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七国春秋  作者: 弥生遼
蒼天の雲
522/962

蒼天の雲~69~

 一連の斎国の動乱が集結して一年後、樹弘は各国の国主に会盟の開催を呼びかけた。議題は義王が長年不在であったことを再確認し、今後どうするかというものであった。各国主は会盟の開催を快諾し、会盟の地である界畿に集結した。

 まずは無主の地となった界国をどうするかであった。この一年間は、泉国の管理下におかれ、相宗如将軍が駐屯して治安の維持に努めていた。

 「ここで自警団と長老達を中心とした民衆による自治に任せた方がいいのではないかと考えているんだけど、どうだろうか?」

 樹弘は界国を自らの領土に組み込むことを避けた。おそらくはそうしたところで非難する国主はいないであろう。今回の樹弘の功績はそれに相応しいものであった。しかし、樹弘は界国領を得ようとは当初から考えていなかった。

 ひとつは界国の民心のことを考えてのことであった。彼らは長きに渡り義王の臣民であるという誇りを胸に抱いて生きてきた。そんな彼らが泉国の国主の支配を喜んで受け入れるだろうかという疑念が樹弘にあった。

 もうひとつは界国は泉国から見て遠地である。支配するにしても難しいという実利的な側面も樹弘の考えの中にはあった。

 「よろしいのではないでしょうか」

 真っ先に印公である章季が賛成した。他の国主の賛意を示した。ちなみに各国国主の中で静公のみ幼少であるため、代理として丞相の比無忌が参加していた。

 その後、内乱で疲弊した斎国に対してどのような援助をするかなどが話し合われ、大よその結論が出たところで、龍公が手を挙げた。

 「どうかしましたか?龍公」

 「この会盟を機に申しておきたいことがございます。以下申し上げることは、泉公を除くここにいる者達の総意と思っていただきたい」

 「私を除いて?」

 樹弘は多少の不快さを感じた。自分に内密に何事が話をまとめられていたというのは良い気がしなかった。

 「すでに義王の血脈が数百年前より絶えていたことが白日の下に晒されました。本来であるならば中原の民心はどうようするところですが、今のところそのようなことは各国とも起こっておりません。その理由は明白です。中原の動乱を治め、秩序を取り戻した力強き覇者がおられたからです。言うまでもありません、泉公、あなたのことです」

 龍公の言葉を樹弘は黙って聞いていた。なるほど、自分のことだから内密に話していたのかと妙な感心をしていた。

 「すでに泉公が現在の覇者であることもまた明白です。そこで我らはさらなる中原の安寧のためにも、泉公におかれましては義王に代わり王になっていただきたいと考えております」

 なるほどそういうことか、と樹弘は密かに得心した。自分を覇者であると思っていない樹弘にとって、さらに一歩踏み出した王への即位などまるで考えられなかった。

 「皆さんのお考えは分かりました。しかし、私の王になるつもりなど毛頭ない。今もこれからもです」

 樹弘は即答した。おそらくは樹弘の返答を予期していたのか、龍公達は格別に反応を示さなかった。

 「それよりも私としては数年に一度でも良いからこうして会盟を開きたいと思う。謂わばここにいる全員が須らく王であるという認識で中原を治めていきたいと考えている。それでどうだろうか?」

 覇者同然の泉公に言われれば、各国国主も頷かざるを得なかった。

 こうして四年に一度、界畿において各国国主による会盟が開かれることになるのであった。それは樹弘の孫である樹佑が樹王に即位するまで続くのであった。

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