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七国春秋  作者: 弥生遼
黄金の瞬
833/963

黄金の瞬~91~

 国主に即位した章堯はすぐさま人事を発表した。国家経営の要と言うべき丞相についてはこれをしばらく空位とすることにした。章堯は当初、魏房にその地位を任せようとしたが、

 「私の才は経世済民にありません。先の大蔵卿などをあてればよろしいかと思います」

 「つくづく欲のない男だ。しかし、無位というわけにはいかんだろう」

 魏房こそ章堯が国主となり得た最大の功臣だった。それに対して報いる地位を与えなければ、たとえ魏房が望んだことだとしても不公平な人事であると批判されるだろう。

 「それならば警執の地位をお与えください。 鑑京にあって治安の維持にあたります」

 鑑京の治安を預かる警執は決して軽い地位ではない。魏房が望むのであればとその地位を与えた。

 その他閣僚の人事については印無須時代の者達がそのまま留任となった。行政上の停滞を生まないための措置だった。軍制の人事については、隗良が大将軍に、左沈令が左大将、松淵が右大将となった。

 「また、神器の持ち出しを阻止した篆高国については、その功績を讃えて生前に遡って丞相と大将軍に地位を与え、その名前を英雄として印国の国史に刻むこととする」

 印無須を殺害したという負の部分を薄めるには篆高国を全力で英雄にしなければならなかった。

 「ここに宣言しておく。余が国主となった以上、余の代で海嘯同盟との長きに渡る戦争を終わらせる。勿論、勝者としてだ」

 こうして新政権を始めた章堯は、海嘯同盟との激しくて対立していくことを表明した。しかし、すぐには出師を行わず、しばらくは内政に集中するつもりであった。


 思わぬ人物が印国と海嘯同盟の闘争に介入しようとしている。その人物は泉国の国主、泉万だった。

 国主となって十年。壮年に差し掛かった泉万は、印国で章堯なる若者が即位したと知ると、内に秘めていた野心を過熱し始めた。

 「章堯などいう何者かも分らぬ若僧が国主となった。印国はよく治まるまい。これを機に印国を手に入れることができるだろうか?」

 泉万は延臣に問うた。国主に阿ることしか知らない彼らは大いに同調した。

 「商人如きに手を焼く国など敵ではありますまい。ましてや章堯は自ら後宮にいたことで章家の名跡を継いだと言われているような軟弱な男です。時間をかけずに印国を手に入れることができるでしょう」

 丞相の泉乾は泉万の弟である。泉乾の一言で印国への介入が決定的になった。

 この時期の泉国は地続きの隣国である翼国、静国と明確な戦闘はないものの敵対関係にあり、経済的に苦しい状況にあった。それを挽回する手段として印国を支配下に置くことを選んだ。印国は鉱物資源が豊富であり、これを手にできれば中原全体で貿易することができる。それだけではなく、鉱物資源を盾にして翼国、静国に対して優位に立つことができる。多少の犠牲を払っても今の泉国には印国という国は魅力的であり、目の前にぶら下がった餌だった。

 「だが、印国を完全に征服するのは容易ではなかろう」

 一方で泉万は現実を見ていた。島国の印国に遠征するには当然軍船が必要となってくる。だが、泉国の海洋戦力では印国に乗り込むには不十分だった。

 「ですから海嘯同盟を利用するのです。海嘯同盟を利用することで彼らを勝たせ、頃合いを見て和平を結ばせまい。その際に海嘯同盟には印国の鉱山を管理下に置くことを約束させ、我らは海嘯同盟を支援した見返りに、鉱山の採掘権を得るのです」

 「なるほど。経済的に支配するということか。直接戦うわけではないから、我らの損害も少なくて済む。良き案だ。問題は海嘯同盟がこの案に乗ってくるかだ」

 「乗ってきましょう。海嘯同盟もまたごたごたを抱えています。執政官二人が死に、政治的に混乱しております。この時期に印国が攻めてくるのではという恐怖心がありましょう。それを突くのです」

 「よかろう。お前は丞相にしておくには惜しいな。我が弟でなければ、天下を驚かす縦横家になっていただろう」

 「畏れ入ります」

 兄の賛辞と同意を得た泉乾は早速に使者を海嘯同盟に送った。


 石豪士、石延という二人の執政官をほぼ同時に失った海嘯同盟は、一時的に政治的な混乱をみせたが、残された執政官達が東奔西走し、混乱を最小限に留めた。特にそれまで石兄弟に阿り日和見を決め込んでいると思われていた憲飛が率先して陣頭指揮を執った。その流れのまま憲飛が執政官首座となり、当面の間は執政官を補充せず、近徴、孫無信の三人で運営することになった。彼らからすればようやく混乱が鎮まったところにまた騒動の火種と言うべき使者を泉国から迎えることになった。


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