国春秋  作者: 弥生遼
凶星の宴
882/963

凶星の宴~28~

 譜申が極沃に到着する少し前。釈放された張旬の塾生達が塾に集まっていた。

 「もはや猶予はならん。計画を実施すべきではないか」

 蘇律が塾生達の前で力説した。彼ら過激な塾生達の間では従前からある計画があった。

 『もし仲間が囚われた時、風のある夜を選んで極欲に火をかけて騒動を起こす。その隙を縫って仲間を救出し、その勢いをもって呉江を誅殺する』

 実に粗雑で過激な計画であったが、彼らは本気だった。

 「仲間が先生となった。囚われたのが先生となっては尚のこと実行せねばならない」

 蘇律に賛同するように声を上げたのは蘇穆。蘇律の弟だった。

 「実行するのは賛成だが、少し修正しなければならない。標的とすべきは呉江ではなく、呉頗とすべきだろう」

 口を挟んできたのは陳公露。過激派の中の参謀格の男だ。

 「何故、呉江ではないのだ?」

 塾生の中から疑問の声が飛んできた。

 「呉江は残念ながら御館で寝起きしている。これを狙うとすれば、御館を襲撃しなければならない。政治を正道に戻すことを本義している我らがこれを攻撃するわけにはいかんだろう。また、極沃の街に火をかけるにしても民衆に被害が及べば、我らは単なる火付けをした罪人として謗られる。これも避けなばならない。その点、呉頗は郊外の屋敷を拠点としている。それならば襲っても問題あるまい」

 陳公露が説明をした。納得されたようで聴衆達は無言で頷いた。

 「肝心なことがある。先生がどこに囚われているのか分かっているのか?」

 別の疑問が飛んできた。これには蘇律が答えた。

 「御館にいる我ら同志が調べ上げた。極欲の北にある牢に繋がれているようだ」

 その後、陳公露によって詳細な手順が説明された。その途中で遮るように声があがった。

 「我らだけでやるのか?」

 陳公露から語られる計画には、この場にいる塾生の名前しかなかった。他の正義派の面々の名前は出てこなかった。

 「我らだけでやる」

 蘇律が力強く言った。

 「大丈夫なのか?やる以上は必勝を期さなければならない。だが、我らは武人ではない。武人である田解などの協力を得るべきではないか?」

 聴衆からあがった声に頷く者達もいた。それに対して蘇穆が反論した。

 「我らだけでやる。田解は武人かもしれんが、何かあると落ち着けだの何だかんだ言って実行に移さない。今回の計画を知れば反対するだろう。そうなってはいつまでも経っても実行できず、むざむざ先生を死なすことになってしまう。ここは純粋培養の我らだけでやるべきなのだ」

 蘇穆の反論は決して理知的ではない。本当に計画を成功させるつもりであるならば、武人である田解を加える方が良いはずだった。しかし、彼らの中では感情論が先走った。実際の成功への道筋よりも主義主張の方を大切にした。

 「なるほど、これは愚問だった。許されよ」

 疑問を呈した塾生も感情を優先した。


 実行するとなると急がねばならない。すでに彼らの主題は、太子である呉豊を国主にして極国の政治を本道に戻すというものであったが、いつしか張旬を助けて呉頗を殺すことに移りつつあった。

 「急ぐぞ。こうしている間も先生は厳しい詮議を受けているはずだ。決起は一日遅れれば先生の寿命が一日縮まると思え」

 蘇律が檄を飛ばす一方で、陳公露が計画を立案していった。

 「蘇律と蘇穆で呉頗の屋敷を襲う。こちらを先に行い、近衛や官警の目がそちらに向いている間に私が北の牢を襲撃して先生を助ける。その後、先生を伴って蘇律達と合流する」

 塾生の中でも知恵者とされている陳公露がほぼ一人で立案した。彼らのほとんどが威勢がいいだけの者達ばかりであり、事を成すための頭脳に欠けていた。そのことを塾生達も自覚していたからこそ頭を使う仕事を陳公露ひとりに任せてしまっていた。

 張旬が囚われた一週間後。ついに塾生達は行動に移した。実のところ準備には最低でも一ヶ月ほどかけたかったのだが、そうもいかぬ事態となっていた。張旬がまもなく処刑されるという情報がもたらされたからだった。

 蘇律としてはやるからには準備を万端にしたかった。だが、ここで張旬が処刑されれば、決起の目的の一つが失われてしまう。

 「やむを得ないがやろう。ここで先生を失っては我ら塾生の立場はない。先生には呉豊様の御代で閣僚として参画してもらわねばならないのだ」

 決起を早めることに陳公露も賛同した。彼によれば決起を成功させるだけの準備はできているという。当然ながら弟の蘇穆も賛同していた。

 「やるか。同志達に連絡だ。明後日の夜、塾に参集するのだ」

 もはや蘇律は迷うことなく決断をくだした。


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