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七国春秋  作者: 弥生遼
泰平の階
346/962

泰平の階~26~

 安平より斎治捕縛の報が栄倉に届くと、条守全は条高に謁した。

 「前回の蜂起未遂の時は、斎公は無関係であると押し切られましたが、今回は慶師を脱出した以上、無関係というわけにはいきません。如何処分すべでありましょうか?」

 条守全は条高に問うた。珍しく条高は絵を描いておらず、目を閉じていた。思案しているようであり、居眠りしているようでもあった。

 「何かしらの処罰はすべきでしょうが、あまり重い処分ですと、騒ぐ者もおりましょうし、義王や界公も黙っていないでしょう」

 条高が何も言わないので、円洞が意見を述べた。初代条公は、国号を斎国から条国に変える時、義王と界公に多額の献金をして認めさせた。その時界公から、斎公の血脈を絶やさないことを条件にさせられた。それが長年にわたり、条国において斎公の系譜が絶えなかった理由でもあった。

 「死罪はならんだろう。余は極力血を見たくない」

 条高が口を開いた。

 「御意にございます」

 「だからと言って、咎めなしというわけにもいかんだろう。条公としての示しがつかなくなる」

 「そうなれば、流刑が妥当でしょう」

 円洞が言った。条守全も流刑しかあるまいと思っていた。

 「流刑となれば、場所が問題となってきます」

 条守全の頭にはいくつか候補地があった。いずれも栄倉に近く、監視が行き届く場所であった。

 「哭島がよかろう」

 条高は事も無げに言った。その場所は条守全の候補の中に入っていなかった。

 「主上、流石にあそこは……」

 哭島は条国南部にある孤島である。半日もあれば徒歩で一周できる小島で、最も重い流刑地とされてきた。島周辺の海は波が荒く、慣れた水主でないと対岸に渡ることができないと言われており、脱出はほぼ不可能とされていた。実際に哭島で失意のうちに亡くなった流刑者は少なくなかった。

 「あそこの波はさぞ美しいと聞く。斎公の無聊を慰めるのに良いだろう」

 「しかし……」

 条守全は円洞に視線を送った。円洞は無言で小さくを首を振った。こうなれば相手が円洞であっても耳を貸さないのが条高であった。

 「流刑地に関しては承知いたしましたが、一時的な預け先と哭島までの護衛はいかがいたしましょう。現在は烏道殿が保護しておりますが、どう致しましょう」

 すでに条守全は、烏道に対して赤崔心討伐に出陣した新莽に与力せよと命令してある。通常であるならば罪人の護衛について条高に伺いを立てる様なことはしないのだが、相手が相手だけに気をつけねばならなかった。

 「佐導甫がよかろう」

 条高は即答した。これについては良い人選であると条守全は思った。佐導甫は条高と昵懇の仲であると同時に斎治とも誼がある。条高を裏切るような真似はしないであろうし、道中に斎治が不快感を抱くこともないだろう。

 「では、そのように致します」

 「斎公を捕縛したとなれば、乱もそう長くは続くまい。そうなれば少し旅でもして絵を描きたいものだ」

 条高はふと遠い目をして独り言ちた。


 烏林藩で捕縛された斎治達は、条高の指示により近甲藩へと護送された。ちょうどその頃には藩主である佐導甫も戻ってきており、斎治達を快く受け入れてくれた。

 『このような形で斎公をお迎えするとは思っておりませんでしたが、決して不快な真似は致しません。心置きなくお寛ぎください』

 佐導甫を噂に違わぬ男であった。斎治に対して同情心はあるようで、わざわざ自分の別邸を清掃して、そこに斎治達を狩りの住処として提供してくれたのである。しかも衣服は真新しいものを用意してくれ、食事も豪勢とは言わないまでも、貴人が食すには恥ずかしくない程度の料理を用意してくれた。

 さらに大甲に潜伏していた費俊や、斎治捕縛の情報を聞きつけて大甲に戻ってきた北定への面会も佐導甫は許してくれた。これについては難色を示した家臣もいたが、佐導甫はこう言い切ったという。

 『条公がどのようなご裁可を下すか分からないが、彼ら主従にとっては最後の対面になるかもしれないのだ。それを許さぬなどというのはあまりにも情けがなさすぎるではないか』

 佐導甫からすれば、条高に何か言われても自分なら大丈夫という自負はあったし、何よりも武人として非情なことを座視できない性分があった。


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