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七国春秋  作者: 弥生遼
凶星の宴
855/964

凶星の宴~1~

 夜空の星々が明滅している。

 古来より人々は無数にある星に己の運命を託したという。宿星というらしく、その輝きが強ければ人生は興隆し、輝きを失えば下り坂を迎え、やがて没落する。歴史の偉人達はそのようにして己の人生を占ったという。

 「私の星はどれだろうか?」

 譜申はじっと目を凝らした。そのようなことをしたとろこで自分の宿星が見つかるはずがなく、そもそも何を基準にして己の星が選ばれるのか知りもしなかった。

 所詮は呪い師の戯言だ。そう思いながらも、譜申は気になっていた。先がまるで見えぬ以上、何事かに仮託して将来を見ようとしなければ、予測を立てることもできなかった。

 「父上、ここにおられましたか」

 背後から声がした。やや心配そうな顔をした譜乙が佇んでいた。譜乙は譜申の一人息子で、月の一度はやもめ暮らしをしている父の様子を見に来ていた。

 「乙か。どうした……」

 「先程より御声掛けしておりましたが、返事がないので心配致しました」

 「そうか。柄にもなく考え事などするものではないな。集中力を失う。後から斬られたらひとたまりもあるまい」

 「夜風は体に障ります。中にお入りください」

 譜乙は父の戯言に付き合わず、屋内に入ることを促した。確かに体が冷えてきたので、屋内に移動した。

 「何事かお考えでしたか?」

 部屋に戻ると、酒と肴が用意されていた。譜申が着座すると、早速譜乙が瓶を差し出した。

 「星を見ていた。人にはそれぞれ自分の星があり、その瞬きで人生を占うというがまるで分からなかった」

 譜申は笑いながら酒を杯で受けた。

 「占星とは父上らしくない……」

 「そう言うな。この年で無役になると気が弱くなるものだ」

 譜申は数年前まで太子呉豊の傳役を務めていた。しかし、罷免されて今は無役だった。

 「それは父上があまりにも太子に厳しいことを諫言されるからではないですか」

 「傳役というものは主人の怒りを買ったとしても諫言を言わねばならない時は言わねばならんのだ。阿る様なことを言えば、それは悪臣だ」

 「それがために傳役を罷免されたら諫言もできなくなりますのに……」

 確かにそうかもしれん、と思った譜申は杯を呷った。譜乙が瓶を手にしようとしたが、譜申が先に瓶を取り上げた。譜乙の杯に酒を満たしてやった。

 「ありがとうございます」

 「で、太子のご様子は?」

 酒が満たされた杯を手にした譜乙は父の質問に固まった。

 「よろしくない……か」

 「はい。乱行は日に日に増しています」

 譜乙は端役ながら出仕している。極沃の情報はいつも譜乙から得ていた。極国の太子である呉豊は連日連夜、気に入りの家臣達を引き連れて花街で乱痴気騒ぎを起こしている。

 「太子はまもなく国主になられる。娶嫁も考えなければならない。そのような時機に乱行されてはすべてが台無しになってしまう」

 大切な時期であることは呉豊も知っているはずである。それなのに自分に不利に働くような真似をするとは、呉豊には何か考えがあるのか、それとも単なる阿呆になってしまったのか。

 「父上が傳役だった頃はそのようなことはなかったと聞いていますが……」

 「そうだ。だからこそ私には分らぬ」

 呉豊の傍にいる近臣は決して主人に阿る様な無能ではない。呉豊の乱行を見て見ぬふりして誰も諌止しないのか。譜申にはまるで分からなかった。

 「まもなく太子は二十歳となられます。二十歳になれば国主になるというのが先代の遺言です。御館ではその前に妃を迎えるべきだという気運が高まっています」

 御館とは極沃にある国主の館であり政庁である。現在、その御館は無主となっている。要するに国主は不在なのである。代わって呉豊の叔父である呉江が摂政として国主代理として政治を見ていた。

 「摂政殿は何と申しておる?」

 「摂政殿は龍国の丞相、袁氏の娘が相応しいと申しております」

 「それはいかん。我が極国は龍国と対等でなければならん。いくら丞相の娘とはいえ、家臣ではないか。それでは侮られてしまう」

 譜申の調べでは現在の龍公一族にも若い娘は複数人いる。それなのにわざわざ丞相の娘を妃として迎えようとしているのに、呉江の何かしらの意図が感じられた。だが、その意図が何であるのかまでは分からなかった。

 「御館でも賛否出ております。話は平行線で先に進みません」

 「前途多難という言葉だけでは片づけられんな」

 「私としては父上にお出ましいただきたいのですが……。父上は先代、そして太子に恐れることなく諫言した直諌の臣として知れております。若い者達の中には父上の登場を待っている者もおります」

 「しかし、それがために罷免された身だ」

 そう言いながらも譜申は腕を組んだ。口で否定しながらも、それも考えねばならないと思い始めていた。

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