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七国春秋  作者: 弥生遼
孤龍の碑
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孤龍の碑~8~

 四日が過ぎた。龍悠が予測したとおりに龍公から返事が届けられたのだが、その内容は決して青籍と龍悠が満足するものではなかった。

 「丞相への処分は式部卿への降格ですって!これでは意味がありません!」

 先に返書を一読した龍悠は怒りを露わにした。丞相の職は解かれるが、閣僚として宮廷内に残ることになる。馬求が引き続き影響力を及ぼすのは明らかであった。だが、青籍は龍悠ほど憤りを感じなかった。呆れたわけではなく、よく降格という処遇を龍公が決断し、馬求が受け入れたものだと感心するほどであった。

 『それほど龍頭では極国に対する危機感が広がっているということか……』

 自分達では何もできずないくせに危機感だけは一人前にあるらしい。青籍は苦笑するしかなかった。

 「姫様、もうよろしゅうございます。龍頭に参りましょう」

 「青籍……あなたがそれで良いと言うのなら良いのですが、どういう心変わりですか?」

 「心変わりをしたつもりはありません。ただ龍頭の民衆と私の仲間達のために戦おうと思っただけです」

 「その中に私は入っていますか?」

 勿論です、と答えると龍悠は嬉しそうに笑った。


 青籍が龍頭に戻るとなると、霊鳴の人々が見送りに来てくれた。勉強を教えてきた子供達は青籍の周囲に集まり別れを惜しんだ。

 「先生、絶対帰ってきてくださいね」

 范玉は青籍の腕にしがみつき涙を流しながら言った。

 「勿論だよ。それまでちゃんとお祖父さんから勉強を教わるんだぞ」

 范玉が何度も頷いていると、范李が彼女の肩に手を置いて慰めた。

 「范翁、お世話になりました」

 「こちらこそ。先生が来られた日からいずれはこのような時が来ると思っておりました。ここは先生の故郷のようなもの。いつでも帰ってきてください」

 ありがたい言葉であった。帰ってくる時は左遷ではなく、悠然と隠遁するためでありたいと思うばかりであった。

 「先生!」

 范尚が見送り人の群をかき分けて現れた。旅装をしていて、同じような格好をした若者を三人ほど従えていた。

 「先生、ぜひ私どもを龍頭にお連れください」

 范尚が代表するように頭を下げた。

 「それは兵士になりたいということですか?」

 范尚達は頷いた。戦火の届かない田舎でくすぶっていられないという若々しい向上心を持ち得る最後の世代なのだろう。

 「お父さんも先生と一緒に行っちゃうの?」

 范玉がさらに顔を歪めて父親に問うた。

 「そうだ。先生と一緒に行って、国のために働いてくる。仕送りもするから生活も楽になるぞ」

 范玉は理解したのかどうか分からなかったが、それ以上は何も言わずにただ不安そうに范尚を見つめていた。

 「范翁……」

 青籍は困惑するしかなかった。

 「先生、不肖の息子ですがよろしくお願いいたします。尚、先生のご迷惑にならないようにな」

 范李はあっさりと范尚の願いを認めた。

 「よろしいのですか?」

 「多くの若者達が祖国のために戦地に赴いております。霊鳴だけがそれを免れるわけには参りませんし、それが結果として霊鳴を守ることになるのですから」

 「分かりました。お預かりします」

 こうして霊鳴に来た時はただ一人であった青籍は、多くの人々を連れて龍頭に戻ることとなった。

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