特能ボランティア部の存在理由
青葉との戦いから一夜。束の間の平穏が訪れる。
起きると、部屋の戸が乱暴にノックされていた。
「……誰?」
あくびをしながら、静波は戸を開ける。
「よぉ、静波! おはよう!」
元気な声で言ったのは、昨日疲れ果てていたはずの剛志だった。かなりの音量に、静波は思わず戸を閉める。
「おい、こらっ! 何で閉めるんだよ!!」
「タケさん、うるさすぎ……」
仕方なく戸を開けると、剛志はしっかりと戸を押さえた。
「荒波はまだ寝てるのか? 風呂に行こうぜ」
確かに、昨日はすぐに寝てしまい風呂には入ってない。荒波を起こすと、彼は不機嫌な顔になった。
「……シャワー、浴びる」
三人で風呂に向かえば、出てきたばかりの漣に会う。寝ぼけた顔の漣は、片手を上げるとさっさと行ってしまった。
「なあ、静波。俺、昨日の戦いでもう特能ボランティア部のメンバーになったんだよな? な?」
正式メンバーになりたくて、剛志は頭がいっぱいのようだ。しかし。
「鷹雄さんに聞かなきゃ分からないよ」
「んー、やっぱそうか。そりゃそうだな」
頷きながら、シャワーを止める。さっさと出て行く剛志の後を追いながら、静波は荒波に声を掛ける。
「早くしろよ!」
「……お風呂もご飯も急かされて、ほんっと不便な生活……」
ブツブツ言いながら、荒波も風呂から上がる。
「じゃあ、取りあえず授業に行くか。放課後なら、部活に行けるしな」
「そうだな。……でも、まだ皆昨日の戦いで疲れてないかな? 部活は休みなんじゃ?」
あんな戦いが日常なのかどうかは分からないが、青葉というのは相当な強敵だろう。だとすれば、疲れが溜まっているのではないだろうか?
「でも、ラブちゃんとかあの双子ちゃんとか、戦いに参加してなかった子達もいただろ? 広瀬先生もいるし、部活はやるんじゃねえの?」
確かに、部活はやるかも知れない。だが、鷹雄に部員になったかどうかの確認は、出来そうにないが。
「今日の授業は……力の解放か。腕が鳴るぜ!」
元気な剛志に比べて、静波はげんなりする。またケンカを売られるあの授業か。
「静波、顔」
荒波に言われ、慌てて顔を引き締める。
「お前らとも対決してみたいが、言の葉ってのは相手が悪そうだしな……やっぱり、鎮に挑むか」
拳を鳴らしながら、剛志は鼻息を荒くする。
「はあ……」
溜め息を吐きながら、静波も教室に向かった。
能力者たちの異能バトルが一通り終わり、授業の終わりを告げて広瀬が教室を出て行く。
「今日も、僕の勝ちだったね」
得意気に、鎮が言った。剛志は、悔しげに睨み付ける。
「くそ~、昨日は大活躍したのに……」
「昨日? そう言えば、部屋にいなかったな」
どうやら、鎮と剛志はルームメイトのようだ。不思議そうに、剛志に尋ねる。
「どこか行ってたのかい?」
「まあな。俺様は、特能ボランティア部のエースになったんだ!」
剛志の言葉に、鎮は首を傾げる。
「特能ボランティア部のエースは、操炎術者の朝倉漣だろ? もしくは、部長の鷹雄さんだ。寝ぼけて夢遊病でも発病したのかい?」
