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七国春秋  作者: 弥生遼
蒼天の雲
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蒼天の雲~13~

 斎治は苦り切っていた。義王の声かかりによる会盟ならば、どの国主も尊毅討伐に賛成し、そのまま帯同した軍勢で討伐軍が編成されるものだと思っていた。

 しかし、いざ会盟が始まると、小国の国主達は遠回しに義軍に参加することを拒み、大国の一角である泉公は堂々と拒否した。

 『自国さえ良ければいいというのか!尊毅に勝るとも劣らぬ悪漢よ!』

 斎公は自説を述べる泉公を睨みながら心の中で悪態をついた。

 尊毅によって原初の七国の真主の家系である斎家が国から追い出されたのである。その不正義を正すことこそが中原にある国家の責務ではないのか。

 『所詮は庶民から出た国主よ。中原の理屈が分からぬのだ』

 斎治は泉公を低く見ることで何とか溜飲が下げた。中原の正義などと理解しない国主が参加したところで、義軍の気品は剥落するであろうし、役に立たぬであろう。斎治はそう何度も何度も密かに念じた。

 「では、翼公の存念をお聞きしたい」

 静公が翼公に話を向けた。期待できるのはこの二人であると斎治は思っていた。

 「ふむ……余としても不参加を表明するな」

 翼公は斎治など最初から眼中にないように静公を見ていた。それでも斎治は黙ってはいられなかった。

 「翼公!貴方までも、そのようなことを仰るのですか!」

 「ふん、斎公。尊毅のことを不正義不正義と言うが、何が不正義というのか。貴方は語らなかったが、委細は承知している。国主となってからの貴方自身の行いは、正義というに相応しいというのかね?」

 「……」

 「そうではあるまいよな?人民のことは蔑ろにし、真の功労者を評せず、阿る者達を重用した。もし斎公に正義があるのなら、何故国を追い出される?何故ついてきた者がたった二人の従者なのだ?それは誰も斎公に正義と徳を認めていないからはないか?」

 翼公の言葉は手厳しいどころではなかった。糾弾であると言ってよかった。斎治はすぐに反論できなかった。翼公の言うことの全ては身に覚えのあることであった。

 「翼公、それまでにされよ。ここは斎公を責める場所ではない」

 界公が翼公を窘めた。翼公は黙礼して口を閉じた。

 「それで静公はいかにお考えですか?」

 翼公が何も言わぬので泉公が訊ねた。

 「俺か?俺は義軍を募り、尊毅を討つべきと思っているがね」

 静公は即答した。実に静公らしいと斎治は頼もしく思えた。

 「おっと、勘違いしないでもらいたいな。基本的には俺も泉公や翼公と考えは同じだ。自国の利益の方が優先であるし、斎公が言うほどに正義を信じているわけじゃない」

 静公は釘を刺すように言った。斎治は項垂れるしかなかった。

 「それでも尊毅討つべしと思っているのは、隣国である俺達に迷惑がかかるかもしれないからだ。とは言え、俺も俺だけでやるつもりはない。少なくとも二国、三国合同でやらねば意味がない」

 静公が翼公と泉公を見た。静公としてはこの二人が動かない限り、自分も動かないつもりであろう。

 『この二人をどうにしかしないといけないのか……』

 こうなれば恥じも外聞も捨てねばなるまい。斎治は土下座してでも両名に参加してもらわなければならなかったが、夕刻になったので界公が本日の散会を宣言してしまった。


 第一日目の会盟を終えた樹弘は、すぐに宿営地に戻った。甲元亀、景蒼葉、そして章季にも同席してもらい、会盟の内容を漏らすことなく話した。

 「ということですが、元亀様はどうお考えですか?僕は翼公が反対するとは少し意外だったんですが……」

 「ふむ。いや、儂からすると流石は翼公と思っております」

 「どういうことですか?」

 「翼公があえて反対されたのは、義王の命令で会盟が主催され、それで尊毅討伐の義軍が編成されるのが嫌だからでしょうな。もしそうなれば、会盟の主は義王もしくは界公となります。中原の覇者を目指す翼公からすると、面白くないのは当然でありましょう」

 樹弘は甲元亀の分析に舌を巻いた。翼公がそこまで考えていたとは想像もできなかった。

 「翼公は本当にそこまでお考えなのでしょうか?」

 章季は翼公の人となりをそこまで知らない。疑問に思うのは当然だが、樹弘からするとさもありなんと思えた。

 「さて、それは儂の憶測ですからな。しかし、最初から尊毅討伐など論外と思っているのなら龍公、極公を従えて会盟には参加しないでありましょう」

 「元亀様の仰る通りでしょう。だが、翼公は一人ではやるつもりはないようです」

 「当然でありましょうな。翼公としては各国主を従えたいのですから。少なくとも主上と静公は加えたいと思っているはずです」

 「それは困ったなぁ」

 明日以降、どうやって乗り切ろうかと考えていると、景弱が天幕に入ってきた。

 「主上、御来客ですが、どういたしましょう?」

 「誰?」

 翼公や静公だったら嫌だな、と思っていると、景弱は意外な人物の名前を告げた。

 「斎公です。ぜひ主上にお目にかかりたいと……」

 樹弘は甲元亀を見た。甲元亀は黙して頷いた。

 「会いましょう。ここに通してください」

 どういうつもりで会いに来たいのだろうか。樹弘は多少の興味をもって斎公に会うことにした。

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