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七国春秋  作者: 弥生遼
栄華の坂
573/962

栄華の坂~51~

 自領に引きこもっていた師武は助けを求めてきた雷銀を快く迎えた。師武は好機であると感じた。

 『今の状況であるならば、争う相手はあくまでも費閑だ。費閑如きが軍を率いても我の敵ではない』

 雷頗を助けたのは費閑の私兵である。斎幽からは国軍編成の勅命は出ておらず、師武がいまだ大将軍である以上、費閑は斎国軍として動いているわけではない。要するにここで師武が兵を起こして費閑を討ったとしても私闘になる。私闘であるならば勝ちさえすれば、いくらでも後付けで費閑の非を鳴らして賊にすることができる。

 『費閑さえおらねば私に逆らう者などおらぬ』

 今の師武は斎烈と斎国仲を擁しており、斎国慶も好意を寄せてくれている。斎幽の後継者選びも師武の思いのままになるだろう。決断した師武は早速に斎烈と斎国仲に会った。二人の公子は師武の領地にある別邸で不自由のない快適な生活を送っていた。

 「慶師での状況は申し上げました通りです。今こそ費閑を討ち、お二人には慶師に帰っていただくための露払いをしたいと思います」

 師武の軍中に二人の公子がいるとなれば軍の士気もあがるだろう。勅許も得られず、斎国慶に好かぬと言われた費閑は独力で戦わねばならなくなる。

 「大将軍の言わんとするところは分かる。しかし、丞相が文や国慶を担ぎ出してくるかもしれんぞ」

 斎烈が懸念を示した。こちらに斎烈と斎国仲がいるとなれば、費閑は慶師にいる斎文や斎国慶を軍中に入れ、軍の士気を高めて自己の正当性を塗り固めようとするのではないか。その懸念は師武にもあった。

 「費閑が思っているほど国慶様は費閑に気を許してはいないようです。万が一にもそうなった場合は諸共に討てばよいのです」

 戦うと決めた以上、師武の腹は座っていた。

 「しかし、大将軍。今は主上の勅命が出ていないが、これより出る可能性もあるだろう。そうなれば我らは賊軍となるぞ」

 次に懸念を口にしたのは斎国仲であった。この二人は威勢のいいことを言っておきながら、いざとなれば気弱になっている。師武は情けなく思いながらも反駁した。

 「今回の雷鵬領の件、費閑は勅命ではなく私兵を使っております。そしてこちらも雷銀殿を助けるために私兵を出撃されるのです。そうなればこれは私と費閑の私闘となります。勅命により仲裁されることがあっても、一方を国軍とすることはないでしょう」

 もしそうなった場合は、公子のどちらかから綸旨を出させればいい。あえて口にはしなかったが、師武はそのぐらい腹が座っていた。

 「お二人とも、覚悟をお決めください。ここで立たねば永久に公子から嫡子にはなれませんぞ」

 師武がそう言うと、渋々という感じで頷いた。師武は一抹の不安を感じながらも、いざとなればこの二人を切り捨てて斎国慶を擁立すればいいと考えていた。


 師武は約千名の兵士を率いて雷鵬藩へと出撃した。陣中には雷銀は勿論、斎烈と斎国仲もいる。師武は道すがら通過する藩主や領主に、

 「丞相は私的に兵を起こして雷頗に味方している。しかし、我らには公子がお二方もおられる。どちらが正義であるか童でも分かるだろう。斎国の正義を信じる者は迷わず我に味方せよ」

 と密かに語り掛け、味方を増やそうとした。多くの藩主や領主は、師武の言を信じた。公子が二人もいるということもそうだが、今回の費閑の挙兵はあきらかにやりすぎであった。そもそもいくら丞相であったとしても、他家の家督争いに勝手に介入し、国主である斎幽の許可なしに兵を動かすのは斎国の秩序を乱すものであった。先に佐谷明が美堂藩の介入しようとした時も、結果的に失敗してしまったが、やはり世間的には批判の誹りを受けることとなった。ましてや費閑は丞相である、場所は慶師から近い雷鵬領である。眉をしかめる者は佐谷明の時の比ではなかった。師武に呼応する領主や藩主は増え、雷鵬藩に近くなる頃には総兵数は三千名に達しようとしていた。


 焦ったのは費閑であった。雷銀を追ったことで雷頗への義理を果たしと満足していた費閑にとって、雷銀が師武のところへ逃げたのは寝耳に水であった。しかも師武が二人の公子を擁立するように出撃してくるとは想像もしていなかった。

 『こうなれば主上の勅許を得て、師武を賊軍にするしかない』

 費閑は慌てふためきながら斎慶宮に上って斎幽の勅許を得ようとした。しかし、斎幽は頷かなかった。

 「そもそもは丞相が勝手に私兵を動かしたのであろう。丞相を賊軍とせず、大将軍のみを賊軍とするのはいささか不公平ではないか」

 斎幽は尤もなことを言った。費閑としては反論することができず、臍を噛むだけであった。

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