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七国春秋  作者: 弥生遼
凶星の宴
867/963

凶星の宴~13~

 龍国へと向かう道中は実に穏やかなものだった。

 「急ぐ旅でもございませんので、ゆるりと参りましょう」

 正使である春玄は使節団の人員にそう言い聞かせていた。そもそも人数も多いので必然的に進む速度は遅くなっていた。

 「春玄殿。いくら急ぐ必要がないとはいえ遅すぎやしませんか?先方は我らが到着するのを待っておりましょう」

 譜申は春玄に度々注進した。春玄は笑みをたたえながら、

 「大丈夫でありますよ。先方にもゆるりと参ると申しておりますので。それに先方からすればこちらが早く到着することよりも土産が多い方が喜びますからな」

 後方に続く荷馬車隊に目をやった。そこには龍公をはじめとして龍国首脳部への貢物が満載になっていた。

 「あれらを貰えるのであれば、多少遅くなっても我慢されますよ」

 「なるほど。しかし、あれらを調達するには相応の金銭がかかったでしょうな」

 極国は決して豊かな国ではない。それらをどのようにして調達したかは気になるところだった。

 「その当たりは摂政様が上手く調達なさっております。気になさることではありませんよ」

 春玄は煙に巻いた。無事に極沃に戻れた暁には呉江周辺の金銭の流れも調べてみようと思った。

 

 ゆるゆると進みながらも使節団一行は龍国との国境近くまで近づいてきた。

 「明日には飛竜の槍がある国境線に到着します。飛竜の槍を拝見しておきましょう」

 夜になって春玄がそのような言付けを寄こしてきた。勿論、譜申としも異論がなかった。

 龍国の神器である飛竜の槍は先の龍公であった青籍が両国の和平が成ると地表に突き刺し、それを基準にして国境線が定められた。今でも突き刺さったままであり、ひとつの観光名所となっていた。譜申も何度か尋ねていたいたが、最近はご無沙汰になっていた。

 「ようやく龍国に入るか……」

 長い旅路のような気がした。ひょっとすれば盗賊や、あるいは正義派の連中に襲われるかと思っていたのだが、どうやら杞憂であったらしい。

 「だが、狙われるとすれば今夜か……」

 周囲には人里がなく、身を隠すに最適な森に囲まれている。特に正義派が襲撃するとすれば、龍国の国内で事を成すだろう。そうなればますます今夜しかなかった。

 「一応、春玄殿に注進しようか……」

 余計なお世話かもしれない。だが、ここで賊に襲撃されて散々な状態になれば極国としての恥じになる。防ぐ手立てはしておいた方がいいだろう。

 譜申が天幕を出ると妙に騒がしかった。鎧を着た兵士達が慌ただしく行き来している。

 「これは一体……」

 「おお、譜申殿。騒がしくしてしまいましたかな」

 兵士達の後をゆったりとした歩調で春玄が現れた。

 「春玄殿……これは……」

 「どうやら賊が襲って来たようですな」

 春玄の余裕な態度からすると襲撃されることを予見して準備していたようである。

 「賊の襲撃……。春玄殿は襲撃を予想されていたのですか?」

 「準備はしておりました。万が一ということもありますからな」

 譜申は春玄という男に対する認識を改めなければと思った。単なる呉江の腰巾着だと思っていたが、臨機に対応できる才人ではあるらしい。

 「はぁ、準備を」

 「龍国への貢物ですが、あれはすでに先遣させております。大事な品ですからな」

 今頃は炎城に到着しておりましょう、と春玄は言った。

 「では、我ら一緒に運んでいたのは……」

 「偽物です。襲撃するのが賊かそれとも過激派か知れませんが、貢物は狙ってくるでしょうからな」

 春玄の前に兵士がやってきた。賊を撃退したという報告だった。

 「そうか。では、検分と参ろうか、譜申殿。賊が単なる賊なのか、過激派なのか。調べないといけませんからな」

 最初から春玄は襲撃を予見していたのではないだろうか。そして、わざと襲撃させて賊の正体を暴こうとしたのではないか。邪推とは思ったが、譜申にはそう思えてならなかった。

 「襲撃してきた賊は全部で三十名程度かと思われます。死亡した賊は二十五名。負傷した二名を生け捕りにしており、数名には逃げられました」

 道すがら先程の兵士が報告を続けた。

 「こちらの損害は?」

 「二名重傷者が出ましたが、死者はおりません」

 「それは重畳。逃亡した者を追うように」

 すでにしております、と兵士が答えると、春玄は満足そうに頷いた。


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