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七国春秋  作者: 弥生遼
泰平の階
445/964

泰平の階~125~

 新莽軍の慶師来着は斎治達を勇気づけた。

 「本来であるならば主上のご命令なく大軍を動かすわけにはいかないというのは承知しております。しかし、今の主上の窮状を見ておりますと居ても立ってもおられなくなり、こうして参上した次第です」

 家重代の鎧に身を包み、恭しく膝をついて頭を下げる新莽はまさに救世主であった。新莽は右将軍という尊毅に次ぐ高位であるし、栄倉を猛攻して陥落した猛将である。尊毅に対する主将としてはこれ以上の人材はいなかった。

 「よくぞ来てくれた、新莽よ。そなたならきっと馳せ参じてくれると思っていたぞ」

 斎治は涙を流して新莽の来援を喜んだ。斎興と費俊が亡くなり、北定と阿望に去られた斎治にとっては、自らの意思で駆けつけてくれた新莽の存在は貴重であった。

 「勿体ないお言葉でございます」

 「只今より尊毅の左将軍の位をはく奪し、新莽に与える。各地の諸侯に尊毅討伐の宣旨を下す故、速やかに軍を編成し、尊毅を討つのだ」

 斎治は新莽に刀を下した。新莽は両手で受領すると押し頂いた。この時こそが新莽の絶頂期であり、我が世の春を迎えていた。


 尊毅討伐の綸旨はすぐに各地に送られた。呼応して軍を動かしたのは少洪覇、和芳喜などであったが、赤崔心や佐導甫は応じる気配もなく、逆に綸旨を持った勅使を追い返したという情報もあった。

 「赤崔心と佐導甫は尊毅に与するつもりか……」

 慶師を出発し、諸侯の軍を待つ新莽は戦略の練り直しを迫られていた。当初の予定では赤崔心や佐導甫などの慶師にほど近い場所にいる諸侯の軍を糾合し、尊毅の領地を攻めることを考えていた。そうなれば尊毅は栄倉を出るしかなく、空き家同然となった栄倉に和芳喜の軍が入城するというものであった。

 しかし、赤崔心と佐導甫が尊毅側についたとなると、この構想が崩れる。しかも、確実に新莽に与力してくれるであろう和芳喜と少洪覇の領地は遠い。これらの軍を待っていては、尊毅軍に逆撃されてしまう。

 「南方の和芳喜殿には南から栄倉を脅かしてもらうしかありません。我らは少洪覇殿と合流し、尊毅が合流する前に赤崔心、佐導甫を討つべきでしょう」

 斎興に恩のある魏介は、復讐戦となる今回の戦いに並々ならぬ闘志を燃やしていた。

 「ふむ……」

 新莽もそれしかないと考えていた。しかし、他の諸侯の旗色が鮮明になっておらず、彼らの動向も気がかりであった。

 「殿、他の諸侯のことを気になさっておられますか?日和見しているような連中など戦力になりません。主上に真なる忠誠を誓う者達だけが信用できます。我らだけでやりましょう。一戦し勝利すれば、それらの連中も挙って殿の下に馳せ参じるでしょう」

 魏介のいうことは尤もであろう。ここは速やかに一戦して勝利を天下に喧伝すべきであった。新莽が出陣を命じようとすると、伝令兵が駆け込んできた。

 「烏道殿が来援されました」

 伝令兵がそう告げると、魏介があからさまに舌打ちをした。烏道は慶師近くに領地を持っていたが、すぐに参陣の意思を表示しなかったので無視をしていた。

 「烏道は最初の決起の時は躊躇い、先の戦いではなかなか旗色を鮮明せず、尊毅に脅されてようやく立ち上がったような男です。あまりあてになさらぬ方がいいでしょう」

 「そう言うな、魏介。今は烏道の戦力も貴重だ。烏道殿に伝えよ。本陣に来るに及ばず。速やかに軍を発し、佐導甫の近甲藩を目指せと」

 尊毅と合流する前に佐導甫を討ち、この勝利を天下に示して諸侯の信望を集める。新莽の戦略は固まった。


 新莽の標的とされた佐導甫もまた出陣の準備をしていた。当然、尊毅に与力するためであった。

 尊毅討伐の綸旨を持った使者が大甲に来た時、佐導甫は彼らと面会し、丁重にもてなした。しかし、綸旨については拝領することを拒否した。

 「尊毅殿は今や斎国の重職にあり、武人達の信望を一身に集めておられます。これを易々と討てというのは正気の沙汰とは思えませぬ。もし主上が左将軍に疑念があるならば、然るべき第三者に調査をさせたうえでご裁可するべきでしょう。この綸旨は尊毅に対して対抗心ある者が主上を煽って出されたものとしか思えませぬ。この国の真の泰平を望む私としては承服しかねます」

 佐導甫は尤もらしい言葉を並べたが、すでに心は斎治から離れ、尊毅に寄せていた。

 『主上では武人はまとめられない。尊毅殿こそこの国を治めるのに相応しい』

 佐導甫は懇切に言葉を並べ、使者を帰した。そしてその舌の根が乾かぬうちに軍の準備をさせたのであった。

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