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七国春秋  作者: 弥生遼
栄華の坂
579/959

栄華の坂~57~

 翌日、条元は斎文と対面した。当然ながら斎文が上座であり、条元は次の間で平服した。

 「条元、苦しゅうない。近こう寄れ」

 斎文より少し下座に座る南殷が声を上げた。それに応じて条元はわずかに膝を進める。

 「近こう」

 南殷が再び言って、条元はようやく斎文がいる部屋に入ることができた。これが貴人と対面する時の作法であり、条元は事前に南殷から指導を受けていた。

 『何とも煩わしいことだ……』

 条元は辟易しながらも、今は素直に従うことにした。

 「条元、格別の計らいにより公子は直答を許された。面をあげよ」

 ここで条元はようやく斎文を見ることができた。上座に座り、美服を纏っている斎文は、どこにでもいる青年といった感じの面構えをしていた。

 『覇気というものがまったく感じられない。公子というものはこういうものか』

 条元はやや失望した。いずれ国主となるものは、それに相応しい他者を圧倒する気迫のようなものがあると思っていたが、どうやら現実は違うらしい。

 「条元、この度は感謝する。慶師で身の置き所のない私を助けてくれた」

 柔らかい声であった。見た目と合わせて人のよさそうな青年という感じがした。

 「畏れ多いお言葉でございます。臣条元、非才の身ですが、公子が健やかにお過ごしできるように微力ながら尽くさせていただきたいと思います」

 「うむ。心強く思うぞ、条元」

 斎文は心底安心したかのようにしきりに頷いていた。

 公的な対面はこれで終了し、場所を変えた。そこには条耀子をはじめ、条春と条隆も同席させた。

 「これなるは我が妻、耀子でございます。そして弟の春と隆です」

 居並ぶ条耀子達が斎文に対して平伏した。珍しく条耀子もしおらしくしていた。

 「うむ。条元共々、私を助けて欲しい」

 「それで、ここでひとつはっきりとしておきたいことがございます」

 「何であろう」

 「公子はこの国の嫡子であられます。世上では他の公子達が争う中、公子はこの先どうなさりたいのですか?」

 「どうとは?」

 「嫡子である座を捨て、安穏とした生活を送りたいのであれば、この堂上で恙無くお過ごしください。但し、その場合は嫡子としてだけではなく、公子というお立場も捨てねばなりません」

 「条元、そのような話は後にでも……」

 口を挟もうとした南殷に対して、条元は鋭い視線を送った。

 「南殷様、これは重要なことでございます。斎文様のお心次第では、我らも色々と覚悟と準備をせねばなりません」

 「よい、条元。続けて申せ」

 「然らば。もし公子が嫡子であることを続け、いずれは国主とならんことを望んでおられるのなら、この場で明言ください」

 条元に言われ、斎文は沈黙した。言葉に詰まっているというよりも、言うべき自分の言葉を探しているようであった。

 「そうよな。頼りにする以上、その辺のことはしっかりと申しておかなければならないな」

 しばらく後、斎文が口を開いた。

 「これでも私は父より嫡子であると定められた。烈という兄がおり、私よりも優秀な国慶という弟もいる。それでも父上は私を嫡子としたことを変えられることはなかった。父上がどのようなお考えであっても、嫡子の座を父上がお取り上げにならない以上、私としてはこの国の次期国主でありたいと思っている」

 第一印象は冴えない貴公子程度にしか思っていなかったが、斎文という公子はなかなか気骨がありそうであった。

 『これは条家の未来を託するに値する御仁かもしれない』

 斎文が無事に次期国主となれば、条家の家格は一気にあがる。あるいは丞相ということもあるかもしれない。

 「承知いたしました。力の限り公子をお支え致します。しかし、そのために公子もお辛いことを経験するかもしれません。その御覚悟はあられますか?」

 「覚悟か。今でも十分につらい状況にある。これ以上のことがあったとしても耐えて見せよう。もし私がくじけそうになれば、厳しい言葉で励まして欲しい」

 「公子の御覚悟、しっかりとお聞きしました」

 条元が平伏すると、条耀子達も続いて平伏した。斎文は満足そうであったが、斎文を条元に紹介した南殷は心情を読み取れない複雑な表情をしていた。

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