「相変わらず、失礼なヤツだな……。昨日は鷹雄先輩に呼ばれて、この牟岐剛志一肌脱いだって訳だ。おかげで、『世界』の敵とやらを倒したんだからな! これをエースと言わずして、何とするんだ」
鎮は不信げな視線で見ていたが、静波に訊いた。
「本当?」
「んー、活躍したのは、本当」
剛志がいなければ、戦況は変わっていただろう。それは確かだ。
「へぇ……単細胞の君が、特能ボランティア部にねぇ……」
鎮はまだ不信げだったが、そう言えばと呟く。
「ボランティア部と言えば、鷹雄さん、昨日怪我でもしたのかい? 今日は休むみたいだけど」
「えっ」
初耳だったが、よく考えると恐らく使鬼のせいだろう。新たな使鬼の契約にはかなりの負担が掛かると、まどかが言っていた。
「そっか。じゃあ、鷹雄先輩に確認は出来ないか」
派手に溜め息を吐く剛志を、鎮は不思議そうに見る。
「まあ、急ぐことないよな。よし、今日も部活行って、入部を確定させてやる!」
息巻く剛志の後ろから、突然丸めた本が現れた。そのままポコリと叩かれる。
「あんまり騒いでると、単位やらないぞー」
「うぉっ、地獄先生!」
「残念、治国谷だよ」
初老の教師はそう言い、穏やかな笑みを向けた。
「双海家の双子くんだね。私は治める国の谷と書いて、治国谷だ。インパクトが強いのか、皆地獄先生と呼ぶがね」
音だけ聞くと、確かに天国地獄の方しか思い付かない。しかし、地獄先生とは……穏やかな雰囲気のこの教師には、何とも似合わないニックネームだ。
「さ、次は『近代影世界歴』の授業だ。解放の後だからと言って、寝てはいけないよ」
静波は歴史と聞いて既に眠気を感じていたが、取りあえず頷いた。
近代影世界歴の授業は、静波の眠気を吹き飛ばすものだった。
「さて、佐川くん。『世界』の敵は、何人だったかね?」
「正確な数は不明です。影世界の様々な人達が、表に裏に味方となっていると聞きます。しかし、中心にいるのは三人です」
「宜しい。では、牟岐くん。三人の名前は?」
「天樹、青葉、紅葉。リーダーは、恐らく天樹。実際動いているのを確認できたのは、青葉と紅葉」
「うん。では、『世界』の敵の、根本となる思想は? 神田くん」
「表世界と影世界の転換。能力者の実権掌握」
治国谷の質問に、皆淀みなく答えていく。
「では、青葉の持つ能力は? 双海……荒波くん」
「妖遣い。妖の使役」
「宜しい。流石に、昨夜戦っただけはあるね」
治国谷の言葉に、教室がざわめいた。
「お前ら、そんなことに巻き込まれてたのか!? お疲れ様」
奏太が同情するように囁く。
「さて、青葉は素性は不明だが、妖遣いという特徴がある」
治国谷は黒板に、幾つかの名前を書いた。
「妖遣いの家系は、まずは天行寺。それから、高殿宮。この二つは、馴染みも深いだろう」
鷹雄とまどかの顔が浮かぶ。
「後は、檮原・大野原・五十崎……」
次々と名前を書き、治国谷は振り返った。
「さて、『世界』の敵の活動が始まったのは、いつかね? 芳原くん」
「一件目は、十二年前。二年程してから、確認されました。表世界では『雪女誘拐殺人事件』と言われています」
芳原と呼ばれた生徒が答える。『雪女誘拐殺人事件』……どこかで聞いたような?
