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七国春秋  作者: 弥生遼
寂寞の海
310/963

寂寞の海~47~

 洛鵬から船出した章理達は南判島という島に上陸した。南判島は印国本土の南西にあり、対岸には本土が見える距離にある。

 島国である印国には本島以外にも領土として付属する島は多く、その数は大小合わせて五十以上になるという。しかし、実際に人が住んでいるのは本土を除けば十島しかなく、南判島はその中でも最大の島であった。

 南判島に上陸したのは、章海の動きを様子見する意味もあったが、実はこの島には章友軍の残党が身を寄せていた。謂わば、反章海派の一大拠点であり、彼らこそ章理の帰還を心から待っていた。

 「お待ちしておりました、章理様」

 出迎えたのは左文忠。彼が反章海派の人々をまとめていた。

 「泉公から食料と武具を頂戴した。すぐに荷揚げして、管理するように」

 章理が命じると、左文忠は少し嬉しそうに気色を改めた。従うべき主君の出現がやはり嬉しいのだろう。

 「はい。ただちに」

 「それでこの島にはどれほどの戦力があるか?」

 「およそ五百です」

 「五百か……」

 章理は失望を隠さなかった。この程度の兵力では章海軍に勝つのは難しいだろう。

 「しかし、本土には裴包殿が二百名ほどの兵力をもって雌伏しております」

 左文忠は力説するが、それでも国軍と正面切って戦うには不足している戦力であった。

 『こうなれば甲朱関殿に教えてもらったことを実践するしかない。奇兵によって敵を翻弄する』

 章理には考えがあった。その考えを左文忠に披露すると、彼を手を打って賛同した。

 「流石章理様です。いや、これで我らの前途も晴れやかになりました」

 左文忠は調子いいことを言うが、決して前途は晴れやかなどではなかった。章理が考えた作戦は、あくまでも博打の要素が大きく、しかも完全に勝利する確率がかなり低い博打であった。


 一方で鑑京の章海は松顔を処罰した後は、延臣達に対して寛大な態度を示した。聡明な彼は、感情に任せて松顔を殺したことを今になって後悔していた。国家の重職にある者を主君が処罰することほど、延臣に恐怖を与えることはない。延臣達が主君に向ける恐怖心こそが国家の亀裂を生む。それが歴史の教えるところであることを章海は当然ながら知っていた。

 『今はしっかりと内政を整えなければ……』

 と考えていた矢先、どうやら章理が泉国を出たという情報がもたらされた。

 「章理め。松顔の死を混乱と見て、付け込んできたな」

 ただ泉公からの戦力の援助はどうやらないらしい。それだけは章海を安堵させた。

 「泉公は噂に違わぬ賢人らしい。他国の内乱に付け込むことがどれほど危険か承知しているようだ」

 章海はあえて大度を示した。ここは延臣達を動揺させないためにも余裕を見せておく必要があった。もし泉公が大軍を繰り出した来たとなれば、章海の方がどこかの国に亡命するしかなかった。

 「しかし、章理が旗頭となると少々厄介です」

 と口を開いたのは銀芳であった。松顔が死んだことにより、丞相の地位は一時的に空位としたが、軍にまつわる職だけはそうもいかなかったので、銀芳が大きく引き上げられた。事実上、軍権の最高位は銀芳となっていた。

 「勿論だ。章理は現在、南判島に寄っているという。ここを攻めるのは難しい」

 南判島が反対勢力の拠点となっているのは章海も承知いていた。しかし、攻めるには軍船がいるし、何よりも上陸地点が限られているので、上陸作戦を立てるのに苦慮していた。

 「これは寧ろ奇貨ではないか」

 章海はそう考えた。章理という旗頭を得たことで反対勢力は本土に攻めてくるであろう。そこで待ち受けて一気に倒してしまおうというのが章海の考えであった。

 「そうなると、何処が上陸地点になるかです」

 銀芳が地図を広げた。本土以外の諸島を合わせた印国全土の詳細な地形が描かれていた。

 「当然、南鑑近郊であろう」

 常識的に考えれば南鑑近郊しか考えられなかった。南判島からもっとも近い邑は南鑑であり、印国南部にはまだ章海に心服していない勢力が跋扈している。章理ならばそれらを糾合することができるだろう。

 「では、南部に軍を展開致しましょう。僭越ながら私が行って参ります」

 「うむ」

 銀芳では少々不安であったが、だからと言って章海自身が鑑京を離れるつもりはなかった。松顔との一件で、表向きは延臣に対して穏やかに接していたが、心の内では疑心暗鬼を消すことはできなかった。

 「頼むぞ、銀芳。章理を屠ってこい」

 章海は銀芳に三千名の兵を授けて討伐に向かわせた。

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