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七国春秋  作者: 弥生遼
黄金の瞬
841/963

黄金の瞬~99~

 印国軍艦隊に関する情報は新判にも商人によってもたらされていた。その報告を受けた岳全翔は本島の執政官達よりも敏感に反応した。

 「船団……いや、それはもはや艦隊だ」

 岳全翔は章堯の意図を正確に把握した。海嘯同盟の耳目を新判に集中させておいて、海路をもって本島を襲撃するのは明白だった。

 「どうする?新判にも軍船がある。本島から艦隊が出撃するだろうが、こっちからも船を出すか?」

 慌てて山頂の司令部に駆けつけてきた猪水宣が駆けつけてきた。猪水宣は岳全翔よりも海戦の経験がある。自分が船を指揮して行くつもりなのだろう。

 「新判にある軍船はたった三隻だ。敵は新判に向ってくる可能性もある。そのためにも残しておくべきだろう」

 「しかし、本島が陥落したら新判の防衛も意味を成さないだろう」

 「それはそうだが……」

 万が一にもそうなった時は、新判を海嘯同盟の拠点として交戦すればいい。岳全翔はそう考えていたが、言葉を飲み込んだ。今は本島が陥落しないための術を考えるべきだろう。それに岳全翔は隗良軍を相手にしている。こちらを無視するわけにもいかなかった。

 岳全翔がどうすべきか悩んでいると、本島から印国軍艦隊の情報と、新判守備隊の行動については岳全翔の裁量に任せるという訓令が届いた。そのことが岳全翔の気を楽にさせた。

 「禹総長の意見が採用されたのかな。でも、それを認めた執政官にも感謝だな」

 この訓令で岳全翔は決断した。猪水宣を呼んで、作戦を披露した。

 「本島を失えば新判が意味を成さないのなら逆も然りだ。鑑京を失陥しては章堯も本島を攻めるどころではなくなる」

 「おい、全翔。何を考えている」

 「敵の包囲網を破り、鑑京を襲撃する」

 「それは無理だ。敵の包囲網を破るのもそうだが、仮に破れてたとしても間に合わない」

 「間に合う必要はないんだ。こっちが本気で新判を攻めるという意思を見せればそれでいい。本島が攻略される前にその報せが章堯の手元に届けばそれでいい」

 印国軍艦隊は印国本土の沿岸から見える範囲を航行しているという。ということは、隗良軍が定期的に新判近郊の戦況を章堯に知らせているに違いない。

 「それなら早い方がいい。俺にやらしてくれ」

 猪水宣が身を乗り出した。岳全翔は一瞬逡巡したが、やはり自分がやるべきだと思った。

 「いや、私がやる。水宣はここの守備をやってくれ」

 「全翔、死ぬ気か?」

 印国軍もほぼ全軍が出払っているだろう。しかし、隗良軍を突破できたとしても印国国内は敵の只中であり、もしも隗良がこちら意図に気が付けば追撃をしてくるかもしれない。そうなれば数で劣る海嘯同盟軍などひとたまりもない。全軍全滅の覚悟をしなければならなかった。

 「生憎、戦死して自己陶酔するつもりはないよ。醜くても生き残りたい人間だからね。やばくなったら降伏するよ」

 「しかし……」

 「お前は芙鏡さんを守ってやれ」

 岳全翔は猪水宣が密かに芙鏡に恋焦がれているのを知っている。だからこそ新判に残してやりたかった。

 「お前こそ死ねば石硝が悲しむぞ」

 岳全翔は鈍感ではない。秘書官の石硝が自分に想いを寄せていることには気が付いていた。

 「だろうね。でも、私がここの司令官なんだ」

 危険も責任も追わねばならない。それが岳全翔の覚悟だった。そこまで言われれば猪水宣もそれ以上自己主張するわけにはいかなかった。二人は合意するとすぐに準備に取り掛かった。

 岳全翔はすぐに全軍の将兵に印国軍艦隊の動向と、それに伴う対応を伝達した。

 「新判の守備も必要だから出撃するのは三百名程度で良い。我こそはと思うものは今日中に名乗り出てくれ」

 岳全翔は包囲網を突破する決死隊を有志によって募ることにした。そうすると新判にいるほぼ全員が参加させて欲しいと手を上げた。ある者などは自ら司令部に乗り込んできた。岳全翔は嬉しい反面、困惑した。

 「気持ちはありがたいが、全員というわけにはいかない。ひとまず長男や妻子のいるものは除外する」

 その条件をもとにして岳全翔は三百名の決死隊を組織した。そして、岳全翔の配下に加わった印進も、今回の件を聞くと岳全翔のもとを訪ねてきた。

 「隊長!ぜひとも俺を連れて行ってくれ。俺ならば印国国内に詳しい」

 岳全翔は当初からそのつもりだった。この作戦を成功させるには印進の存在無くしてはなりたたなかった。

 「勿論です。印進殿がおらねば我らは印公国内を彷徨わなければなりませんから」

 岳全翔がそういうと、印進は飛び上がらんばかりに喜んだ。



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