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七国春秋  作者: 弥生遼
蒼天の雲
484/962

蒼天の雲~31~

 翌々日の未明、尊毅は真夜中にもかかわらず慶師にある屋敷に兵を集めた。その数は二百名。今の斎慶宮を制圧するには十分な戦力であった。

 「これより斎慶宮に行き、主上の身柄を拘束する。すでに佐導甫殿には丞相府の制圧をお願いしている」

 集まったのは尊家歴代の家臣達ばかりである。尊毅が戦場で死ねと言えば死ぬであろうし、国主に弓引けと命じれば率先して行う者達であった。

 「主上は我が殿によって国主の座についたにも関わらず、静国と結び、殿を排しようとしてる。これを座視していては我らの未来もない。殿を信じて行動すべし」

 項史直が続けて兵士達を煽った。そして剣を抜き、自ら先頭に立って斎慶宮に向かった。

 斎慶宮までの道程、そして斎慶宮においても尊毅達を阻む者はなかった。今の慶師において尊毅に逆らう気骨をもった武人などおらず、項史直が先頭に立っていれば、進んで道を開けた。

 わずかに斎策の周辺を守る者達は、斎策が国主となる以前から仕えていた者達であり、流石に彼らは微弱ながらも抵抗をした。

 それでも斎慶宮を制圧するのに時間はかからず、明け方には寝所で休んでいた斎策を拘禁することに成功した。

 その報告を受けた尊毅は早速に斎策と面会した。寝巻姿の斎策は普段と変わらぬ表情で寝台に腰かけていた。

 「私を国主に擁立しておいて、意のままにならぬと分からると早速に廃するか。節操のないことだ」

 斎策は初めて尊毅に批判らしきことを言った。今となっては耳に入れても痛くない言葉であった。

 「何とでも言えばいい。俺はすでに世間的に言う大罪を犯してきた。今更お前を追放したところで痛くもかゆくもない」

 尊毅は本心でそう思っていた。いずれは国主にならんと願っていた身である。大罪を犯さずして宿願が果たせるとも思っていなかった。

 「もともと乞われて国主となった身だ。年老いてもいる。地位に執着などしないが、斎家の人間としてはこれからの斎国の行く末が気になる。尊毅よ、これからこの国をどうするのだ?」

 「知れたことよ。俺が国主となるのだ」

 尊毅は斎策を斎慶宮から追放したことを公然と発表した。同時に丞相であった坊忠も、斎策を唆して静国と結ぼうとしたという罪を被せ、自裁させた。

 翌日、佐導甫を代表とする武人達が尊毅に国主になるように歎願した。尊毅はこれを一度拒否し、佐導甫達は再度推挙した。

 「皆さまがそこまで言うのなら、微力ながら我が国主となろう」

 尊毅は諸侯の武人達に乞われる形で国主の座についた。こうして名実ともに尊毅は斎国の主となったのであった。

 

 尊毅が国主となったことで朝堂の人事も一新された。尊毅は丞相を置かず、六官の卿も実務面に精通した役人を登用するに留め、政治面ではほぼ独裁を敷く形となった。軍事については今回の斎策追放劇で功績のあった佐導甫を大将軍とし、誼を通じている赤崔心が左大将となった。

 尊毅からすれば自分が国主となること即ち国家のためであり、斎国の各地を支配している諸侯達も喜んでいるであろうと思っていた。しかし、流石にというべきか、今回の斎策追放劇と尊毅の国主就任は評判が悪かった。

 「結局。尊毅は自分が国主とならんがために条高を討ち、斎治を追放し、斎策をも追放した。その節操のなさは条元にも劣る」

 ある諸侯などは家臣に対して公然と尊毅に対する批判を漏らし、かつて尊毅に力を貸したことを悔いる者もいた。 

 武人ですら尊毅に対してそのような批判を漏らすのだから、慶師の民衆達はさらに痛烈に尊毅に負の感情を抱くようになっていた。

 尊毅が国主になった翌日、慶師の辻々にこのような落書が貼られていた。


 旧主を討ち 迎えた主も気に入らず

 自分が国主にならなければ 尊貴な武人も損気損気と人はいう


 当然ながら損気、尊貴を尊毅とかけており、明らかに条高を討ち、斎治と斎策を武力で追った尊貴に対する批判であった。

 「気に病むことはない。所詮は力なきものの遠吠えだ」

 尊貴は悠然として構えていた。彼が今一番気にしているのは静国の動静だけであった。

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