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七国春秋  作者: 弥生遼
寂寞の海
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寂寞の海~1~

 海が黒い。

 中原において北面した海などどこにでもあろう。しかし、これほど海が黒々となるのはここしかないと言われている。ある学者などはこの近辺に生息している特殊な海中生物のせいであると主張していた。

 そうではあるまい、と思うのである。

 そもそもここは年中通して雨の日か厚い雲が広がる日が多く、太陽が現れる日が極端に少ない。そこに日中の日照時間の短さが加われば、海中の生物などがまともに生きていけるはずがなかった。

 ならばこの黒さは死骸の塊だ。

 そうに違いない。

 死骸の塊が群れを成し、海面、海中と犇めき合っているのだ。

 ならばこの光景を眺める自分は何であるか。

 生者は自分しかいない。残りは死者でしかない。

 そう考えると、例えようがない孤独を感じた。

 我、一人か。

 振り返ると誰もいない。供の者も遠慮しているのか、視界から消えていた。

 我はここだ。

 叫んでみても、応えは返ってこないだろう。そのことを知っていた。人生というものを振り返ってみた時、いつもそうであった。自分が叫び叫び続けても、応えてくれる者はいなかった。ただの一人を除いては。

 孤独ならばそれでいい。信じられるのは自分。自分の身を信じるのみだ。

 ここに来るたびに決意が固くなる。今までもその決意で生きてきたではないか、と自らを鼓舞した。

 また決意が鈍ればここに来ればいい。黒い海はいつでも自分を歓迎してくれる。

 海に背を向け歩き出した。海に替わって目に入ってきたのは荒野であった。

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