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七国春秋  作者: 弥生遼
黄金の瞬
810/963

黄金の瞬~68~

 新判が一時的とはいえ解放ことで岳全翔は印進と合流することができた。

 「将軍には助けられました。将軍がいなければ、我々はまだ章堯軍と戦っているところでした」

 「何を仰る。岳司令が新判で奮戦していたからこその勝利です。あの章堯を撤退させたのですから誇っていい勝利です」

 岳全翔と印進は固い握手をした。

 「それで、印中員様の行方は分かりませんか?」

 印進が気がかりなのは印中員の行方であった。章堯が印中員の死をまだ公にしていないので二人はそのことをまだ知らずにいた。

 「分かっていません。恥ずかしながら、段司令官もどうなったか分からないのです」

 戦死しているだろう、と岳全翔は思っていた。しかし、まさか単身逃げ出し、新判に寄らず本島へと向かったことも当然ながら知らない。

 「そうですか……」

 「まだ章堯軍が二舎ほどの距離にいます。大々的に印殿の行方を捜すわけにはいきません。申し訳ないですが……」

 「いや、まだここは戦場です。仕方のないことです。ですが、別のことで司令にお願いがあるのです」

 「別のこと?」

 「はい。我ら、すでに三十名ほどと少数になってしまいましたが、ぜひとも司令の旗下に加えていただきたい。微力ながら戦力としてお助けしたいのです」

 「それはこちらとしても願ってもないことですが、よろしいのですか?印国軍の重責にあった貴方が同盟に与して……」

 もうとっくに与しています、と印進は笑った。

 「まぁ、そうですが……」

 「今の印国と印国軍は私の知るそれではありません。印無須に跪き、章堯の命令に従うなどできません。それに岳司令なら武人としての私を大いに活用してくれる気がするのです」

 「将軍にそう言われると照れますね。了解しました。本島の許可を得ねばなりませんが、印将軍の処遇については私にお任せください」

 問題はその本島だった。本島には何度も援軍と戦況を伝える早船を出している。早船なら二、三日で本島に到着するので、こちらの情報は本島に伝わっているはずである。しかし、一ヶ月しても本島からは何の連絡もなかった。

 「本島も混乱しているのでしょうが、これでは私達は孤立無援です」

 いつも気丈な石硝もやや憔悴していた。同時に無反応な本島への苛立ちものぞかせていた。

 『彼女の立場なら辛いな』

 岳全翔は密かに石硝に同情した。石硝は執政官の中に身内が二人もいるのである。執政官に太い繋がりがあるにも関わらず、見捨てられた状況に置かれているというのは相当辛いであろうと思われた。

 「引き続き早船は出そう。私達はそれしかできない。今はまだ完全に戦闘が終わったわけではないからね。一週間もすればまだ章堯軍は押し寄せ来るだろう」

 果たしていつま耐えることができるだろうか。士気は高いが、食糧や武具はやや心もとなくなってきている。章堯がじっくりと腰を据えて攻めてくれば、岳全翔に勝ち目がなかった。

 しかし、章堯軍は一週間しても攻めてこなかった。それどころか鑑京に撤退していったのである。

 「鑑京で何かあったな?」

 岳全翔は情報を集めさせた。印国国主である印角が亡くなったという情報を得たのは、しばらく後のことだった。


 印角の死は突如としてやってきた。章堯が出師して二週間ほど過ぎた時、印角は高熱を発して寝台に伏せった。

 「神事と政務の全てを太子に代行させる」

 印角はそれだけ言ったきり意識不明の状態が続き、一度も目が覚めることなく亡くなった。印無須は形ばかりの見舞いを一度行っただけで、積極的に印角の病を治す指示を医師達に出すことはなかった。そのため印無須が毒をもってして印角を謀殺したという噂も出てきたが、この時期に印無須が印角を殺害する理由がなかった。

 寧ろ、印角が死ねば喪に服さねばならず、章堯を呼び戻さざるを得なくなってしまう。だからと言って印角を意地でも生かすという気にもなれず、死へ向かうことを止めることをしないというのが印無須の判断だった。

 「父たる国主が亡くなった。今よりこの印無須が国主の座を継ぐ」

 印無須は当座のこととして華士玄を丞相とし、自らは服喪することを宣言した。当時に新判攻めをしている章堯に機関を命じた。

 「国主が亡くなったとなれば帰らざるを得ないだろう」

 印無須からの命令を受けた章堯は素直に従うことにした。新判を攻めあぐねていた現状での帰還命令は渡しに舟であったし、印角が亡くなり印無須が国主となれば章堯にとっては別の戦いが始める。海嘯同盟などに構わってはいられなかった。

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