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七国春秋  作者: 弥生遼
栄華の坂
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栄華の坂~88~

 慶師での師武と斎国慶の戦いは最終的な決着を見なかった。このことによって生じた変化は、斎国慶を支持する諸侯が出現したことにあり、斎烈、斎国慶、そして斎文の三人の公子が天下を争う構図が完成された。

 最大の勢力を誇るのは師武を味方にしている斎烈。師武が大将軍であったことから武断的な諸侯を味方につけており、斎国北部を中心に勢力を築いていた。

 その次が条元が擁している斎文であった。条元、律伸、陶進という斎国中部から南東部における諸侯が結集しており、何よりも斎文は斎幽に認められた正式な嫡子であるという強みがあった。

 その点、斎国慶は苦しい立場にあった。慶師近郊の戦いで師武軍に勝利はし、これを支持する諸侯も出現してきたが、師武や条元のように大勢力を構築するまでには至らなかった。短期的な勝利に酔うほど斎国慶は愚鈍ではない。このままでは二つの勢力の間で埋没していくのは明かであった。

 斎国慶には二つの選択肢があった。ひとつは斎烈陣営と斎文陣営を相争わせ、漁夫の利を得ること。もうひとつは一方と同盟関係になり、もう一方を滅亡させた後で同盟者を倒すことである。斎国慶は迷わず後者を選んだ。二つの勢力を争わせるには時間がかかり、斎国慶の意思が介入しないところで天下の情勢が動いていく。それは斎国慶の矜持が許さなかった。

 『俺が天下の中心とならねばならぬのだ。座して待つのは性に合わぬ』

 そうなれば斎国慶が結ぶべきは条元しか考えられない。斎国慶は斎文と条元にいる美堂藩堂上に使者を派遣した。


 条元は使者と会うことにした。当然その場には斎文を同席させ、あくまでも使者が会うのは条元にとっての君主である斎文であることにした。

 「主上は文様と結び、国主を僭称する斎烈を討とうと考えておられます。国家の正義のためにもぜひとも文様におかれましてはこの同盟を受けていただきますようお願い申し上げます」

 条元には斎国慶からの使者がどのような要件で来るか承知していた。切羽詰まった斎国慶がこちらを利用するために同盟を結ぼうとすることは容易に想像できた。だからこの件についてどのように返答するかは事前に打ち合わせ、意見が一致していた。

 「ふざけたことを申すな!烈兄のことを僭称した国主というのなら、国慶も同じではないか!亡き父上は私を嫡子として指名して亡くなった。であれば、国慶も同じであろう」

 条元と斎文の意見は斎国慶からの提案を拒否することであった。この後の及んで斎国慶と結ぶ利点など条元達にはなく、寧ろここで斎国慶の非を鳴らして軍を起こす時であった。

 「お聞きの通りだ、使者殿。我らの正義と貴殿らの正義は異なるようだ。後は戦場で刀槍に問うまでだ。命ある間に慶師に帰られよ」

 条元が最後通牒を突きつけた。使者は顔を赤くしながら帰っていった。

 「さて、文様。いえ、これよりは主上とお呼びすることに致します。覚悟を決められたとなれば、ぜひご下命ください」

 この時点で斎文はまだ国主に即位したことを宣言していない。あくまでも公子という立場であったが、斎国慶を敵とする以上、国主を名乗らなければならなかった。

 「分かった。斎国国主として条元に命じる。私に与力する諸侯と共に父を殺して慶師で国主を僭称している斎国慶を討て」

 「承知いたしました」

 この日、条元の下より発せられた斎文の檄文は、各地の諸侯に届けられた。そしてそれらの返答を待たずして条元は斎文を擁して出撃をした。


 美堂藩を出発した軍勢は各地から参集する諸侯を加え、次第に増大していった。先陣を任された条春。中軍に斎文と条元が身を置き、後軍は律伸が務めることになった。この頃になると条春の名は勇猛な将として斎国の中で名をはせていた。先陣は各諸侯の軍を糾合した混成軍となっていたが、それらを結束させるには十分な名声を得ていた。

 「条春将軍に付いて行けば、負けることはない」

 そう信じられている将軍が陣中にいることほど心強いものはなかった。慶師までの道中、斎国慶に与力しようとしている諸侯が戦いを挑んできたが、条春は鎧袖一触に蹴散らした。そうなると条元軍の名声はますます高まり、斎文に忠誠を誓うために駆けつける者達が増えていった。もはや慶師まで遮る勢力はなく、条元軍はついに慶師の城壁を見えるところまで到達した。師武が敗走させられてからわずか半年後のことであった。

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