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七国春秋  作者: 弥生遼
栄華の坂
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栄華の坂~18~

 「なんとかならんものか?」

 謝玄逸は条元に面会すると、箕政と同じようなことを言った。貴人というものは他者に任せることが仕事だと思っているのかもしれない。箕政が謝玄逸に任せるのは主従の関係として当然であるかもしれないが、謝玄逸と条元の関係はそうではない。出入りの金貸しと顧客に過ぎないのである。その商人に政治的な要件を頼むというのは異様としか言い様がなかった。しかし、それは条元の望んだことでもあった。

 「もしお望みであれば資金の工面は引き受けましょう。またご当家に主上からの下命が下るように運動することも可能かもしれません」

 「まことか?」

 「はい。我が弟が定期的に慶師で商いをしており、斎慶宮のお歴々の中に知己もおりますので」

 これは事実であった。白竜商会の顧客名簿の中には斎慶宮に詰めている公族貴族も少なくない。璧湖に離宮を建築する件も条隆がそれらの者達から聞き出したものであった。

 「ほう。これは心強い」

 「しかし、問題がこざいます」

 「問題とな?」

 「資金を貸し付けるにあたっての担保です」

 条元が言うと謝玄逸は酢を飲んだ顔になった。担保のことなど考えていなかったと言わんばかりの表情である。

 『まさか無条件で五千万銀も借りられると思っていたのか……』

 条元としては呆れる思いであった。

 「担保と言っても、五千万銀に相当する担保など、我が藩にあろうはずがないではないか」

 「では、諦めていただくしかございませんな」

 「それも困る」

 ここで諦めてもらっても条元としても困る。条元は思案する風にして時間をあけてから切り出した。

 「ひとつ良き担保がございます」

 「それは何か?」

 「美堂藩の通行税です」

 謝玄逸は口を開いた。絶句と言わんばかりである。

 「驚かれることありますまい。五千万銀といえば、小さな領であれば数年分の収入となりましょう」

 条元は簡単な試算を出した。元金と利息を計算すれば、美堂藩の五年間の通行税を担保にしてもらう必要があった。

 「それは無理だ。通行税こそ我が藩の要。そう簡単に渡せるものではない。そのようなことをすれば、他の諸氏が黙っていない。その辺の事情、条元殿もご存じであろう」

 謝玄逸のいう事情とは、美堂藩の収入源と関連していた。

 美堂藩には藩主箕家の下に有力な五家があった。謝家、明家、原家、藤家、丁家であり、この五家が文武ともに箕家と美堂藩を支えていた。しかし、支配地域が狭い美堂藩は、その五家に分け与えるほどの土地を持っていない。そこで美堂藩最大の収入源である通行税を分配することで土地の代わりとしていた。要するに美堂藩の通行税とは、単なる藩の公的な収入というだけではなく、五家にとっての収入源でもあった。

 「通行税を担保にするとなると、当然他の家の商人を得なければならない。そんなことができるはずがなかろう」

 「それではやはり諦めていただくしかありませんな」

 それで私はこれで、と席を立ちかけた条元に対し、謝玄逸も立ち上がった。

 「待った。私の一存ではなんともならん。とりあえず御屋形様に申し上げる」

 「左様ですか。しかしお急ぎください。時間が過ぎれば、他の諸侯が手を上げるやもしれませんから」

 分かっておる、と応じた謝玄逸は、条元が去ればすぐに箕政に拝謁するだろう。すでに彼らの動きは条元の掌の上にあった。


 「そのように言っていたか、条元は」

 条元の予想通り、条元が辞すると謝玄逸はすぐに箕政に伺候した。流石に箕政も通行税を担保にするなどと聞けば璧の柱の件も諦めるだろうと謝玄逸は思っていたのが、話を終えても箕政は否定の言葉を吐かなかった。それどころか満更でもないと言わんばかりの顔つきをしていた。

 謝玄逸としても斎公からの下命という名誉が欲しい。しかし、それが同時に美堂藩の財政を条元に取られるようであれば意味がなかった。謝玄逸としては箕政が拒否をすればそれで仕舞いだと考えていた。

 「御屋形様……。通行税を担保にするなど前代未聞です。それにそのようなことをすれば五家も反対しましょう」

 勿論、謝玄逸も美堂藩五家の一家である。貴重な収入源である通行税を担保などにできるはずもなかった。

 「しかし……」

 「冷静にお考え下さい。たとえ白竜商会から五千万銀を借りたとしても、そのような大金をどのように返すというのですか?確実に通行税を担保に取られます」

 「分かっておるわ」

 と言いながらも、箕政は目を漂わせていた。まだ諦めていないことは明らかであった。

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