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七国春秋  作者: 弥生遼
孤龍の碑
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孤龍の碑〜46〜


 炎城の奪還と烏慶の撤退を受けて青籍は龍頭から出撃した。余談ながら龍国の国主が軍を率いて龍頭を出撃したのは有史以来、青籍が始めてであった。

 出陣する前、青籍は神器である飛龍の槍を帯同させるかどうか迷った。大切な神器である。戦闘の最中に紛失してしまったり、敗戦して敵に奪われる可能性も否定できない。青籍が迷っていると龍悠が進言した。

 「それはあなたを認めた神器です。あなたが国主である限りあなたのもとを離れることはありません。それよりも飛龍の槍を陣頭に掲げて真主の誕生を世に広めるのです」

 龍悠の言葉に青籍は納得した。確かに今後のことを考えれば、自分が真主であることを世に喧伝することは悪いことではない。そのことによって極国の民衆の気を削ぐこともできるのではないか。

 しかし、その思惑はやや外れることになる。魏靖朗などは、青籍が真主として国主になったと知って、極国の民衆が離反するのではないかと懸念していた。一部民衆は極国の支配から脱しようと反乱を起こしたが、これは瞬く間に鎮圧して下火となった。多くの極国の民衆は、国主としての極公が民衆のために善政を行っていると知っており、親しみを持っているので反することはほとんどなかった。

 それでも青籍からしてみれば、飛龍の槍の効果は絶大であった。少なくとも龍国の民衆からすれば、英雄的存在である青籍が神器に認められ真主として国主に即位したのである。これほど勇気付けられることはなく、老若男女関係なく軍に入れてもらおうと集まってきた。

 「ありがたい話ですが、あまり兵が多くても統制できなくなるし、農産業に従事する者が減ると国家の経済が疲弊してしまいます。差し当たっては健康な男児のみを徴兵するとしましょう」

 袁干の進言を容れた青籍は、炎城に辿り着くまでに千名近くの兵士を手に入れることができた。これで炎城にいる馬征の部隊を入れてようやく五千の兵力になった。

 

 青籍が真主として国主に即したという報せは、すぐに呉忠達にももたらされた。報告を聞いた呉忠は顔色ひとつ変えるなかった。

 『この方は随分と肝が太い』

 見守る魏靖朗も、民衆への影響は懸念したものの、自分自身については畏れも何も抱かなかった。

 「魏丞相は何も感じないのか?」

 呉忠はあえて尋ねてきた。延臣の中には恐れ戦くものもいるであろうから、それを払拭させようとしていた。

 「私は先代や譜将軍と共に龍国に逆らい国家を興しました。それに臥龍湖を決壊させた罰当たりです。もはや畏れるものなどございません」

 閣僚達からは笑いが漏れた。誰しもがそのとおりだと思いなおしたことであろう。

 「それならば話が早い。余自らが青籍の相手をしよう」

 呉忠は勢いよく席を立った。これには魏靖朗も驚いた。

 「主上自らが行かれることはありますまい……」

 「譜天は困難な役目を背負って翼国に行き、烏慶や赤犀も前線で奮闘している。それに相手の国主が自ら出陣してきたのなら余も出ねば国民から笑われよう」

 呉忠の決意に魏靖朗は感動した。

 『この方こそまさに国主に相応しい大器だ』

 呉忠がそう望むのなら最大限支えていこう。魏靖朗はもはや主人を止めることはしなかった。

 呉忠は自ら軍を率いて極沃を出た。兵数は約八千。こうして龍国と極国との抗争の中で、初めて国主同士が雌雄を決することとなった。

 『翼公の仲介が入る前に一戦して勝利しておけば、我が国の有利になる』

 呉忠はあくまでも翼公からの仲介ありきで戦争の結末を考えていた。それは青籍も同様であった。但し、青籍の場合は二国間で決着できると考えていた。

 青籍が国主となった最大の利点は、青籍の意思によって戦争を終えることができるということであった。かつての龍信や馬求のような障害も無く、政治的な意思を最終的に決定できるのは青籍本人なのである。しかも呉忠とは面識があり、

 『極公となら上手く和平の話ができる』

 という感触を持っていた。だが同時に呉忠が簡単に和平を認めるとも思えなかった。

 『一戦して勝利して、我らの意思を見せつめなければならない』

 そのためにも青籍は炎城に籠もるという選択肢を捨てた。野天において呉忠を迎えんとしていた。

 時は義王朝五四七年二月。青籍と呉忠は決戦に挑まんとしていた。

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