061
その少年は、窓際で待っていた。
背が、高い。
だけど、不思議とその頭一つ分とびぬけた後ろ姿から、威圧感は感じなかった。
ポケットに手を突っ込んだだるそうな姿勢。陽の光に照らされた、白い頬。厚い胸板。首筋にある、大きな赤黒いあざは生まれつきのものだろうか。
「 」
ゆきこ先生から聞いた、その名前を後ろから呼んでみる。彼はポケットに手を突っこんだまま、ゆっくりと振り返った。
そして、小さく目を見開いて。
姿勢をただすと、その場で深く、深く頭を下げた。
彼はしばらく、その姿勢のまま微動だにせず、僕に頭を下げ続けていた。
§ § §
彼はものすごく素直で、正直で、馬鹿がつくほど真面目だった。
事故現場に居合わせたらしい。
生々しい傷の残る腕を差し出して、彼はひたすら僕に誤った。「自分は彼女が倒れるところから轢かれるところまで全てを見ていた、救えなかったのは自分の責任だ」
そう苦しそうに言いながら、何度も、何度も。
「帰り、だったんです」
「雨がやんで、雨宿りで寄っていた友達の家から出て―――――それで。
俺と、その……連れ立ってたもう一人の、友達? は、家逆なんで、あの交差点で別れて、そしたら背後でものすごい音がして―――――」
「振り返ったら、もう……。」
彼の細切れの話は要領を得なかったが、それでも、彼は。
必死に伝えようとしてくれていた―――――――それは、僕が知りたかった、彼女の「最後」。
雫の、最期。
そして、僕はもう一つの“運命”を知ることとなる。
彼は、僕の知る人の、大切な人だった。
「そうか、彼と」
「………もう、いませんが」
「雫がいればね、偲ぶこともできたのにね」
「やめてくださいよ、そんなこと」
自嘲気味に笑って、彼は無意識なのか、首筋のあざをさすった。なんだか年齢に明らかに合わないしぐさと表情だ。どれだけの辛いことを乗り越えてきたのだろう。
勝手に想像してみる。
いつかの僕と、同じかな。
………って、そんなわけないか。まさかこんな子がね。
「あの。ハルが」
彼が唐突に口を開いた。「………ハル?」
聞き返すと、しまった、と言う表情を見せながら、彼は。
「奥さんのおかげで助かったヤツ、目、覚めましたよ」
その一言が、引き金だったように思う。
この子の前でだけは泣くまいと思っていたのに、乾いた笑い声とともに両目から雫が零れた。
なんだ、そうだったんだね。そりゃそうだよね、生きてる人みんな名前があって、そうだよね―――――
そこから、安堵だけがゆっくりと胸の底で広がった。
よかったね、
生きた甲斐があったねなんて、口が裂けても言わないけれど。
少しは、意味を見つけて、
楽になれていますように――――――――………




