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七国春秋  作者: 弥生遼
仮面の理
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仮面の理~12~

 事態は思わぬ形で進行した。

 会盟で源桓の意見が満場一致で採択された。それだけではなく、会盟に参加しなかった翼国を攻めることになったのである。事態はあきらかに界號の予測とは異なる方向に向かっていた。

 「条公を焚き付けたのはお前だな。会盟を失敗させるという一手はこのことだったのか?」

 界號は家宰の賈陰を呼び、問い質した。会盟は失敗するどころか、各国国主は源桓に同調した。寧ろ成功したというべきだろう。

 「はい。条公を焚き付けたのは臣でございます。会盟は一見すれば成功したように見受けられますが、そうではありません。このままゆけば、静公は自分の意見を取り下げねばならないことになるでしょう」

 賈陰は断定的に言った。

 「何故そう思うのだ?」

 「当然のことですが、武力討伐を翼公が許すわけありません。間違いなく戦となりましょう。静国と翼国、大国同士の戦ですから容易に決着しようがありません。そこへ主上が仲裁に入り、戦を終わらせるのです。そこで和平の条件として静公に自己の意見を取り下げさせるのです」

 「なるほど……」

 この方法が上手くいけば、源桓の主張を潰すことができたうえに界號の中原での名声があがる。一石二鳥とはまさにこのことであろう。

 「しかし、そう上手くいくか?」

 「上手くいかすのです。そうしなければ、中原は秩序の破壊者の思うままになってしまいます」

 すべては臣にお任せください、と賈陰はさらに自信をのぞかせていた。


 会盟の結果はすぐに翼比に知れることになった。翼比は当然のように嚇怒した。

 「小僧は狂ったか!自分の意見が通らぬからと言って戦を起こすなど、小僧以下ぞ!」

 翼比は国軍に臨戦態勢を取るように命じた。怒ってはみたものの、実のところ翼比としては願ってもない好機であった。

 『この戦で負けぬようにすれば、それだけで十分だ。正義を振りかざしてきた静公の名声に傷がつく』

 翼比からすればそれだけでよかった。会盟の内容を知れば知るほど、源桓は自己の主張を無理に押し通そうするあまり条真の口車に乗ってしまったようである。条真の掌のうえで踊っているようで不快ではあったが、源桓を覇者の地位から追い落とせるのならそれでよしとするしかなかった。

 「だが、ただ戦をするだけでは能がない。義王は服喪中だが、界公に和平の仲裁を頼むとしよう」

 翼比は戦争準備を進めるとともに、仲裁を頼む使者を界国に派遣した。この点、源桓よりも翼比の方がしたたかであった。戦争をしかけてきたのはあくまでも源桓である。しかも正義不正義がどうにもはっきりとしない理由による戦争。翼比からすると負けないようにするだけで源桓の野心を挫くことができる。しかも翼比は界號に仲裁を求めることで、いわれなき戦争をしかけられたとして天下の同情をひくことができた。

 「さて、小僧と戦をするのは初めてだ。お手並み拝見といこうではないか」

 はたして源桓が連合軍を率いてどこまで翼国と対抗できるか。今後、翼国と事を構えるかもしれないと思うと、良き試験場となる戦争であった。


 会盟を終えた源桓は、そのまま各国の軍勢を率いて翼国へと向かった。進路は条国を通過して翼国の南側から攻め入る道を進むことになった。馬道から翼国へは界国を通過するのが一番速いが、義王に兵馬を向けるのと同じなのでこれは避けられた。

 「どうぞ我が国を通過してくだされ。我が国内ではいかなる場所で野営していただいても結構ですし、食糧なども存分に提供いたしますぞ」

 条真は気前がよかった。これを機会に条国の国力を諸国に見せておきたいという魂胆が透けて見えていた。

 『嫌な奴だ』

 源桓はそう思いながらも、条国は未知の地である。条真に任せる他なかった。

 連合軍は順調に条国内を進んでいった。途中で軍議が行われたが、いよいよ翼国との国境線が近くなってくると、条真が提案した。

 「いかがでしょう。このまま一団となって攻め込んでは芸がありません。そこで我が軍が一時的に離れて、西側から攻め込むというのは?敵に二兆面作戦を強いることができます」

 つまりこういうことです、と条真は地図に墨で線を描き始めた。

 翼国の国都広凰は南部に位置し、条国との国境に近い。条国から翼国に入り広凰に至るには条国の国都慶師から北上する道と、大きく西に移動し洛水から北へ向かう道がある。どちらの道を取るにしても大軍が行き交うことができるが、行軍距離としては慶師からの道筋の方が早くなる。条真はその慶師からの道を源桓が率いる本軍が進み、条真自らは洛水からの道を行くというのだ。

 一見すれば源桓に譲ったと見えなくもなかったが、源桓は条真の腹の底を読み取っていた。

 『こちらに翼公の軍を引きつけておいて、自分達が一気に広凰に迫るつもりだな』

 当然ながら翼比は源桓がいる方に軍を進めてくるはずだ。そうなれば条真はさしたる抵抗なく翼国を攻めることができる。

 『そう上手くやらすものか……』

 源桓としてはそれは面白くなかった。それでも源桓は条真の提案に賛成した。条真がそのつもりなら、早々に翼比軍を破ってしまえばいい。戦なら負けぬ自信があった。

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