「表世界の乗用車が行方不明になり、後程発見された。その中から男性の遺体が見つかり、真夏だというのに凍結していた。同乗していた子どもは無事で、その子の証言により、犯人は雪女だと判明した」
治国谷の説明で、静波は思い出す。起きた時期はまだ子どもだったが、何回か特番で取り上げられたのだ。雪女の仕業だとされながらも、それはオカルト趣味の連中の主張であり、実際は未解決事件になっているはずだ。
「裏警察の調べで、犯人は雪女だと確定している。当然、表世界では公表していないが……これは恐らく、青葉の仕業だろう」
治国谷はそう言い、黒板に目を走らせた。
「話が逸れたな。十二年前、『世界』の敵が現れた。青葉が妖遣いだと解ったのが二年後。だから、妖遣いの家系で十二年より以前に行方不明になった者を調査した」
黒板の苗字に、名前を書いていく。
「檮原 望。大野原 章太。五十崎 麟太郎、暁人。男性の行方不明者はもっといたが、青葉の見た目年齢や風貌から可能性がありそうなのは四人だった」
「? 写真とか見たら、分かるんじゃないんですか?」
静波の疑問に、治国谷は深く頷く。
「その疑問は正しい。しかし、問題は簡単なものではない」
治国谷はそう言い、教室を見回した。
「影世界は、家柄が重んじられる。自分の家系から裏切り者が出たとなると、お家断絶の危機だ。当然、教えるはずがない」
「え……そんなもんなの?」
意味が分からず、静波は呟く。
「天樹は恐らく、青葉と共に最初からいたメンバーだと思われる。計画を立てるのは天樹、実行するのは青葉。そして、その数年後には女性メンバーである紅葉が現れる」
「紅葉って人も、素性は不明なんですか?」
静波の質問に、治国谷がやはり頷く。
「能力は、代々受け継がれるものもあれば、表世界からこちらに来た者達のように、突然現れるものもある。妖遣いは代々受け継がれる能力だが、紅葉の能力は風を操る操風術。影世界にも操術の家系はあるが、一概にその家の者が関わっているとは言えないのだよ」
そう言いながら、また黒板に名前を書く。
「秋山、広瀬、幸崎……炎にせよ、風にせよ、自然を操る術者を操術者と呼ぶ。その家系は多く、容疑者も多い。例えば……朝倉家」
朝倉と言えば、操炎術者の漣だ。
「朝倉家は、昔からの操術の家系だった。しかし百年前から、操術者が産まれなくなった。五十年を過ぎた頃に、朝倉家は影世界から追放され、未だに表世界の住人だ。……ただ一人、漣くん以外はね」
「……追放? もしかして、そう言う家系って……」
荒波が聞くと、治国谷は続けた。
「ああ、少なからずいる。だから、紅葉にせよ青葉にせよ、該当しそうな人物は多いのだ」
つまり、本名を知るのは難しいということか。荒波の溜め息が聞こえた。
「さて、『世界』の敵の目的は、表世界への攻撃。影世界が表世界に代わって、能力者たちで世界を動かしていきたいという願望だ。しかし、それはかなり危険な行為だと認識されている」
「何故ですか?」
奏太が手を挙げて言った。
「何故、影世界は表世界の裏に居続けているんですか?」
「……恐らく、同じ事を思ったのだろうな。『世界』の敵の三人も」
治国谷の声は、悲しげに聞こえた。
「確かに、我々能力者は、表世界の人間よりも強い力を持っている。しかし、昔から数の暴力というのは恐ろしいものでな……異質なものは排除される。今まで何人もの優れた能力者たちが、危険だから、異質だからという理由で消されていったと思うかね?」
流石に現代ではほとんどないが、と治国谷は付け加える。
「だから、我々は住み分けすることになったのだ。表世界からは、関わらせない。その代わり、有事には力を貸す。そうやって、今の静かな生活を手に入れたのだ」
静かな生活、と考えると、ここはその中でも隔離されているように感じる。今時携帯も通じない、テレビもない、ラジオなども、とにかく電波を使う物を見た覚えがない。全ての影世界の人たちが、こんな不自由な生活をしているのだろうか?
