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七国春秋  作者: 弥生遼
黄金の瞬
794/963

黄金の瞬~52~

 芙桃の本島行きに関する返答も臨時船においてもたらされた。

 「芙母子の本島来島を許可する。但し、一週間とする」

 この返答は岳全翔にとってはやや意外だった。これまで海嘯同盟では印国からの亡命者については政治的軍事的要職にある者は本島に移し、それ以外の人物については新判に留めてきた。そして、基本的には本島と新判の間を行き来することを禁じていた。これは亡命者の中に間諜がいる可能性を考慮してのことでだった。

 「これはあれだね。印国で名高い美人親子を見たいという執政官達の邪な考えだろう」

 猪水宣はこの返答をそう断じた。

 「まぁ、そんなところだろうが、尚の事芙桃殿を本島にやるのは危険だ」

 猪水宣には芙桃が印中員を海嘯同盟で擁立させようとしていることを話していた。

 「だからと言って本島がこう言ってきている以上、拒否はできんだろう」

 「そりゃそうだ」

 岳全翔としては芙母子を送り届け、知己である近徴や禹遂に書状を送り、注意を促すぐらいしかできなかった。

 「まだお前さんにできることがあるぞ」

 「私にできること?」

 「そうだ。お前さんも一緒に本島に行くんだ。印国はまだ内乱が終結したばかりで兵を出すことはできんだろう。ここは俺に任せてもらっても大丈夫だ」

 猪水宣が胸を叩いた。確かに新たに印無須を中心とした政権が確立したばかりの印国が海嘯同盟に向けて兵を起こすとは考えにくい。新判を猪水宣に任せても問題はないだろう。だが、司令官の地位にある人物がそう簡単に認知を離れるというのも問題だった。

 「理由なく新判を離れると執政官どもに何を言われるか分からんぞ」

 「それこそ禹遂の爺さんを利用するんだよ。今後の戦略について総長と相談に来ました、とね」

 「それもそうだな……」

 岳全翔は一晩考えて決断した。何ができるか分からないが、本島に向かうことにした。

 

 結局、岳全翔は芙母子と同行することになった。新判の守備は猪水宣に任せ、石硝に補佐させようと考えていたのだが、その石硝も同行すると言い出した。

 「君には水宣を助けてほしんだけど……」

 「何を言うんです。私は守備隊長の秘書官ですよ」

 石硝が頑として譲らなかったので岳全翔は同行を認めることにした。

 本島に到着すると芙母子を指定された宿に送り届けた。芙桃はいつ執政官に会わせてくれるのかと岳全翔に迫った。

 「追って執政官より使者が来ますよ。今日は宿でゆっくりと休んでください」

 岳全翔は芙鏡に目くばせした。芙鏡は察してくれたのか無言で小さく頷いた。

 「さぁ、お母様。船旅で疲れましたから今日は休みましょう」

 芙鏡が諭すと、それもそうねと言って芙桃は引き下がってくれた。岳全翔は二人が宿へ入るのを見届けると、深くため息をついた。

 「やれやれ、ご婦人の相手は大変だ」

 「そうは見えませんでしたけど」

 「そうかな?私はどうも女性の扱いが下手なんだよな」

 「それは分かります。さ、本営に行きましょう」

 石硝が岳全翔に腕を引っ張った。守備隊本営で禹遂に会う予定となっていた。本営に到着すると、禹遂が待ってくれていた。

 「遅いぞ。もうすぐ定時だから帰るつもりだったぞ」

 「すみませんね。船の到着が遅れたのもありますが、ご婦人を宿に送り届けてきたもので」

 「例の美人親子かね?そんなに美人なのか?」

 「美人ですよ。ですが、どうも母親の方には棘があるようです……」

 「ふ~ん。面白そうな話だな。酒のつまみに聞かせてもらおうか。いい店があるんだ」

 「構いませんが、そんな話を外でして大丈夫ですか?」

 「私の娘がやっている店だから大丈夫だ。お嬢さんもどうかね?」

 禹遂が誘うと、石硝は行きますと即答した。



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