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七国春秋  作者: 弥生遼
栄華の坂
574/962

栄華の坂~52~

 費閑は窮地に立たされていた。軍事的には師武の方が優位であることは明らかで、費閑にとっての切り札である斎幽はやや見放した立場を取っていた。そこに近づいてきたのは斎国慶であった。

 「お困りのようだな、丞相」

 「公子……」

 斎国慶が話しかけてきた時、費閑はこの公子を利用するしかないと思った。この事態に陥って費閑が頼れるのは斎文ではなく、斎国慶であった。

 『あの凡庸な斎文よりも、斎国慶の方が衆望を集められる』

 費閑の判断により、四公子の乱において斎文は蚊帳の外に置かれることになった。

 「公子、どうか公子からも主上のお口添えをしてください。師武が烈様達を擁して謀反を起こしているのです。どうか師武から大将軍の地位をはく奪し、我に国軍を編成する勅命をお与えください」

 「それは難しいだろう。先に勝手に私兵を動かしたのは丞相ではないか。主上の仰る通り、師武のみを賊軍とするのは片落ちの裁きというものであろう」

 「しかし……」

 「安心しろ。私戦であるならば私戦でよかろう。この俺が協力してやる」

 きた、と費閑は手を打ちたい気分であった。この自己の才能に自惚れている公子ならば必ず乗ってくると思っていた。

 「協力ですと?」

 「そうだ。向こうに二人の兄がいるのならば、丞相の側に俺がいてもよかろう」

 「確かに公子がいてくれれば兵も集まりましょう」

 「決まりだな。広く世間に喧伝しろ。斎国慶が丞相の陣中にいるとな」

 こうして費閑と斎国慶は結びつき、費閑の軍勢は雷鵬藩の守りを固めることになった。その陣中に斎国慶がいると知れると、未来に得るべき恩寵を求めて馳せ参じる者達が増えてきた。兵数は二千五百名近くに膨れ上がり、師武の軍勢と同数とはいかなかったが、守勢に徹するのであれば十分すぎる戦力となっていた。


 丞相と大将軍という国の二大勢力が軍事力で衝突しようとしているにも関わらず、国主である斎幽は静観を決め込んでいた。もはや斎幽に対してこの紛争を制止するように進言する家臣はおらず、宮中では丞相か大将軍か、どちらにつくべきか相談するばかりであった。

 「主上のお心が臣には分りかねます。丞相と大将軍を争わせて何をなさろうとしているのです?」

 ただ一人、斎幽に疑問を呈した家臣がいた。南殷である。斎文に条元を頼れと助言した南殷は丞相、大将軍のどちらにも属さず、日和見していた。

 「血の気の多い家臣と公子達だ。余ではとても制御できまい」

 「左様ですかな。臣には主上がこの事態を楽しんでおられるように見えますが?」

 「楽しんではおらん。しかし、このような形で争い、生き残った者が次期国主に相応しい。そう思わんか?」

 「ほほう。主上は頑なに文様を嫡子になさり、変えようとはなさりませんでしたが?」

 「だからこそ他の公子達も争うというものだ。自信のある者は特にな」

 南殷はぞくりとした。この遊楽に没頭してきた君主が最期に壮大な遊びをしようとしているのではないか。南殷にはそのように思えて仕方がなかった。

 「それでは文様が可哀そうでありましょう」

 「文には文でよいところがある。さてさて、どうなることか」

 斎幽は不敵にほほ笑んだ。南殷はやはり日和見すべきだと改めて思った。


 両軍が雷鵬藩の藩境で激突しようとしている。攻め入ろうとしている師武軍に対して、費閑軍は藩境の砦を簡易ながら強化し、それに拠って迎撃する構えを見せた。

 『国慶め!所詮は自惚れているだけの男よ』

 すでに師武は費閑の方に斎国慶がいることを知っていた。斎国慶は自分に甘言をもって近づいてきたくせに、今は費閑に協力している。斎烈と斎国仲を擁している自分への当てつけかと思う反面、

 『国慶は費閑軍を内部から崩壊させようとしているのかもしれない』

 と斎国慶は費閑を欺こうとしているのではないかという期待も持っていた。

 ともかくも師武としては攻める他ない。軍容を整えると、師武は総攻撃を命じた。

 師武軍は大将軍の私兵に相応しい猛攻を加えた。これに対して費閑軍は砦に拠ってよく防ぎ、戦線は膠着していた。

 決め手を欠いていたのは師武軍であった。費閑軍は守勢に徹すれば良いのに対して、師武軍は時には猛攻し、時には工夫を凝らして攻め続けなければならない。猛攻をしては兵は疲れ、工夫を凝らしても費閑軍に決定的な打撃を与えることができなかった。

 「なんとかせねばなるまい」

 師武は焦れながらも、良き作戦が思いつかずにいた。

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