「さて、ようやく手に入れたこの生活だが、能力者が表世界で害のある行動をとるとなると、話は違ってくる。表世界でこちらの事を知っているのは、国の上の方の僅かな人間だ。彼等が『能力者』を危険視すれば、影世界を潰そうとするだろう。だから」
治国谷の優しい視線が、荒波と静波の方に向いた。
「我々が、『世界』の敵を消さなくてはならない。その為の裏警察であり、その為の特能ボランティア部なのだよ」
キーンコーン…カーンコーン……
チャイムが聞こえてくる。治国谷は、二人の肩を優しく叩いた。
「鷹雄くんを、宜しく頼むよ」
そのまま教室から出て行く。静波は、その背中をぼんやりと見送った。
昼休み。
「あ、静波さん」
おにぎりを乗せたトレイを静波の隣に置いたのは、愛だった。
「あ、ヨシちゃん」
「昨日はお疲れ様でした」
隣に座る。穏やかな微笑みに、静波もつい笑顔になった。
「伊野社長、ようやく裏警察の保護に入れたそうです。もう狙われることはないでしょうね」
「ふーん……」
答えながら、静波は首を傾げる。今までも何度か聞いてきたワードだが。
「で、裏警察って何?」
「うーん……特殊能力者で結成された、決して表には出ない警察組織、ですね」
愛はそう言って、おにぎりを頬張った。
「何で、あの社長は最初から裏警察に保護してもらわなかったんだろ?」
荒波がスパゲティを食べながら首を傾げる。確かに、最初から裏警察に頼めば良かった気がするが。学生よりも頼れるだろうに。
「伊野社長は……警察には相談しなかったんです。色々、後ろ暗いところがあったようで……それで、狗神に襲われた時にようやく裏のつてを辿って、学園長先生の所に依頼がきたんですよ」
なる程、それで特能ボランティア部が警護していたのか。
「あ、今日も部活あるの?」
「ええ。鷹雄部長と漣くんは休むそうですけど、他のメンバーは来ますよ」
「タケさんも、行っていいのかな?」
タケさん、と聞いて、愛は小首を傾げたが、隣で必死にアピールする剛志に気付いて微笑んだ。
「ええ、勿論。皆もきっと歓迎してくれますよ」
「よっしゃ!! サンキュー、ラブちゃん!」
「……あの、名前は……ちょっと」
オロオロする愛に構わず、剛志はその両手を掴んでブンブンと振る。
「さ、次は自習の時間か……」
「頑張ってくださいね、静波さん」
溜め息を吐く静波を愛が応援する。苦笑いを浮かべて、静波は頷いた。
「なあ、狗神」
寮の自室。鷹雄は指輪に話し掛ける。
「お前に初めて会ってから、もう二年になるな」
《……青葉との、契約中だった頃か》
ノイズ混じりの声に、鷹雄は頷く。
「あの頃から、俺はお前との契約を考えていた。……力が欲しい訳じゃない。そう思っていたんだけど……」
去り際の、青葉の言葉が胸を過ぎる。
『お前は、何故力を求めるんだ?』
「俺は、力が欲しいのか?」
呟きに、答えはない。
「……狗神、お前に命を出す」
鷹雄の命に、狗神は遠吠えで応える。その気配が遠ざかったのを感じながら、鷹雄は溜め息を吐いた。
「鷹雄なら、元気そうだったぜ」
部室に行くと、弓彦がいた。鷹雄の様子を聞けば、簡単な言葉が返ってくる。
「まあ今日のサボりは、多分オレっちに知られたくないことでもする為じゃないか? ルームメイトに秘密にしたいこと、やっぱあるだろ?」
「サイコメトリーすれば、秘密もバレバレな気もするけど」
荒波の突っ込みに、弓彦は露骨に嫌そうな顔をする。
「オレっちは覗き趣味はないぞ。プライベートは干渉しないし、うっかり視えても何も言わない。マナーは守ってるつもりさ」
なる程。色々気を使っているようだ。
「鷹雄のことは、心配することないさ。狗神だって、契約中は鷹雄に害を及ぼすことはないし。それより、静波さあ」
弓彦は声を落として、静波に耳打ちする。
「前線にもう二度と出ない為の方法、何かないかな?」
「いや……さあ…?」
聞きたいのは静波の方であり、荒波が行くと言えば強制連行しかないのだが。
「そっかぁ。ヨシりんみたいに完全に戦闘用じゃない能力だったらなぁ……いや、サイコメトリーだって、絶対戦闘用じゃないだろっ。ああいう野蛮なやつは、漣や鷹雄に任せときたいよ……」
「でも、弓彦さんも大活躍だったじゃないですか」
荒波がキョトンとした顔で言う。んー、と唸りながら、弓彦はソファーに座った。
