仮面の理~11~
「静公の言には賛同致します。これを会盟の決議とし、すぐにでも界公にお伝えしましょう。しかし、その前に確認しておきたいことがございます」
「確認?」
すでに会盟は条真の独壇場となっていた。源桓は後手に回っていた。
「左様です。翼公をどうなさるかです。翼公は会盟に参加せず、静公の意見にも賛同を示しておりません。それをこのまま放置なさるおつもりですか?」
「どういう意味だ?」
「静公のご提案が正義であり、この会盟が諸国の賛同のもとで行われているとするならば、従わぬ翼国を攻めねばならぬということです」
源桓は絶句した。翼国を攻めるなど考えもしていなかった。
「何を驚かれるのです?これまでも静公は紛争を武力で解決してきたではありませんか?」
条真の言うとおりであった。五年前、源桓は泉国で発生した内紛を諸国の国主と会盟を行った後、武力をもってこれを解決した。それが原因で覇者と呼ばれるようになり、各国で跋扈する馬賊の討伐なども武力をもってして積極的に行ってきた。
しかし、それらは所詮反乱分子や盗賊の類である。一国を相手とするものではなかった。
『国を相手にするとなると訳が違う!』
源桓は声に出して訴えたかった。だが、そのことを言ってしまうと、覇者としての尊厳に翳りが生まれてしまう。咄嗟にそう判断し、言葉を飲み込んだ。
『翼国は強大だ。いくらこちらが連合軍を組んだとしても、容易に勝てる相手ではない』
理由がどうあれ、翼国と戦争をするわけにはいかなかった。ここは腰ぎんちゃくと言われている泉商に言わせようと思い、目線で合図を送ったが、泉商は源桓ではなく、条真に熱い視線を送っていた。
『おのれ!』
泉商の思惑は知れていた。この時期、泉国と翼国は国境線で紛争問題を抱えていた。自国の武力だけで解決することができない泉国からすれば、連合軍で翼国を攻めることはまさに渡りに船であった。
泉商だけではない。龍火も条真の言葉に鼻を大きく膨らませていた。龍国も翼国と国境を接している。こちらは紛争を抱えているわけではないが、小国の龍国からすれば、いつ翼国に侵略されるかどうかわからないという恐怖心がある。連合国として攻め込めば翼国の国力を弱体化させることができる。龍火はそう考えたに違いなかった。
「いかがでありましょうか?静公。折角の会盟です。このまま不義を働く翼公を懲らしめましょう」
条真が畳みかけるように言う。条国もまた翼国と国境を接しており、小競り合いをしている。翼国を攻めたい急先鋒であろう。それだけに泉商や龍火の気持ちをよく理解しており、最大限に利用していた。
『条真め!』
攻めぬと言えば条真は帰国するだろう。翼国を攻めることをちらつかされて息があがった泉商と龍火が納得しないに違いない。条真を呼び戻すように源桓に迫るだろう。覇者としての源桓の面目は丸つぶれになってしまう。
『とんだ食わせ物よ。条真はそこまで考えて追い込んできたか……』
腹立たしかった。だが、ここまで言われてしまってはどうすることもできなかった。
「条公はそのように考えておらるが、他の皆様はどうだろうか?」
源桓は印公―章玲に熱のこもった視線を送った。この中で翼国と利害を持っていないのは印国だけである。しかも、このまま征旅となれば島国である印国がもっとも費用がかかる。翼国討伐を否定するのではないか。そういう思いを源桓は期待していた。
「私としては条項の言うことにも一理あると思いますが……」
真っ先に口を開いたのは腰ぎんちゃく泉商であった。やはり自国の利益を考えているようである。源桓は反応せず、あえて無言でいた。
「私も……泉公と同じ意見です」
龍火は小さな声で言った。条真が満足そうに頷いている。
「印公はいかがか?」
堪らず源桓は章玲に意見を求めた。章玲はすでに六十歳を過ぎ、在位も三十年を超えている。一番の年長であり、国主としての経歴も最も長い。会盟の席などではあまり多くを語ることはなかったが、稀に発するその言葉には重みがあった。
「静公が古式に乗っ取った政治を取り戻そうとなれるのは良きことかと思います。それが中原のための正義であるならば、異議を唱える翼公を討伐しなければならないのではないですか?」
章玲の言葉に源桓は絶句した。まさか章玲がここまで力強く翼国討伐に賛意を示すとは思ってもいなかった。
「何故かと問われれば単純明快です。これまで静公は覇者として会盟で不義としたことを武によって正してきました。今回に限りそれを行わないとなると、それこそ不義となりましょう」
章玲の発言には整然とした筋道があった。確かにそうなのだ。今まで源桓は覇者として問題解決を武力で行ってきた。今回に限り行わないというのであれば筋が通らない。それに四人の国主が武力を使うことに賛成している以上、源桓としては拒否しようがなかった。
「よろしいでしょう。会盟での総意として翼国を討ちましょう」




