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七国春秋  作者: 弥生遼
黄金の瞬
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黄金の瞬~18~

 魏房と隗良は早速揃って篆堯に会った。篆堯は満面の笑みで二人を迎えた。

 「今回の征旅は私にとって得るものは何もないと思っていたが、二人を得たことが最大の収穫であった。嬉しく思うぞ」

 「ありがたきお言葉です。将軍、まだ私は功績を立てていないどころか、将軍によって命を助けられた身ですが、ひとつお願いがございます」

 「聞こう。魏房」

 「我が旧主鑑祇のことです。鑑祇が犯したことは大罪ですが、是非とも助命をしていただきたいと思います」

 魏房の言葉に篆堯は少し顔をしかめた。

 「見捨てられた旧主のことがそんなに大事か?」

 「そうではありません。これは将軍にとっても有意義なことです」

 「ほう。早速私のために働いてくれるのだな、聞こう」

 「誰であれ助命を請うということは人としての度量の大きさを見せることになります。ましてや旧主鑑祇は印家の血族です。いくら謀反と言う大罪を犯したとはいえ、尊貴な血を絶やさぬことを世間に訴えることは、情け深い武人として将軍の人気をあげることでしょう」

 「なるほど」

 「そのうえで鑑祇が処分されれば、処分したのは結論を出した印一族です。将軍とは関わりのないところで血が流れるだけです」

 「よく分かった。助命を嘆願してみよう。ふふ、それにしても私は良き知恵袋を得たものだ」

 篆堯は終始満足そうであった。


 篆堯の天幕を出ると、隗良が身を寄せて囁いた。

 「驚いたぞ。お前がいきなり鑑祇の助命を願い出るんだから。でも、あれは篆堯様のための献言なんだな」

 隗良が感心したとばかりに何度も頷いた。

 「半分はそのつもりだが、半分は本当に鑑祇のためでもある。旧主とはいえ主人だった人だからな。知っている人が死ぬのはやはり気分が悪い」

 「お前は優しいのか厳しいのか分からんな」

 「なんだよ、それ」

 「しかし、篆将軍が助命したところで鑑祇の死は免れないのではないか?」

 「いや、印氏は鑑祇の命を取ることはないだろう」

 「そうなのか?」

 「そもそも鑑祇は実際に武力を用いたわけではない。謂わば準備の段階で投降したんだ。しかも、公族の一族となれば容易に命は取る様なことはしないはずだ」

 「そうか?私からすれば印一族は鑑氏を滅したいように思えるが?」

 「印一族だって一枚岩じゃない。ここで公族のひとつの行いで命を奪うようなことがあってみろ。明日は我が身ということもあり得るんだ。奴らも馬鹿じゃない。そのことぐらいは計算にいれているさ」

 なるほどなぁ、と隗良は納得したようなこと言った。

 「問題はその後だ。印一族が篆堯様をどう扱いかだ。そこを注意しなければならん」

 あの若き、まだ少年といっていい篆堯をいかにして印国を左右させる存在にさせるか。魏房はやりがいを感じていた。


 鑑京に辿り着いた篆堯は、印角の前で戦勝を報告しつつも、鑑祇の助命を嘆願した。

 「鑑祇伯は謀反を企んだがもしれませんが、実際に挙兵したわけではありません。自らの行いを恥じ降伏いたしました。しかも、伯は公族の一員であります。罰は受けるべきですが、死罪だけは免れますようお願い申し上げます」

 「篆将軍の慈悲深きことよ。勇ましいだけではなく、人の情と言うものを知っている」

 篆堯の歎願を聞いた印角は目を細めた。

 「畏れ入ります」

 「伯を死罪とするのは余としても気が引ける。余の意見は余の意見として、後は丞相を中心に協議せよ。それと篆将軍への褒賞も忘れぬようにな」

 印角は閣僚達に言い付けると席を立った。印紀を始めとする臣下の印氏達は互いに顔を見合わせた。

 

 

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