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七国春秋  作者: 弥生遼
忠誠の橋
1023/1023

忠誠の橋~33~

 翌朝。条吉の執務室に丞相条宣、刑部卿擁典、そして秘書官長柳甫が集められた。栄倉宮で刃傷に及んだ赤矩に対していかような沙汰を下すか判断するためだった。

 「勅使殿には昨晩、余が詫びを述べてきた。関微至殿は大層お怒りだが、費堯殿は穏便な沙汰をと申されていた」

 まずは条吉が報告をした。やや眠そうな目をしていたが、瞳の奥には怒りが滲んでいるのは間違いなかった。

 続いて条宣が当事者達に行った事情聴取の内容を報告し、刑部卿擁典は宮城における刃傷事件について法的な観点から意見を述べた。

 「宮城における刃傷は我が国でも他国でも当事者達は死罪、御家は取り潰しとなっています。実際の先般の坂李典と洪奸もそのようになっています」

 「問題はそれよ。赤矩の死罪と御家断絶は当然のこととして、喧嘩両成敗として覚央にも同様の仕置きを下すかどうかだ」

 「喧嘩両成敗となれば覚央様も死罪となります」

 それは酷だな、と条吉は言う。

 「ですが、宮城における騒動における喧嘩両成敗は条元様が決められた祖法です。これを破っては……」

 「刑部卿、しばしお待ちください」

 柳甫が擁典の言葉を制した。擁典はむっとした顔を柳甫に向けた。

 「確かに宮城での騒動において喧嘩両成敗は祖法です。ですが、今回の件は本当に喧嘩両成敗とすべきでしょうか?」

 「どういうことだ?」

 条吉が続きを促した。

 「先の坂李典と洪奸の件は両者に諍いがありましたのでまさに喧嘩の最中でした。しかし、赤矩と覚央様の間には諍いなどなく、赤矩が勝手に覚央様のことを恨んでいただけです。しかもその恨みはまるで童の癇癪のようなものです。これをもって喧嘩とするのはあまりにも不合理というものではありませんか?」

 「確かにそうだ」

 条吉が唸った。柳甫の言は屁理屈のようであるが、理論としては齟齬を感じさせなかった。

 「それにここで喧嘩両成敗によって沙汰を下せば、一方的に恨みを持っている相手を貶めるために宮城で刃傷に及ぶ者現れないとは限りません。ここは騒動の内容についてもしかと吟味すべきかと思います」

 柳甫の理論を前に刑部卿として擁典は完全に沈黙した。祖法として定められた喧嘩両成敗の理論が現実の政治の前では破綻しているということを突き付けられた形になった。

 「秘書官長の意見は正論であろう。しかし、世論がそれで納得するか?」

 それまで沈黙を続けていた条宣が言った。条宣からすれば柳甫の意見は栄倉宮内部での政治的な破綻のない理論だった。だが、その理論は栄倉宮の中で通用するものであり、条国の国民はどのような目で今回の沙汰を見るか。条宣は政治的な正論よりも、国民の感情というものを恐れていた。

 「世論などを気にされてはなりません。条公の仕置きが即ち条国の法なのです」

 柳甫が窘めるように言った。柳甫は時折、条宣に対してそのような態度を取ることがあった。条宣は不快に思うことはなかったが、全面的にその意見に伏するつもりはなかった。

 後に国主となった条宣は、そのまま秘書官長を務めた柳甫をわずか半年で解任した。その時、条宣は柳甫に向って、

 『お前は先代とは意見が合ったようだが、余とは合わないようだ』

 とだけ言った。すでに権勢の春秋を過ぎていた柳甫は項垂れるだけだった。


 「丞相の言い分も分かる。しかし、余は柳甫の意見が尤もだと思う」

 条吉はしばらく考えてから柳甫の意見に賛同した。条吉が決めた以上、臣下が口を差し挟む余地はなかった。

 「叡慮のままに」

 条宣も条吉が言うのなら従うまでだった。

 「せめてもの情けだ。赤矩には短剣を与えよ。赤家廃絶に関しては詳細を閣僚で詰めよ。但し、これらのことを公表するには勅使殿がお帰りになられてからだ」

 あくまでも勅使への接待を優先せよ、と条吉は厳命した。無為な仕事が増えるだけか、と条宣はうんざりするだけだった。

 

 

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