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七国春秋  作者: 弥生遼
浮草の夢
649/964

浮草の夢~27~

 秋桜を歓迎する宴が一週間後に行われることになった。これを主催者として紅公妃が手を上げた。

 「秋桜は私の侍女でした。ぜひとも祝ってあげたい」

 紅公妃はそのように申し出て、源冬は許した。このことが後宮での女の戦いにさらなる波乱を呼んだ。

 「公妃は頓女を味方に引き入れたようですね」

 源冬の第二夫人である清夫人は紅公妃の動きからその意図をすべて読み取っていた。現在の後宮において寵姫ではない公的な地位のある女性は紅公妃と清夫人だけであることは先述した。当然ながらこの二人は敵対関係にある。清夫人は隙あれば自分が第一夫人即ち公妃となることを望んでおり、紅公妃も密かにそれを警戒していた。

 ただ清夫人には最大の弱点があった。源冬との間に子供がいないことであった。このことが紅公妃との最大の違いであり、その違いを埋めるべく清夫人も源冬に女をあてがってきたが、男児が生まれてもその女を夫人に取り立てることはなかった。

 「頓女がどこまで主上の寵愛を獲得するか分かりませんが、警戒しておいた方がいいですね」

 清夫人が諮問しているのは宦官の趙鹿。彼の役目は源冬と清夫人の間を取り持つことである。

 「左様です。今、主上が愛しておられるのは琳姫です。宴の件は琳姫から出たとようです。彼女も同じことを考えておることでしょう」

 趙鹿は琳姫との共闘を示唆した。これには清夫人は頷かなかった。清夫人と琳姫はそれほど昵懇ではない。

 『こんなところで寵姫如きに貸をつくれるものですか』

 今回は高みの見物を決め込むことにした。秋桜という侍女あがりの寵姫がそれほど脅威になるまいと清夫人は高を括っていた。


 宴までの間、源冬は二度秋桜の部屋を訪ね、男として抱いた。初めて抱いた時は初めてという緊張感からか全体的な硬さを感じていたが、二度目、三度目となると硬さはなくなっていった。まだ男に抱かれることに快感や喜びを感じている様子はないが、その瑞々しくも女として熟れ始めている体に源冬は満足していた。高薛が自ら出向いて見つけてきただけのことはあるとは思っていた。しかし、

 『それだけの女か?』

 という疑念もあった。源冬はまだ秋桜とは褥でしか接していない。彼女に肉体以外に魅せられるものがあるのかどうか。今度の宴は源冬としても楽しみであった。

 宴の日となった。場所は奥宮にある広間。国主が内向きの宴を行う時に使われる広間である。参加者は源冬と後宮の女達。それに加え源冬の嫡男である源円も加わることになった。

 「偶には母上に会うがいい」

 という源冬の配慮であった。源円の母とは紅公妃のことである。

 宴席が始まると、先に寵姫達が下座から席につき、紅公妃と清夫人がそれに続いた。最後に源冬と源円が姿を見せ、上座に座った。向かって左側に源冬、右側に源円。女達も紅公妃が左の列の先頭に、清夫人が右列の先頭に座った。肝心の秋桜は宴の主役ではあったが、まだ寵姫としての身分が低いため、最も下座に座らされた。

 「今日はよく集まってくれた。余の後宮に新しい姫が誕生した。これよりは愛すべき家族として接して欲しい」

 頓秋桜だ、と源冬が紹介すると、秋桜は立ち上がって会釈した。

 「今宵は無礼講ぞ。食べた給え、飲み給え」

 源円が手を叩くと、宦官や侍女が料理や酒を運んできた。場は一気に宴会の雰囲気となっていった。

 宴が始まると秋桜は自ら瓶を持って参会者達に酒を注いで回った。事前にそうするように高薛から教わっており、注いでいく順番についても同様に教えられていた。

 「酒を注いで回る時は下座から上座へと進み、最後に主上に差し上げるのです。そして、そのまま主上のお傍に侍るのです」

 秋桜は高薛から教示されたことを忠実に守った。酒を注いだ相手に嫌味を言われてもにこやかに応対し、上座へと移動していった。

 「琳様、秋桜です。以後、よろしくお願いいたします」

 当然ながら琳姫にも酒を注いだ。琳姫は僅かに微笑するだけで何も語らなかった。

 「清夫人、秋桜と申します。今度ともよろしくお願いいたします」

 「あら、なんと美しい声。ほほ、これでまた後宮が華やぎますこと」

 清夫人の場所は源冬からほど近い。あまり妙なことを言って源冬の機嫌を損ねまいとして当たり障りのないことを言ってやり過ごした。続いて女性の中での序列一位である紅公妃にも注いだが、こちらはすでに気脈を通じているだけに笑みを交わすだけであった。


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