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七国春秋  作者: 弥生遼
漂泊の翼
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漂泊の翼~42~

 朝議の場で楽成に論駁されてから楽宣施は外征のことは言わなくなった。しかし、腹の底では、

 『戦をせねばならない』

 と思い続けていた。それだけではなく、楽成のことを疎ましく思うようになっていた。

 『俺は国主だぞ。国主の俺に逆らうとは……』

 楽成がいたからこそ国主になれたという事実を忘れて、楽成を憎むようになっていた。そして挙句には、

 『楽成は俺を殺して国主の座を狙っているのでないか?だから外征を反対したのか。いや、乗や登を呼び戻した俺を国主の座から追い落とすつもりかもしれない』

 楽宣施の感情は悪い方向に歪んでいった。もはや楽成のことを猜疑の目でしか見られなくなっていた。

 だが、楽宣施が向ける猜疑はあながち疑惑だけではなかった。事実、楽成は楽宣施を国主の座から下ろすべきではないかと考えていた。

 「やはり今上は翼国の国主に相応しくない。排して登様から乗様を迎えるべきではないか?」

 武人である楽成は愚直に過ぎた。元来、こういう陰謀は人を選び、秘して進めなければならないのだが、楽成は率直に厳虎に打ち明けてしまった。楽成からすれば、一緒に楽宣施を主上としたのだから、肝胆相照らす仲であると思っていた。

 『それはまずい……』

 楽成から秘事を打ち明けられた厳虎は動揺した。楽宣施を国主にしたことで現在の地位を得た厳虎は、楽宣施を排することが即ち自らの失墜に繋がることを知っていた。楽氏の血筋と将兵の支持を得ている楽成とは基盤が違っていた。

 「そのように焦らずともよろしいではないですか?主上はひとまず思い留まられたのですから」

 厳虎はそのように言って楽成を宥める一方で、楽成を排除する方策を真剣に考えなければならなくなっていた。

 政治基盤が貧弱で、軍事的背景を持っていない厳虎が打てる手はそれほど多くなかった。ひとつの方法として、楽宣施の口から楽成を排斥される手がある。楽宣施が楽成のことを疎んじ始めていることからしても、有効な手段かもしれなかった。

 『しかし、背後に軍事力があると、追い詰められると何をされるか分からん』

 仮に楽成を禁軍将軍の座から追放すれば、配下の武人達が反発して軍事的に抵抗される可能性がある。そうなると楽宣施とはいえひとたまりもないだろう。

 『こうなれば、刺客を送って抹殺するしかない……』

 厳虎にはそれを実行する手があった。かつて融尹が手懐け、楽乗を暗殺しようとした以代が厳虎の配下にいた。

 楽乗の暗殺に失敗した以代は、広鳳に戻ることなく姿をくらましていたのだが、条西と融尹が誅殺されたと知ると広鳳に潜り込み、あたかも最初からそうであったように間諜の一人に成りすましていた。丞相として間諜組織を配下に収めた厳虎は、当然ながら殺人狂として知られた以代の名を見逃すことをしなかった。

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