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七国春秋  作者: 弥生遼
栄華の坂
565/962

栄華の坂~43~

 条元はすかさず迎撃態勢を整えた。今度は条元自身も甲冑を着て軍勢を指揮することになった。

 「俺にとっての初陣だな」

 兵車に乗り南下する条元は驚くぐらい緊張もせず平静でいられた。

 「兄貴は昔から肝っ玉が太いからな」

 隣に立つのは弟の条春。彼はすでに実戦経験をしていた。

 「商売の投機の方がよほど度胸がいる。それで敵の戦力は?」

 「およそ五百とのことです」

 「我らは戦力は四百。わずかに劣るか」

 どう戦うか。すでに条元には絵図面があった。敵は自分を仇敵として攻めてくるのである。それを利用しない手はなかった。

 「では、兄貴。俺はここで」

 「おう。上手くやってくれよ」

 条元の乗る兵車が停まり、条春は並走していた隣の兵車に乗り込んだ。条春は後続する兵車隊を率いて隊列を離れていった。

 条元は残った兵力を率いてそのまま南下し、藩境で迎撃の陣を敷いた。街道から少し離れた平原である。どこから来ても敵をすぐに発見できる場所であった。

 二日後、近甲藩の軍勢が姿を見せた。条元は自ら先陣に兵車を進めた。すると敵陣からも一乗の兵車が進み出てきた。

 「おお、不忠義者の条元よ。よくも恐れずに戦場に来れたな」

 その兵車に乗っていたのは佐谷明であった。忘れもしない仇敵の顔である。

 「久しいな、佐谷明。道昇の屋敷でのこと、忘れたわけではあるまいな」

 二つの兵車は会話できるまでの距離になった。条元が言葉を返すと、佐谷明は難しい顔をしてから思い出したかのように目を見開いた。

 「そういえばそうであったな。こうして顔を合わせるのも奇縁というべきかな」

 「よい縁ではないな、お互いに」

 「あの時、お前をしてみていれば箕政も藩の実権を奪われることはなかっただろうな」

 「それをいうのであれば、あの時お前を殺していれば、近甲藩は平穏な良き藩となったものを。暗愚な男が藩主となって近甲藩も可哀そうなものだ。」

 条元はせせら笑った。佐谷明の顔が真っ赤になるのが分かった。

 「おのれ、言わせておけば!」

 「私のことを不忠義者というのであれば、何ら罪のない弟君を殺害した貴様は何者か!外道にも劣る行いではないか!」

 そうであろう近甲藩の諸氏よ、と条元は良く通る声で言い放った。近甲藩の軍勢にわずかながらもざわめきが生まれた。

 「五月蠅い!この場で殺してくれよう!」

 佐谷明は御者から手綱を奪い、兵車を発進させた。

 「やれやれ。俺は猪を相手にするつもりはないぞ」

 条元は兵車を後退させた。佐谷明が猪突したことにより、近甲藩軍の全軍が引きずられるようにして突進してきた。これに対して条元は軍勢の後退を命じた。

 「見よや。所詮は商人ずれだ。戦場での勇気はないと思う」

 追え追え、と佐谷明は叱咤した。近甲藩の軍勢は脇目もふらず美堂藩内部へと侵攻していった。しかし、美堂藩軍の後姿を追うだけで、なかなか追いつけずにいた。

 「殿、少々深入りしているようですが……」

 佐谷明の兵車に牙診が乗る兵車が寄ってきた。すでに兵車が自在に動ける平原を過ぎ、林道に入っていた。

 「ふむ。このまま進むと何処へ出る?」

 「このままですと、堂上に辿り着きます」

 「ならばそのまま堂上に突入しよう。そうなれば話は早い」

 「しかし……」

 牙診が何事か言うとした時であった。後背が騒がしくなった。兵車の車輪の音だけではなく、兵士の悲鳴のような声も聞こえてきた。

 「どうかしたか!」

 「背後が襲われているようです!」

 後続する兵車から危機を告げる叫び声があがった。

 「ちっ!深入りし過ぎたか!」

 佐谷明は自身の兵車を反転させるように命じた。そこへ追いかけていたはずの条元の部隊が戻ってきた。

 「挟み撃ちだと!謀られたか!」

 佐谷明はようやく条元に嵌められたことに気が付いた。佐谷明を藩内部に深く誘引し、別動隊の条春が後尾を襲うというものであった。近甲藩軍は混乱に陥った。

 

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