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七国春秋  作者: 弥生遼
栄華の坂
563/962

栄華の坂~41~

 その男は条元の予想通り、条元のもとを訪ねてきた。条元は待ってましたとばかりに、その男を屋敷に引き入れた。

 「久しぶりだな、符憲。そろそろお前が来ると思っていたぞ」

 「流石は条元殿だな。まんまと美堂藩を掌中にしただけのことはある」

 男とは談符憲であった。佐谷明が藩主となれば、佐干甫を保護する談符憲が条元を頼ってくるだろうことは目に見えていた。

 「それならばどうして俺がここに来たかも分かっているのだろうな」

 「当然だ。俺も符憲のことを待っていた。で、干甫殿はどうなのだ?」

 佐干甫は佐険征の三男である。妾の子であったが佐険征から愛されていたため、佐谷明よって藩主屋敷から追放されていた。以後、心ある家臣によって匿われており、談符憲もその一人であった。

 「谷明は干甫様を追放されたが、命まで奪っていない。今になってそのことを気にかけ、干甫様の身柄を捜させている。よろしくない状況だ」

 だから条元を頼ってきたのだ。条元としても佐谷明に復讐するためには佐干甫はどうしても必要な存在であった。

 「皆まで言うまい。干甫様を保護してくれ。そして谷明を討ち、干甫様を藩主にして欲しい」

 頼む、と談符憲は頭を下げた。条元としてもそのつもりであったので、頭を上げるように促した。

 「言っただろう。俺もお前のことを待っていたのだ。俺もそのつもりでいる。しかし、俺も今や美堂藩の家宰。単に慈善事業として近甲藩を助けるわけにはいかない」

 条元自身が何事か利益を得たいわけではない。近甲藩と事を構えるにあたり、目に見えてわかる利がないと動かない者も家中にはいるであろう。そのための餌はどうしても必要であった。

 「事が成就してからのこととなるだろうが、幾分か領地は割こう。これについてはすでに我が同志にも話してある」

 誓文を出してもいい、と談符憲は言ったが、そこまで無用であろうと条元は断った。

 「まだ事がなるかどうかも分からぬことで誓文を貰っていては俺が笑いものになろう。俺と符憲の間で知っていればそれでいい」

 「かたじけない」

 「さて、具体的にどうするかだ。谷明が干甫殿を捜しているとなると急いだ方がいいな」

 「そうだ。大甲で蜂起しろというのであればいつでもできる。そのための準備をしてきたのだから」

 「まぁ、待て。谷明の奴は何を思ったのか美堂藩に攻めてきた。撃退してやったが、また攻めてくるだろう。いや、攻めに越させよう」

 「その隙に蜂起するのか……。よし、大甲に戻って谷明が再度攻めてくるように工作しよう」

 「それについてはいい手がある」

 条元は談符憲に耳打ちした。談符憲は合点がいったように手を打った。飛び出すように帰っていった談符憲を見送った条元は、条春を呼び軍勢を整えるように命じた。


 一度は撃退された佐谷明であったが、美堂藩を攻め取ることを諦めたわけではなかった。

 「やはり大義が必要であろう。そうすれば堂々と攻め入ることができるし、美堂藩を動揺させることもできる」

 佐谷明は牙診を呼び出して要談した。

 「大義が美堂藩の外にありますな」

 牙診がいう大義とは慶師に暮らす箕政のことであった。箕政は事実上、美堂藩が条元に乗っ取られているにも関わらず、まだ呑気に慶師での暮らしを謳歌している。

 「実に間抜けな藩主だ。助けてやる価値もないが、利用はさせてもらおう」

 佐谷明は慶師に早馬を飛ばした。箕政に美堂藩が条元に乗っ取られていることを告げ、軍勢を差し出すから美堂藩に戻るように促す書状を箕政に送り付けた。

 書状は素直に箕政に渡った。美堂藩の実権を握ってからも条元は慶師にいる箕政に資金を送り続け藩主として扱ってきた。しかし、藩政について伺いを立てることはなくなり、条隆を伺候させることも控えさせていた。そのことを箕政は佐谷明からの書状を受け取るまで気が付いていなかった。

 「そういうば条元からの書状も来なくなっていたな」

 金は送り続けてくるのでまるで疑っていなかった箕政は、それでもまだ事態の重要性を理解していなかった。

 「佐殿の乗っ取りというのは言い過ぎであろう。どれ、大甲藩の新藩主就任を祝うついでに久しぶりに堂上に帰るか」

 物見遊山気分で慶師を立った箕政は先に大甲藩へ向かうことにした。この選択があるいは箕政という男の藩主を誤らせたことになったのだろうが、条元からするとまさに狙い通りの展開となっていた。

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