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七国春秋  作者: 弥生遼
蒼天の雲
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蒼天の雲~8~

 公妃樹朱麗が休んでいる寝室に入ると、彼女は長椅子に座りながら来客と談笑していた。

 「あら、あなた。朝議は終わりましたか?」

 樹朱麗のお腹はあまり目立っていない。しかし、主治医の僑秋によるとお腹の子供は順調に育っているらしい。樹朱麗も時折つわりに悩まされているようだが、至って元気であった。

 「主上、ご無沙汰しております」

 樹朱麗と談笑していた来客は甲元亀であった。丞相である甲朱関の祖父であり、樹朱麗からすれば親のような存在であり、樹弘からすれば師のような存在であった。樹弘が泉公となってからは大蔵卿を務めていたが、数年前に引退していた。それでも度々泉春宮に遊びに来ていた。

 「元亀様、お元気そうでなによりです」

 政界から引退してしばらく経つが、甲元亀はまだまだ元気そうだった。

 「ほほ、初孫が生まれるまでは死んでも死に切れませんからな」

 「初孫って、朱関がいるじゃないですか」

 「そうでしたな。はは、失礼失礼」

 樹朱麗の指摘に甲元亀は闊達に笑った。樹弘は樹朱麗の隣に座った。

 「それで会盟についてはどうなりましたか?」

 樹朱麗にはすでに義王からの使者とその内容について知らせていた。

 「行くことにした。斎国の問題に関わるにしても関わらぬにしても、行って他の国主達と意見を交わし、僕達の立場をはっきりと宣言した方がいいと思ってね」

 「それがよろしいかと思います」

 「だからしばらく留守にするよ。身重なのに申し訳ないと思うけど」

 「私なら大丈夫ですわ。国のことはお任せして、安心していってらっしゃいませ」

 「朱麗は無理しないでね。そうそう、そのことで実は元亀様にお願いがあるのです」

 「ほう。この老躯に何用ですかな?」

 「僕の相談役として界畿まで同行して欲しいのです。色々と考えたのですが、どうにも元亀様以外に適任が見つからなかったのです」

 甲元亀は目を丸くしていた。そのようなことを言われると思っていなかったのだろう。

 「儂に頼まずとも朱関がおりましょう」

 「私が丞相をしていた時に、国主と丞相が一緒に国を離れるわけにはいかないと言ったのは元亀様ですよ」

 樹朱麗がまた意地悪く指摘すると、甲元亀はばつが悪そうに顔をしかめた。

 「しかし、他にも適任がおりましょう」

 「少なくとも僕の中では元亀様以上の適任者は見当たらないんです。見識が豊かで、各国の政情にも通じている。そして何よりも時間が沢山おありだ」

 やれやれ、と観念したように甲元亀はため息をついた。

 「最後のご奉仕は済んだと思ったんだがな……」

 「生まれてくる初孫のためにもお願いします」

 樹弘が頭を下げた。こうなると甲元亀としても断り切れるはずがなかった。

 「頭をお上げください、主上。分かりました。老躯ですが、人肌脱ぎましょう」

 「助かります」

 こうして樹弘は甲元亀を顧問官に就任させ、界畿へと出発する準備を始めた。会盟には軍を帯同させるのが習わしになっており、樹弘は五百名連れて行くことにした。

 「もっと連れて行った方がようのではないですか?」

 軍務卿の蘆明が進言したが、樹弘は即座に首を振った。

 「戦をしに行くわけじゃないから、これでいいよ。指揮するのも景弱に任せる。そろそろ一軍を指揮してもいい頃だ」

 甲元亀、景弱の他には秘書官として景蒼葉を連れて行くことにした。会盟に向けた準備がほぼ完了し、数日中には出発するという時になって新たな同行者が加わることが判明した。

 「印公より書状が来た。僕達と一緒に行きたいらしい。僕としては異存がないから、景弱と打ち合わせて、段取りして欲しい」

 樹弘は景蒼葉に指示をした。印国は泉国から見れば海を隔てた東側にある島国である。界国に行くには泉国か龍国あるいは翼国に上陸する必要がある。印公からすると馴染みのある泉国の方を通る方がいいのだろう。樹弘としても久しぶりに印公に会ってみたかった。

 「承知しました。合流するのは貴輝でよろしいでしょうか」

 「そうだね、任せるよ」

 任されます、と景蒼葉は笑った。樹弘からすると、会盟の内容よりも、久しぶりに各国の国主と会えることが何よりも楽しみであった。

 準備を終えた樹弘は、ひとまずは貴輝へと向かった。道中、樹弘は立ち寄った邑で住民達の歓待を受けた。その歓迎ぶりは熱烈なもので、どの邑でも樹弘の到着を今か今かと門前で住民達が待ち構えているほどであった。中原広しと言えども、これほど国民に愛された君主はいなかったであろう。

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