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七国春秋  作者: 弥生遼
仮面の理
717/963

仮面の理~9~

 秩序を乱そうとしている奴がいる。

 どういう社会であれ、整った秩序があるからこそ平穏があるのであり、どういう理由があるにしろすでにある秩序をわざわざ乱して潰すというのは悪であろう。

 静公―源桓が行おうとしていることは悪に他ならない。その悪が界国にほど近い馬道の地で会盟を行おうとしている。これは態度を明確にしない自分への明かな当てつけであろう。界號はそう思えるからこそ、不快さを隠さなかった。

 「参加するのは泉、印、龍の三国です。会盟で意思を統一し、そのまま主上に進言しようという考えでしょう」

 賈陰が情報を収集してきた。導き出した結論は界號と同じであった。

 「翼公はどうやら静公の意見に乗らなかったようだな。条公は誘うこともなかったか。この二国が参加しなかったということは跳ね付けるには十分な材料だろう」

 流言を流し、翼公を揺さぶった甲斐があった。

 「しかし、会盟であると天下に喧伝された上での意見となりましょう。覇者として静公の名声を甘く見てはなりません。あるいは条公を引きずり出してくるかもしれません」

 「条公なぁ……」

 条国こそ中原の秩序の乱れから生まれた国であった。すでに開祖である条元は没している。しかし、二代目条公―条真は父に勝るとも劣らぬ悪辣さをもって国主として君臨している。

 条元が斎国を簒奪し、国号すらも変えてしまった時のことを界號はよく覚えている。界號は秩序を愛するものとして青年らしい正義感で条元の所業を憎んだものであった。しかし、界公ではなかった界號はどうして父と当時に義王―義典が条元のことを認めたのか疑問であった。

 「条公はしたたかです。自己の存在を中原で確固たるものにするために覇者である静公にすり寄るかもしれません。静公もまた自己の政治的主張を実現させるために渋々条公を取り込むかもしれません」

 「双方の利害が一致はするわけか……」

 「翼公はあくまでも反対するでしょう。しかし、五か国が団結すればこれは無視できなくなります。会盟を失敗させるしかありません」

 「失敗させる?容易いことではないだろう」

 「いえいえ、そう難しいことではありません。ここは臣にお任せください」

 賈陰は自信に満ちた笑みを浮かべていた。


 会盟とは各国の国主が集まって話し合いをするだけではない。国主達は自軍を連れて参集する。会盟で話し合われた内容次第ではそのまま軍事行動を起こすこともあり、その先例は過去に幾度とあった。

 だが、今回の会盟に関しては軍事行動はあるまい、というのが国主達の見解であった。会盟の議題が源桓の主張を界公に認めさせるというものである以上、議論の対象となるのは界公なのである。ろくな軍事力を持たない界国に対して軍事行動を起こすことなどあり得なかった。

 「ましてや界国には義央宮がある。界国に刃を向けることは義王にも刃を向けることになる。できようはずがない」

 いち早く会盟の場に到着した泉公―泉商が諭すように龍公―龍火と話をしていた。泉商は源桓によりも遥かに年上でありながら源桓に追従していることから『静公の腰ぎんちゃく』などと言われている。泉商はそのような世間の声などまったく気にしていない風を装いながらも内心では、

 『静公に追従しているのではない。余が源桓を教導して覇者にしているのだ』

 と思っていた。だからまだ年若い龍火に対しても説教臭くなっていた。

 「左様ですな」

 龍火は煩わしそうな顔で適当な相槌を打っていた。

 会盟の地である馬道にはまだ全ての国主が揃っていない。到着しているのは泉公と龍公だけであり、印公もまもなく到着するという。

 『翼公と条公は来るまい』

 泉商と龍火の会話などまるで耳に入っていない源桓は、翼比と条真のことを考えていた。一応二人にも会盟への参加を呼び掛けていたが、まず来ることはないだろうとみていた。寧ろ来ずともよいとさえ思っていた。

 「この会盟で泉、龍、印、そして静の四国の国主による建白書を起草し、それを界公にお渡しする。場合によっては皆様に御同行願い、我らで直接界公と談判するかもしれません。そのつもりでお願いいたします」

 「その場合は兵を置いていかれるのですか?」

 勿論のことです、と源桓は、龍火の質問に答えた。軍を率いて行けば、それだけで源桓の掲げる大義が失われてしまう。

 「四国の国主が揃って談判すれば、界公も応じざるを得ないでしょう。流石は静公です」

 泉商のおべっかには源桓は無言で頷いた。これで我が思いが成就するか、と半ば安堵している源桓にもとに思いもよらぬ報せが届けられた。条公が会盟に参加すべく静国と条国との国境を超えてきたというのである。

 

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