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七国春秋  作者: 弥生遼
蒼天の雲
514/962

蒼天の雲~61~

 尊毅は全軍をもって泉公を迎え撃たんとして慶師を発った。今回は戦力分散を避けた。

 『泉公さえ倒せば奴らの結束も乱れる』

 尊毅はそのように考え、西側から来る敵は完全に無視することにした。そのため夷西藩を出て一路慶師を目指していた少洪覇軍は、龍国極国翼国の連合軍と無事に合流することができた。三国連合軍の総大将は龍公―青籍。極国からは譜天、翼国からは羽綜が将軍として参加していた。

 「少洪覇殿、よくぞこれまで戦ってこられました。感服いたします」

 青籍は代表して少洪覇のこれまでの戦いぶりを称賛した。

 「かたじけないことです」

 少洪覇は涙を流しながら拝手した。まだ条公が健在の時から斎治のために戦ってきた少洪覇は、これまで他者から称賛されることも認められることも少なかった。それだけに青籍の言葉は少洪覇の骨の髄まで染み込んでいった。

 「さて、我らは泉公の号令に応じて来たわけだが、斎国国内は不慣れだ。ぜひとも少殿に道案内をお願いしたい」

 青籍は、この壮大な連合軍の先陣を少洪覇に任せてくれたのだ。

 「はっ!お任せあれ!」

 青籍の意図を汲み取った少洪覇は力強い語気で返事した。


 界畿を発った樹弘軍は斎国へと進路を向けた。これに先行している文可達の部隊はすでに斎国の地を踏んでいた。

 「さてさて、これよりは我らにとっては未開の地だが、軍師殿にとっては久しぶりの帰国というわけですかな」

 文可達は隣で地図を見ている劉六に言った。

 「いずれ帰ってくるつもりではいましたが、こんな形とは思っていませんでしたよ」

 劉六は照れ臭そうに笑った。未だに医者を本分としている劉六からすると、軍師と呼ばれることはどうにも慣れずにいた。

 「斥候の報告では尊毅は全軍で向かってくるようだが……」

 文可達は決戦の地を早く想定しておきたかった。尊毅よりも先にその地にたどり着き、陣地を構えることこそが戦勝をより確実にするのは戦の鉄則であった。

 「それならばここでしょう。願水という地です」

 劉六が地図に朱色で丸をつけた。ここより一舎ほどの距離にある平原であるが、北側には山系があった。

 「なるほど。この山系に陣を敷けば敵を見下ろせますな。ここで主上の軍を待ちましょう」

 「左様です。主上の軍が到着するよりも先に尊毅軍と戦闘が開かれることになるでしょうが、地形を巧みに利用すれば、我らだけでも十分に戦えます」

 「ふむ。了解した。そのための軍師殿だ。よろしく指示をお頼み申す」

 文可達は進軍を急がせた。


 尊毅も予定戦場を劉六と同じ願水に想定していた。

 「この高台を取れば、いくら泉公が大軍とは言え、我らの方が有利になる」

 尊毅は急ぎ進軍した。しかし、尊毅軍が到着した頃にはすでに文可達の部隊が占拠していた。

 「くそっ!してやられたのか!」

 悔しがる尊毅であったが、よくよく調べさせると、占拠している部隊は少数であるらしい。

 『攻め取るか』

 泉公の大軍が来るまでに山系の敵軍を蹴散らしてしまおう。そう判断した尊毅は多少の損害を承知の上で山系の敵を攻め始めた。

 三日三晩。尊毅軍はほぼ不休で攻め続けた。敵軍は地の利を活かして、尊毅軍に損害を与えながら陣地を死守し続けてきたが、四日目の早朝には支えきれなくなったようで撤退していった。

 「追う必要はない。今は陣地の構築が先だ」

 泉公本軍との戦いが待っている。犠牲を払って得た優位な地を維持し、堅牢な陣地を構築すべきであった。

 『泉公の狙いは俺を倒すことだ。ここを無視して慶師に行くこともあるまい』

 ここで長く籠城戦のような戦いをして泉公軍の疲弊を待つという戦法もありだと思いつつも、やはり武人として爽快な形で敵軍を撃破してみたかった。どちらにしろ、この山系に陣取っている限りは、戦術的な優位を得たのも同然であった。

 しかし、そこに劉六の悪辣な罠があることを尊毅はまだ気づいていなかった。

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