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七国春秋  作者: 弥生遼
凶星の宴
881/963

凶星の宴~27~

 呉頗による張旬拘禁事件は譜申の耳にも入っていた。

 『摂政め、そこまでやるか!』

 極沃郊外の閑居に戻り、自らの去就について思案していた譜申は、なりふり構わなくなってきた呉江のやり方に怒りすら覚えていた。

 龍国への使節団襲った襲撃犯の中に張旬の私塾に属している者が多くいたという。その事実をもって張旬を拘禁し、正義派の連中を挑発しているのは明かであった。

 「行くしかあるまい」

 譜申は荷造りをして衣服を改めた。呉江が譜申に要職につくことを要請した時、いずれ譜申の才能が必要になってくると予言めいたことを言っていたが、まさにこのことではなかったか。あの時から呉江が準備していたとなると、譜申は完全に呉江の掌の上で踊らされていたことになる。

 「私が極沃に向かうのも摂政の目論み通りかもしれんな」

 たとえ呉江の脚本通りであったとしても譜申は行かねばならなかった。


 譜申は極沃に到着した。ひとまず譜乙の屋敷に落ち着こうと思っていると、城門のところで鳴々が待ち構えていた。

 「鳴々……。まるで私が来るのを知って待っていたようだな」

 「この事態、収められるのは譜申様しかおらぬと思っておりました」

 話しかけてきたのは鳴々ではなくその隣にいた男だった。見覚えがあるような顔だ。

 「そなたは?」

 「はじめまして。田解と申します。近衛兵団の部隊長をしております」

 「ああ、それで見たことがあると思ったのか。その近衛兵団の隊長がどうして……」

 「同時に譜申様に香辛料を投げつけられたことがあります」

 「ああ……それは失礼した」

 「いえ、失礼を働いたのは私の方です」

 それもそうだな、と譜申が笑うと、田解もわずかにほほ笑んだ。

 「それで正義派の面々が集まって私に何の用だ?」

 「少し歩いて話しましょう。ご相談したいことがあります」

 「張旬の件か?」

 譜申が言うと田解と鳴々は深刻そうに頷いた。三人は誰からともなしに歩き出した。


 「張旬はまだ囚われています。塾生達は解放されていますが、張旬を奪還すべしと騒いでいます」

 田解が事件の詳細を教えてくれた。聞いているだけで譜申はむかっ腹が立ってきた。

 「痴れ者共が。今が太子にとって重要な時期であるということが分からんのか」

 「返す言葉もありません。我ら正義派の中にも過激な連中もおりますので……」

 「お前だって私を襲ったではないか?」

 「それについても返す言葉もありません。ですが、あれは……」

 「今更どうでもいい。今はこの状況をどう解決するかだ。塾生共は大人しくなったのだな?」

 「今のところは。譜乙様から情報を聞き出すと言ってひとまず落ち着かせましたが、時間が経てばまた騒ぎ出すでしょう」

 「詭弁を弄するとあとで苦労するぞ。で、乙は何か言っていたか?」

 譜申は鳴々を見た。

 「乙様が探索方なのでせめて張旬先生の居場所だけでもと思い、それとなしに聞き出そうとしましたが、どうにもご存じないようです」

 「そうだろうな。おそらくは乙は知るまいよ。これは摂政と呉頗が独自でやったことだ。簡単に漏らさんだろう」

 と言いながらも、御館で働いていたことのある譜申は、どこに張旬が囚われているか。大よその見当がついていた。

 「鳴々、乙にお前が正義派の一員であることは言っていないだろうな」

 「言っていません。言えるわけありません」

 鳴々が即答した。やはり鳴々は譜乙のことを真剣に愛しているようだ。

 「それでいい。ともかくも職務もあろうが、田解殿は過激な連中を押さえてくれ。その間に私が摂政を説得する。穏便に張旬を釈放するように」

 今はそれしか良策が思いつかなかった。張旬さえ解放されれば、過激な塾生達は振り上げた拳の行く先を失うはずだ。

 「承知しました」

 「鳴々はいつもどおりにしておいてくれ。今回のことに乙を巻き込むわけにはいかんからな」

 「はい」

 「ふん。これではまるで私がお前達の棟梁みたいじゃないか」

 二人に命令を下した譜申は、馬鹿馬鹿しく思って自嘲した。


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