表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七国春秋  作者: 弥生遼
黄金の瞬
854/963

黄金の瞬~112~

 章堯の死は瞬く間に印国に広がった。多くの者が嘆き悲しみ、ある種の喪失感を抱かせた。

 「海嘯同盟が消滅して一年も経たないうちに章堯が亡くなるなんて……誰がそんな未来を予想したでしょうか?」

 訃報は新判で商人になるための準備をしていた岳全翔にも届けられた。彼の傍らには石硝がいた。岳全翔と石硝は近々婚姻する予定となっていた。

 「誰もが分からなかっただろうね。未来なんて誰しも分からないものだ。私だって軍人になるなんて思っていなかったし、海嘯同盟がなくなると思っていなかったし、商人になれるとも思っていなかった」

 岳全翔の目の前には商売の拠点となる店舗があった。中古の物件で大きくはないが、新判の港付近にあり立地はよかった。

 「私と結婚することもですか?」

 「そうだよ」

 石硝のからかいに照れ笑いを浮かべた岳全翔は、鍵を開けて建物の中に入った。まだ家具や備品は揃っておらず閑散としている。近日中に様々なものが納品される予定になっている。

 『ここから私の人生が始まる……』

 今までの人生は自分の人生ではなかった気がする。何かに翻弄され、不本意なことをし続けてきた。それに耐えてきたからこそようやく自分が望む人生を歩めるのだと思えた。

 『章堯はどうだったのだろう。彼の前半生は知らないが、若くして国主の地位を得たのだ。それでも良き人生だったのだろうか……』

 岳全翔と章堯は一度しか対面していない。それでも章堯のことを思うと、長年の知己を失ったような喪失感があった。

 「これから印国はどうなるのでしょうか?」

 「さてね。国家の経営がどうなるか分からないけど、私達は私達だ。商人は利を求めて海原に出ればいい。同盟はなくなってしまったけど、商人の独立不羈の精神は失っていない」

 もはや岳全翔にとって印国は単なる属する国家でしかなかった。岳全翔は商人として自分の人生をようやく歩み始めることができた。


黄金の瞬 了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 黄金の瞬、読了させていただきました。  いや、実はけっこう前に読み終えてはいたのですが、感想を送りそびれておりまして。  海嘯同盟と印国との争い、その帰結。章銀花の回想で章題を回収なされたのは、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