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七国春秋  作者: 弥生遼
泰平の階
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泰平の階~130~

 時をおかずして新莽は烏道軍が襲撃されたことを知った。

 「烏道め!役に立たんどころか、足を引っ張りやがる」

 新莽は烏道軍への救援を断念せざるを得なかった。目の前にはすでに佐導甫軍がいる。そのさらに向こうには尊毅軍が進みつつあるはずであった。烏道軍の救援は少洪覇に任せる他なかった。

 そこへさらに凶報がもたらされた。尊毅軍によって和氏の軍が敗れ、和芳喜と和長九が戦死したというまさに凶報であった。

 「馬鹿な……」

 和親子の戦死についてはまだ確認できなかったが、和氏の軍が敗れたというのは、知らせてきたのが和氏軍の敗残兵であるから間違いないだろう。彼らは和氏の軍が尊毅軍に包囲される寸前に、和芳喜の命令によって脱出していた。和芳喜は、ここで敗れる無念と新莽に後事を託す言葉を兵士に与えていた。

 「和親子の死は武人としての本懐であろうよ」

 新莽はそう言って敗走してきた兵士達を労った。表向き武人としての度量を示して余裕を見せつけたが、内心には焦りがあった。

 『和氏の戦力をなくしてどう戦うか?』

 和氏の戦力が消滅した以上、新莽自身の兵力と少洪覇軍しかない。壊滅寸前にまで追いやられた烏道軍など端からあてにしていなかった。一方で尊毅軍は大軍をもって佐導甫軍と合流するであろう。そうなれば数での不利はもはや免れなかった。

 さらに新莽を悩ませていたのは烏道軍を壊滅させた部隊の存在であった。集められた情報を総合すれば、尊毅軍の別動隊であることには間違いないが、どれほどの規模で誰が指揮しているのかなどまるで分かっていなかった。

 「相当数の別動隊がどこかに潜んでいるとみるべきでしょう。斥候をより広範囲に出しますか?」

 普段は威勢のいい魏介も慎重になっていた。

 「そうだな……」

 別動隊がどれほどの規模であれ、尊毅軍との戦闘中に後背を襲われては厄介である。尊毅軍と事を構える前に見つけ出して倒しくておく必要はあるだろう。しかし、時間を浪費してむざむざと尊毅軍と佐導甫軍の合流を許してしまう恐れもあった。

 『どうにも後手後手に回っている』

 意気揚々と慶師を出撃したが、どうにも敵に先手を取られていた。

 「いや、佐導甫軍の殲滅を優先させよう。後方の警戒は少洪覇殿に任せて、我らは前進しよう」

 新莽は迷いを捨てた。そのおかげで尊毅軍が合流する前の佐導甫軍を捕らえることができた。

 「かかれ!尊毅の目の前に佐導甫の首を晒してやろう!」

 魏介が先駆けて陣を構える佐導甫軍に突撃した。これに対して佐導甫は徹底した防御を命じた。

 「耐えろ!一日二日すれば尊毅殿が駆けつけるぞ!」

 佐導甫としても正念場であった。ここで撤退しては武人としての名前が廃る。佐導甫は守りを固めて新莽軍の猛攻をしのぎ切ろうとした。自然と激戦となり、一進一退の攻防が続いた。

 特に先陣を行く魏介の猛攻は凄まじく、何度も佐導甫は本陣において自ら剣を取らなければならなくなった。

 それでも佐導甫は凌ぎ切った。もはや執念と言ってよく、尊毅と合流するのに十分な時間を稼ぐことができた。会敵から三日後、尊毅軍がようやく戦場に到着した。戦局の形勢は一気に佐導甫、尊毅軍に傾いた。

 「お待たせしました、佐導甫殿」

 「おお、尊毅将軍。なんとか耐え抜きましたぞ」

 「妹が少洪覇をけん引しているようです。あとは我らにお任せください」

 尊毅は佐導甫軍を後方に下げ、自らが新莽と対峙した。かつて条公に仕えた両雄が戦場で初めて相見えた。

 尊毅軍が戦場に到着したことで新莽は不利となった。しかし、新莽軍の士気は衰えることなく、寧ろ高まった。

 「兵数の不利がなんであろう!尊毅が戦場に到着したとなれば、これを討てばいいではいないか!それでこの戦は終わる」

 新莽軍の士気を高める象徴となったのは魏介であった。この新莽の甥は、戦場に立って味方を鼓舞するにはまさに最適な武人であった。

 魏介に働きによって前線では新莽軍が優勢となっていた。しかし、それは僅かな時間であった。後方が戦闘していた少洪覇軍が激戦の末に敗走し、尊夏燐軍が新莽軍の後背に進出してきたのであった。

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