その壱
広大な宇宙、輝く星星。
その中を、流れ星と見紛うように、銀色に輝く一つの船。
だが船と言っても、立派な甲板がある訳ではない。どちらかと言えば、コンテナ
を少々大きくしたくらいの大きさ。
その操縦席を覗いてみると、二つの人影が、何やら言い合っている。
「テティス、どう?今回の原石は。」
あどけなさが残った少女が、操縦桿を手にして、隣にいる少女に話しかける。
テティスと呼ばれた少女。彼女は手にした石ころを、しげしげと見て、ふぅと溜
息をついて口を開いた。
「ダメね、クズだわ。」
「えーマジでぇ?今度はイケると思ったんだけどなぁ・・・」
そう言うと少女は、操縦桿を手放し、シートに倒れ込んだ。
「あのね、あの星は間違いないって言うから、ガイアに任せたんだよ?まった
く、無駄足だったわ。」
ぷぅ、と膨れっ面をして、タイトスカートから伸びる長い足を組んで、腕組をし
ている。
テティスは、17歳と思えぬほど大人びている。それは、体つきを見てもそう言
える。
腰まで伸びた、青みがかった黒髪。端正な顔立ち、抜群のスタイル。少女と言う
より、大人の女性と呼んでもいいくらいだ。
「畜生、あのオヤジ、オレをだましたな。今度あったらブっ飛ばしてやる。」
「あのオヤジって・・・ミル街で会った宿屋の主人?」
「うん、そだよ。」
「バッカじゃないの?あんな、いかにも胡散臭そうなオヤジの戯言を間に受ける
なんて。」
「だってさぁ、あの星には、お嬢ちゃんのお目当ての物が見つかるよ、て言われ
たからさ。」
ガイアは、テティスの呆れた顔を見つめてる。それは、懇願しているようにも見
える。
テティスは、ガイアにこういう顔をされるとたまらない。彼女にとって、ガイア
は妹の様な存在。
妹の無茶を受け止めるのは、3つ年上である私の義務だと思っているから。
ガイアという少女、少女と言うよりは、活発な可愛い男の子といった感じ。
ショートカットのオレンジ色の髪は、太陽を一杯浴びた証拠。発展途上の体、大
きな瞳、その瞳で見つめられると、無条件で何でも許してしまう。これは、テテ
ィス談。
「テティス、これからどうする?」
再び操縦桿を握り直し、テティスに問う。
「そうねぇ、結構時間かかっちゃたし、手持ちのお金も少なくなってきたか
ら・・・」
そう言うと彼女は、器用な手つきで、コンピューターを操作する。暫くすると、
手を停めてモニターを見つめて、微笑んだ。
「ビンゴ!潜入成功。」
「また、宇宙警察のメインコンピューターに、ハッキングしたの?」
「うっさい。これも生活の為でしょ?だいたいね、こんな、か弱い美少女に簡単
に潜入される方が悪いのよ。」
自分の犯罪行為を、なんら悪びれることもなく、テティスはモニターを見つめて
いる。
「えーと、ヒュペリオン号の燃料と、当分の生活費を計算すると・・・こいつか
な?」
モニターに映った、いかにも人相が悪そうな男を、ガイアに見せる。
「ふんふん、『バサラ、惑星フロージを主に、出没する賞金稼ぎ。非人道的な行為により、自身も賞金首になる』か。」
「そう、このバサラって奴、丁度よくない?賞金も50万ギアだし。この船の燃
料と、生活費込でもお釣りが来るわよ。」
「ここからだったら、惑星フロージ近いもんね。いっちょやってみるか。」
「そうと決まれば、早速行きましょうか。」
テティスは、コンピューターに目的地を打ち込み、眼前のパネルを滑るように操
作する。
ガイアも元気よく、シートから起き上がり、操縦桿を握り直した。
操縦桿を握りながら、ガイアはテティスに話しかける。
「あのさぁ、これが終わったら、ガセネタ掴ませたオヤジ、ぶっ飛ばしに行かな
い?」
「やーよ、そんな一銭にもならない事。」
「ちぇー」
少し間をおいて、二人共吹き出した。
ケラケラと、笑い声を上げる少女達を乗せた銀色に光る船は、一路、惑星フロー
ジを目指す。