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七国春秋  作者: 弥生遼
寂寞の海
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寂寞の海~3~

 敏達と柳祝の結婚式の翌日、樹弘は正式に伯国の完全併合を布告した。旧伯国の領土は国主の直轄地となり、引き続き敏達が代官として行政を行うことになった。

 衛環での仕事と式典を終えた樹弘は長居することなく泉春に帰ることにした。泉春にも残された仕事は多い。

 道中、桃厘に行くという紅蘭と旅路を共にした。紅蘭はやはり遠慮せずに樹弘の馬車に乗り込み、警護を担当する景弱は顔をしかめたが、樹弘も紅蘭もまるで構わなかった。

 馬車の中で樹弘は紅蘭の商売について色々と聞き出し、各国の情報などをお互いに交換していたのだが、何日も行動を共にしているうちにそのような話のネタもなくなり、ただの雑談をする機会が増えてきた。その雑談が敏達と柳祝の婚儀の話になると、唐突に紅蘭が切り出してきた。

 「それで実際どうなんだ?」

 「何が?」

 「我らが主上の婚儀の話だよ。お前、立場上いつまでも独身というわけにはいかないだろう。なぁ?」

 紅蘭が樹弘の隣に座る景蒼葉に同意を求めた。

 「まったくそのとおりです」

 紅蘭に対して景弱のような警戒感のない景蒼葉は、笑いながら同意を示した。

 「なんだよ、蒼葉まで……」

 「良い人はいないのか?」

 「いないよ。政務で忙しいからそれどころじゃない」

 「はぁ、蒼葉姉さんを含めて見目麗しい女性が泉春には多くいるだろうし、情けない話だ」

 余計なお世話だ、と樹弘はそっぽを向いた。

 「じゃあ、紅蘭さんが立候補されては?」

 「私?私か……満更じゃないけど、私も今は商売の方が楽しいからなぁ。蒼葉姉さんはどうなの?」

 「私はあくまでも主上にお仕えする立場ですから。それに私が主上といい仲になったなんて知られたら、朱麗姉さんに斬られてしまいます」

 女二人は笑い声をあげた。何か言ったところで反論されることを知っている樹弘は黙って無視することにした。だが、自分の婚儀の話は避けて通れない問題なのだという強い自覚は常に持っていた。


 桃厘で紅蘭と別れた樹弘は、そのまま寄り道せずに泉春へと帰着した。すぐさま景朱麗をはじめとした閣僚を集め、伯国の完全併合を報告した。

 「お疲れ様でございました、主上。しばらくはお休みされてはいかがでしょうか?」

 景朱麗が閣僚を代表して言うと、大蔵卿の甲元亀がすっと手を挙げた。

 「それにつきましては私のところに少々面白い話がきております」

 「面白い話?」

 「はい。実は私の古くからの友人が印国におりまして、実は主上宛に招待状が届いておりました」

 景朱麗が怪訝な顔をした。きっと彼女も知らぬことなのだろう。

 「印国の国主である章穂様が来月、誕生日を迎えられ、式典が行われます」

 「そういえばその手の招待状は毎年来ていたな。確か使者を派遣するだけにしておいたはずだが」

 樹弘は思い出した。どうしてここでわざわざ話題に出すのだろう、と樹弘は思った。

 「左様です。しかし、今年は参加させてみてはどうかと思うのです。尤も、政務などと肩ひじ張らず、慰労の旅行とされればよろしいのです」

 「ふむ……」

 樹弘は考えた。国主として休むということにある程度の引け目を感じている樹弘であったが、この話には心動かされた。印国は海を挟んでいるとはいえ隣国である。印国についてあまり知らず、この目で見ておきたいという願望が湧きおこってきた。

 「朱麗さんはどう思います?」

 「よろしいことかと思います。印国は景勝地も多く、有名な温泉もあると聞きます。ご静養にはちょうどよいかもしれません」

 私も同行致します、と景朱麗が言うと、甲元亀が駄目だと言わんばかりに手を振った。

 「丞相。国主と丞相が同時に国を開けるわけにはいきません。今回は私が同行致します」

 「元亀様……」

 「大蔵卿の仕事は岱夏に代行させます。私も年ですからな、久しぶりに湯につからせてくだされ」

 すでに岱夏には話が通っているようで、同意するように頷いた。景朱麗は納得がいかない様子であったが、甲元亀の言葉には理があったので反論できなかった。

 「そこまでお膳立てされたら行かないわけにはいかないな。同行するのは元亀様と蒼葉、黄鈴、景弱だけでいい。朱麗さんには申し訳ないが、留守をお願いします」

 「……はい」

 景朱麗は力なく頷いた。

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