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七国春秋  作者: 弥生遼
蒼天の雲
462/959

蒼天の雲~9~

 印公との待ち合わせをしている貴輝でも樹弘は住民達の歓迎を受けた。その歓迎の輪の向こうに先に到着していた印公ー章季が待っていた。

 「泉公、お久しぶりです」

 章季は住民達の群れをかき分けて来た樹弘に対して拝手した。

 「印公におかれましても健康そうでなによりです」

 章季が印公となって二年ほど経つ。すっかりと印公としての立ち居振る舞いが板についていた。形通りの挨拶を終えた樹弘と章季は官製の宿舎に落ち着いた。

 「樹弘様、改めてお礼申し上げます。私が印公としてやっていられるのもすべて樹弘様のおかげでございます」

 章季が印公に就任した際、樹弘はそのために尽力していた。その後も影に日向に章季と印国のために樹弘は援助を惜しんでいなかった。

 「僕の力なんて微々たるものですよ」

 「ふふ、そういう言い方。樹弘様らいいですね」

 章季は口に手を当てて笑った。その仕草は泉国にいた頃と変わりなかった。

 「でも、章季さんが会盟に参加するとは思っていませんでした。印国から界国は遠いですし、まだ国もかつての落ち着きを取り戻したとは言い切れないのに……」

 「大丈夫ですわ。私の不在中に不逞を行う輩がおれば、帰ってきてから始末してやります」

 章季は笑顔で随分と過激なことを言った。そういうところは彼女の芯の強さと、国主らしさが備わってきていた。

 「それに久しく姉さんに会ってみたいと思ったんです」

 章季は声を潜めた。彼女の姉である章理の遺髪は泉春で眠っていた。

 「これから向かうわけにはいきませんから、帰りに泉春に立ち寄りたいと思っています。よろしいですか?」

 「構いませんよ。いつでもお越しください」

 ありがとうございます、と章季は礼を言った。

 樹弘と章季は夕食を共にし、翌日、界国に向かって出発した。


 樹弘と章季はゆるゆると界国への旅路を進めた。泉国から界国に入るには翼国か静国を経由するしかない。前回は翼国を経由したが、今回は貴輝に寄ったため静国を経由することにした。

 「蒼葉。吉野へ使者を出してくれ。まだ静公が出発されていないようだったら、一緒に参りましょうと」

 「承知しました」

 樹弘の使者が静国の国都吉野へと発った。使者は三日後に帰ってきた。静公ではなく丞相である比無忌からの書状を携えていた。

 『すでに我が主は界畿に向かっております。急げば追いつけるかもしれません』

 比無忌からの書状の内容はそのようなものであった。樹弘はその書状をもって章季を訪ねてどうするか相談した。

 「急ぐ旅でもありませんからゆっくりと参ればいいかと思います」

 樹弘としても章季と同意見だったので、静公を追うことなく進路を西へと向けた。


 樹弘が泉春を発って一か月。ようやく界国国内に入った。樹弘からすると二度目の界国である。

 「今回、会盟に参加したのは私のことを義王に認めていただくためでもあるんです」

 界国に入り、章季がやや興奮気味に言った。樹弘も泉公に即位した後、界公を通じて義王に国主として認めてもらっていた。

 「すでに今の印国に勅使が来た時点で、義王は章季さんを国主として認めたことになるんでしょうけど……そういえば神器を持ってきましたか?」

 今回、会盟に参加する各国主には各国に伝わっている神器を持ってくるように指示されていた。樹弘も泉国の神器である『泉姫の剣』を傍に置いていた。

 「持ってきています」

 「触れてみましたか?」

 「はい」

 神器は国主しか触れることができない。泉国の『泉姫の剣』の場合は認められた真主しか鞘から抜くことができず、翼国の『破天の弓』の場合は真主しか弦を弾くことができなかった。

 「どうでした?」

 「触れると青白く光りました。祭官が言うのはそれこそが真主の証のようです」

 「そうですか。それはよかった」

 「よかったのでしょうか?」

 「それはそうですよ。僕は国主が真主である必要はないと思っていますが、真主であるならばそちらの方がいいと思っています」

 国主に必要なのは真主であるかどうかではなく、臣下を信用し、国民を愛せるかどうかだと考えている。しかし、真主であることで国が落ち着くのであればそれに越したことはないとも考えていた。

 「樹弘様のそういう御心構え、見習いたいと思います」

 章季が目を輝かしながら言った。その眼差しは姉である章理によく似ていた。

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