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英雄派遣  作者: 軌条
第三話 巨人の森
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オンバルル(3)

 惑星オンバルルは元々、未開の資源惑星として越境門が設置された無人地域だった。ところがその後の調査によって、そこに高度な文明が存在することが判明し、既存の開発企業は一度出しかけた手を引っ込めることとなった。その後オンバルルの先遣調査隊の責任者が怪死したことは有名だが、その件を深く追及する者はいない。


 それはともかくとして、オンバルルに存在する文明の実態は公にされていない。宇宙の新たな秩序として制定された未開惑星の保護条約が開発や侵略からオンバルルを遠ざけ、一部の学者や調査機関だけがその立ち入りを許可されている。本来なら越境門を設置するのは、この巨大な文化圏とオンバルルが共生できると判断されてからのことなのだが、わざわざ一度建てた越境門を破壊するほどのことではないと皆が思った。


 しかし、今回の件でそれは改められるかもしれない。巨人とやらがオンバルルに侵略し、住民を虐殺したとなれば、その経路と思われる越境門は撤去されるか、あるいはより強い監視の目を置くことになるだろう。




 オージアスはアミと共に、オンバルルの密林を移動していた。死亡した6人の人間の弔いはオージアスがやった。と言っても土に埋めて墓標として彼らが持っていた剣や杖を突き立てただけだったが。獣に掘り起こされて荒らされないように、防護魔法をサービスしておいた。


「オージアス様、他に人の気配はないんですか?」

「ないな……、生命の気配は無数にあるがな」


 オージアスの探知魔法は生命の気配を感知する。それが人間かどうか判断するのは少し難しい。小型の禽獣と人間なら、その反応の大きさが違うので判別できるが、大型の獣と人間とを区別する方法はない。


 この一帯にいる生物を全滅させる方法ならある。大軍の中に紛れ込んで兵士の精神を破壊し、同士討ちさせる方法とか、噴火の兆候がある活火山を力ずくで押さえ込む方法とか、そういったことならオージアスは慣れていたが、人探しのような繊細な仕事はそれほど多くこなしていなかった。


 敵も味方も見当たらないとは、任務の前には想定していなかった。敵と遭遇することや、敵から避難してきた住民を保護することに集中していたのに、拍子抜けだった。


「アミ、きみは密林での活動に慣れているようだが」

「ええと……。そうですね、最近は森の中で活動していますね」

「人が敵から逃げようというとき、森のどういうところに向かうものか分からないか」

「どこに逃げるか、ですか……。うーん、わかんないです」

「分からない? もう少し考えてみたらどうだ」

「ええと、考えたんですけどぉ……。すみません、分かりません」


 アミは軽く頭を下げた。オージアスは舌打ちする。


「どうして本社はこんな小娘を寄越したのか……。いいか、アミ、今から吾輩は精神を集中させて術を発動する。もし敵が襲ってきたらきみが相手をするんだ」

「敵って、近くにいるんですか?」

「いないはずだ。少なくとも吾輩はそう判断している。しかしこうも姿を見せてくれないと、疑う深くもなるというもの。世界は驚異に満ち溢れているのだ――我々の五感では感知できない超自然的な存在が、今回の騒動を引き起こしたのかもしれない」

「そ、そんな! それじゃあ打つ手無しじゃないですかっ!」


 オージアスは苛立ちと共にアミを睨みつけた。


「きみは仮定という言葉を知らないのか? かもしれない、という話だ。十中八九そんな存在はない。博識な吾輩が知らないのだぞ」

「そ、そうですよね、オージアス様ほどの人が感知できない存在なんて、いませんよね」


 アミの言葉が皮肉に聞こえなくもなかったが、彼女のような純朴な小娘に限って、そんなことは言わないだろう。オージアスは黙って術の準備を始めた。探知魔法が効かないなら、実際にこの眼で世界を見渡してみるしかない。オージアスは近くを飛んでいる鳥の視覚を強奪した。


 奪感スナッチ魔法と呼ばれる精神支配の一種で、他者の視覚や聴覚などの感覚を我が物とし、遠隔地の生の情報を入手できる。難点は、術が発動している間、自らの肉体の五感が極端に鈍くなること。脛を蹴り上げられたくらいでは気付かない。オージアスはこれを鎮痛魔法に応用できないかと研究を重ねたことがあったが、それはともかく。


 オージアスは近くの鳥の視覚を奪った。鳥の視覚というのは特殊だ。モノクロなのは仕方ないが、フォーカスが人間のそれとは決定的に違う。特に地上の餌を狙っているときは焦点がとんでもない方向に動き、せっかくの空からの視点なのに、思うように地上の様子を確認できないことがよくある。


 そんな不安定な視界でも、この森が平穏に包まれ、巨人なんてどこにもいないことが確認できた。見渡す限りの大森林。巨人と言っても、木々よりも背が低いということか。それとも目立たないように常に屈みながら移動しているのか。


 オージアスは溜め息をつき、鳥の視界から離れた。その間際、一瞬だけ、奇妙なものを見た。


 アミのように、樹の上で寛ぐ人間。全身を緑と濃茶色の服で迷彩し、身の丈より大きな剣で武装している。


 しかしどうも普通ではなかった。彼が寛いでいる樹はとてつもなく巨大だった。彼が凭れている樹の幹は、アミが座っている樹の幹の、少なくとも10倍の太さがあった。そのように見えた。


 オージアスは術を解いた。アミが不安げな眼差しで樹上から見下ろしていた。


 オージアスはこのとき既に大体事態を掴んでいた。アミに呼びかける。


「人間を見つけた」

「え。本当ですか!」

「大木にいる。きみが腰掛けている樹の、十倍の大きさの大木だ」

「大木……」


 アミは樹の上で爪先立ちになった。


「……10倍って、そんな巨大な樹、どこにあるんです? この近くじゃないですね?」

「いや、この近くにある」


 オージアスは言う。


「それどころかそこらじゅうにある。ところで、アミ、きみには吾輩が術を発動している間、敵の相手をするように申し付けてあったはずだが」

「え!? で、でも、敵なんて」

「気付かないか。囲まれているぞ」


 アミは辺りを見回したが、彼女の眼には何も見つからないらしい。そのとき彼女が突然白目を剥いて地面に落ちた。どうやら遅かったようだ。彼女は敵の存在に気付かないまま、やられてしまった。


 アミが地面に激突する直前、風の魔法で落下の勢いを殺してやった。恐らく毒を注入されたのだろうが、死には至るまい。オージアスはふっと笑う。


「敵と言ったが、敵ではないのだろうな。しかし説得が難しそうだ。諸君、一応言っておくが、きみたちは戦う相手を間違っているぞ」


 オージアスの呼びかけに、誰も応じなかった。こうなっては仕方ない。オージアスは実力行使する為、右手を翳した。













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