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七国春秋  作者: 弥生遼
浮草の夢
623/964

浮草の夢~1~

 静国に暗君なしと言われている。

 これは多少過大評価なところがあり、どうしようもない静公もいないでもなかった。

 しかし、他国に比べれば英明と呼べる国主が多かったのは事実であり、特に静国の三賢公といえば中原の知識人では知らぬ者はいないほどであった。

 静国の三賢公とは静国の開祖である源仁。静国繁栄の基礎を作り上げた三代目静公である源鳴。そして静国の中興の祖と称される源真である。

 静国ではこの三人に二人加えて五賢公と呼ぶこともある。多くの場合は源允と源厳が上げられるのだが、源允に替わって源冬を入れるべきだという歴史家もいた。

 源冬は評価の分かれる国主であった。

 義王朝の三七五年に生まれた源冬は、前半生こそ静国の経済的基盤を整え、国内に蔓延る盗賊や、膨張しようとする条国からの侵略を防ぐなど活躍をしたが、晩年は一人の寵姫を愛したがために国を乱し、静国において最大級の内乱を招く結果となった。評価が分かれるというのは、前半生と晩年でその事績がまるで異なることであった。源冬を名君とする者達は主に前半生の功績を褒め上げ、暗君とする者達は晩年の愚行をあげつらった。

 一体、どちらが本当の源冬なのか?

 この物語では源冬と、彼が愛し抜いた寵姫頓秋桜の物語である。

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