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七国春秋  作者: 弥生遼
栄華の坂
553/959

栄華の坂~31~

 明成に不穏な動きがあり。

 その情報は多方面から原望共に寄せられた。主な情報源は条元であったが、念のために間者を雇って調べさせても、明成が兵士となる人を集め、武具を買い求めているのは明らかであった。

 「我が商会にも武具の調達を依頼しております。我が弟が家宰殿に取り入って得た情報によりますと、狙いは原様のようです」

 「ふん。そんなに私が恐ろしいのか。まさか明成に武具を渡しておらぬだろうな」

 「勿論でございます。我らは原様と心を一つにしております故」

 「信じてはやるつもりでいるが、見える形でその忠心を示してくれればありがたい」

 「我が弟が家宰殿の言いつけで集めている武具をそのまま原様にご提供いたしましょう」

 「それはありがたい」

 「ですが、それでは足りませぬ。家宰殿は今や美堂藩で最も力を持っておられます。座しておれば先を越されてやられてしまいましょう。ここは他の家臣の皆様と与力して、御屋形様をお守りせねばなりません」

 「明成が決起する前に潰せというのか?」

 左様です、と条元は鋭く言った。流石に原望共は緊張しているようであった。

 「できるか?」

 「できましょう。御屋形様は今や家宰殿を嫌い、原様を信頼されております。原様が家宰殿を討つと申され、他の宿老達が賛同すれば成功致しましょう」

 「では、謝家は私についてきてくれるということだな」

 条元は無言で頷いた。当然ながら今回のことを舅には話していないが、明成に与することはないだろう。

 「御屋形様には私から申しましょう。家中の人間ではない私が言えば御屋形様も信用致しましょう。原様は藤様と丁様をこちらに引き入れてください」

 「うむ、そうだな。あの二人も明成の風下に着くのを潔しとしないはずだ」

 「お急ぎを。家宰殿がいつ痺れを切らすか分かりませぬ」

 「そうだな。そっちも早速に動いてくれ」

 原望共はすでに立ち上がっていた。今すぐにでも藤氏か丁氏を説得に行きそうな勢いであった。


 条元は早速に箕政を尋ねた。今や条元は単なる出入りの商人ではなく、箕政が絶大な信頼を置く家臣のようになっていた。当然これには謝玄逸の娘婿であるという部分が大きかった。

 「何!明成が謀反を企んでいると!」

 明成を嫌っている箕政であっても、まさか謀反まで行おうとしているなど夢にも思っていなかったであろう。

 「間違いなく。家宰殿は御子を慶師に留学させることに反対しており、ならばいっそうのこと御屋形様を排して御子を新たな藩主にしようと考えておられるのです」

 御子は知らぬことですが、と条元は付け加えた。

 「信じられぬと言いたいが、徳の留学は反対された」

 「御子の教育方針は御屋形様が決められること。それを家宰とはいえ家臣が口を出している時点で僭越と言うものではないでしょうか?」

 「確かに」

 「それに我が弟によりますと、明成は武具をかき集め、人を集めているようです。今の美堂藩で外敵に備える必要はありません。その矛先は明白と言うべきではないでしょうか」

 箕政の顔色が変わった。条元の言葉を正論として認めた証であった。

 「ど、どうすればいい?条元」

 「実はこのことをいち早く察した原様が御屋形様をお守りするために準備を進めております。陰ながら我が商会のご協力しております」

 「ま、まことか?」

 「はい。あとは御屋形様が原様にご下命されるだけです」

 ご決断を、と条元が迫ると、箕政は一瞬言葉に詰まった。が、冷静になって考えてみた。箕政としては何かと五月蠅い明成を疎ましく思っていた。しかも明家がなくなれば、その分、箕政が好きにできる金銭が増えるのである。排除するには一世一代の好機であろう。

 「原を呼べ」

 箕政は決断した。


 箕政からの呼び出しがあると原望共は勇んで駆けつけた。この時を待っていたのだ。

 『条元、首尾よくやってくれたか』

 原望共もあの後すぐに藤可と丁徴のもとを訪れ、箕政からのお達しだとして明成を討つ協力を取り付けていた。彼らも家宰となって我が物顔で箕家の家政を取り仕切る明成を快く思っていなかった。

 「望共よ。すべては条元より聞いた。明成がわしを廃して藩の実権を握ろうとしている。主命として明成を討て」

 「承知いたしました。すでに藤氏、丁氏も同心しており、御屋形様の下命をお待ちしておりました」

 「それは心強い。すぐにでも討て」

 「承知しました」

 箕政の下命に原望共は恭しく受命した。条元は隣室でそのやり取りを聞きほくそ笑んでいた。

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