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七国春秋  作者: 弥生遼
黄金の瞬
755/963

黄金の瞬~13~

 印国の首脳部が鑑祇の謀反を認知したのは、鑑祇が鑑京を脱出した一週間後のことであった。鑑祇が領有している黒原に大量の食糧、薬品、武具が運び込まれた後、邑に通じる扉をすべて閉じてしまった。そして鑑祇が各地の諸勢力に送った檄文の存在が明るみになり、国主印角は鑑祇討伐を大将軍印疎命じた。

 「それにしても鑑祇が謀反とはな。何が不満で反抗したのか……」

 大将軍である印疎はすぐに将軍達を招集した。但し、すべての将軍がいるわけではなく、左大将の印栄、右大将の印進、左中将の印郷といった印氏の者達だけであった。

 「鑑氏の勢力を盛り返したかったのであろうよ。疎よ、ここは私に行かせてくれ。最近、戦場に出てないから体が鈍っている」

 と言ったのは印栄。階級の差こそあれ、印疎と同年代ということもあり仲が良かった。

 「気軽に言うな、栄。ここはお前に手柄を立てさせてやりたいが、そうもいかんのだ」

 「どういうことだ?」

 「我ら印氏の誰かが鑑祇を討ったとすれば、印氏が同族の鑑氏を滅ぼしたことになる。鑑祇が国家に反逆した上の討伐だとしても、世間はそう見る。印氏の評判と言うことを考えれば、あまりよろしいことではないということだよ」

 印疎に代わって答えたのが印郷。この世人の中では一番年長であった。

 「そのような世評を気にすることもありますまい」

 「主上も気にされているのだよ、栄。章氏が絶えた今、鑑氏が亡くなれば我らも安泰だ。だが、そのために同族を討ったとなれば、世間は我らを白眼視するだろう。主上としてはそれが耐えられんそうだ。ま、これから印氏がこの国を支配していくのなら、多少はそういう世間からの目を気にした方がいい」

 そういうことだ、と印疎が言うと、承知したと印栄は引き下がった。

 「それで誰をやるのです?我ら印氏がいけないとすれば……」

 印進が言う。この世人の中では最も若かった。

 「篆堯しかおるまい。我らが行けないとなれば、次の階級が高いのが奴だ」

 印疎はやや不満そうに言った。

 「またあやつに手柄を立てさせるのは癪だが、仕方あるまいよ。異存はないであろう」

 印栄が言うと、印進と印郷は無言で頷いた。

 「では決まりだな。篆堯を征討将軍とする」

 印疎はその命令を篆堯に伝えた。篆堯は謹んで命令を拝領し、一刻後には国主印角に謁見して征討将軍の剣を拝領した。その翌日には篆堯は部隊をまとめて出陣した。篆堯の出陣があまりにも迅速であったため、鑑京の民衆は何が起こっているのか知るのは篆堯が出陣した後のこたであった。


 出陣した篆堯は黒原に向けて北上するのと同時に、各地に間者を派遣し、諸侯の動向を探っていた。

 「鑑祇に呼応する者は勿論、その素振りを見せた者、檄文を受け取りながらも行動に起こさなかった者。なんでもいい。少しでも妙だと思った者については報告しろ」

 篆堯の命令は鑑祇に加担する者を見つけ出すためのものであったが、それとは別に篆堯個人の思惑もあった。

 『どれほどの者が印一族に反抗心を持っているか。徹底的に調べてやる』

 篆堯からすれば今回の謀反に参加していない者を見つけ出したかった。

 『印一族に不満を持ちつつも、鑑祇などの軽率な行動に同調しない慎重な人間を味方にしたい』

 というのが篆堯の意図だった。

 「堯様の意図は理解しておりますが、だからと言って各地で鑑祇に同調する者が兵を挙げては厄介です。早々に潰してやりましょう」

 篆堯の隠された意図をしるのは篆高国のみであった。彼は篆堯の副官として出陣していた。

 「勿論だ。俺の速さについていけずまごついている奴に構ってやる必要はないからな」

 篆堯は多少意地悪な気持ちで間者からの報告を心待ちにしていた。


 鑑京から自分を討伐する軍が出陣したと聞いた鑑祇は余裕をみせていた。

 「印角が討伐軍を起こすのは想定済みではないか。それに征討将軍は篆堯だ。主上の寵愛だけで昇進したような若僧に何ができる」

 鑑祇の言葉は決して虚勢ではなかった。鑑祇は本当に篆堯を見くびっており、黒原に攻めてきたところで返り討ちにできると信じて疑っていなかった。

 「それよりも同志達は決起してくれるだろうか」

 鑑祇の気がかりはそこにあった。印一族に不満を持っていると思われる者達に檄文を送っているが、結果は芳しくない。今のところ供に立ちましょうぞ、と言ってくれたのは諸定だけであった。

 「諸定だけでは心許ない……」

 諸定は黒原よりも東方に所領がある。そこで決起をするということであるが、未だに決起したという報告はなかった。そして、鑑祇がやきもきしているうちに篆堯軍が黒原近郊にまで進出してきた。

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