「オレっち的には、活躍とか割とどうでもいいんだよな。そりゃ、『世界』の敵はヤな奴らだし、何とかしなきゃならないんだろうけどさ……オレっち、元々は表世界の人間だし、鷹雄への友情でここにいるんだし」
「表世界からこの学園に来た人って、多いんですか?」
静波の質問に、弓彦は首を傾げる。
「んー、そうだなぁ……ヨシりんとか、剛志もそうだろ? あと、例外だけど漣もそうだよな。学園全体から言うと、大体二、三割ってとこじゃね?」
愛もそうなのか、と静波は少しほっとする。少しでも同じ世界を知っている相手がいることは、静波にとって安心できた。
「あ、あとさ、敬語止めてくれる? なんか、落ち着かないからさ」
「あ、うん」
剛志といい弓彦といい、敬語嫌いが多い。
「弓彦先輩、俺はもう特能ボランティア部の一員ってことでいいんだよな?」
黙っていた剛志が、弓彦に問い掛けた。しかし、彼が口を開くのと同時に。
「あら、牟岐剛志。御機嫌よう」
現れたのは、まどかだった。ソファーに座ると、弓彦を見る。
「アイスティー」
「へいへい。お前らは何か飲むか?」
「あ、俺が淹れようか」
流石に、先輩にお茶汲みはさせられない。そう思った静波だったが、それを止めたのはまどかだった。
「弓彦のアイスティーが飲みたいの。貴方達も、何か頼んだら?」
「……じゃあ、同じのを」
結局、四人分のアイスティーを淹れる為に、弓彦は奥の部屋に姿を消す。まどかは、チラリと剛志を見た。
「反省なさい」
「は、はいっ!」
途端に正座する剛志に、静波は首を傾げる。
「反省、ですか?」
「当たり前でしょう。あんな行き当たりばったりの行動をとって、弓彦を危険な目に遭わせたのだから」
まどかの声は、どこまでも硬質だ。
「貴方達の言の葉で、何とか窮地は凌いだものの、それが無ければ弓彦の無事は保証出来なかったはず。初戦は赤点からの始まりね」
「ま、まどか様……!!」
正座をしてキツく目を閉じていた剛志が、突然目を開いた。その目は、若干潤んでいる。
「初戦ということは、次もあるってこと……!! よしっ、俺はやるぞ!!」
「ポ、ポジティブ……」
「とにかく、次に彼等がいつ行動するのかは不明です。能力を磨き、何時でも不測の事態に備えておきなさい」
まどかの言葉に、剛志は何度も頷く。
「あー、もう皆来てるの~?」
部室の扉が開き、双子が入ってきた。菜緒と真緒だ。
「あ、怪力マン。昨日はお疲れ様」
「もう、真緒ちゃんったら……。剛志さん、こんにちは。静波さんと荒波さんは、もう部活に慣れましたか?」
菜緒が可愛く訊いてくる。
「まだ、学校にも慣れてないかも」
静波が正直に答えると、真緒は肩を竦めた。
「ま、まだ一週間も経ってないしね。菜緒なんか、三カ月はホームシックで……」
「真緒ちゃん、止めてよぉ!」
慌てて止める菜緒だが、年齢を考えると当たり前だと思う。
「あり? もう揃った?」
紅茶を持って、弓彦が目を丸くした。先に部室にいたのだろう、愛も紅茶の準備をしている。
「おー、じゃ、部活を始めるかぁ」
別室から現れたのは、広瀬だった。何枚か手紙を持っている。
「今日は部長がいないから、副部長の弓彦に進行を任せるよ」
広瀬の言葉に、弓彦が面倒そうに頷く。手紙を受け取り、さっと目を通した。
「じゃ、ミーティングを始めるぞ。えっと……依頼書は三枚、一枚目は演劇部の助っ人要請。次の学園祭の為の依頼で、出来れば鷹雄とまどかに頼みたいってさ」
「……昨年したわ。もう懲り懲りよ」
まどかはそう言い、軽く手を振る。
「二枚目は、これも学園祭絡みだけど、奇術愛好会のアシスタント。脱出マジックの中に入る人を貸してほしいってさ。……失敗しそうになったら学園長のアポートで脱出できるから、身の安全は保証するって……」
「それ、既に奇術じゃないじゃないの」
まどかの突っ込みに、愛が笑いながら頷く。
「三枚目は、カラオケ部から。菜緒っちと真緒っちに、歌とは何なのか、を新入部員に教えてほしいってさ」
「……新入部員って、噂の一年生でしょ?」
「うーん、歌うだけなら良いんだけど、私達でいいのかな?」
「指定してるんだから、いいんじゃね? とにかく、今回の依頼書はこの三枚。やっぱ、学園祭絡みが多くなってくるな」
弓彦の言葉に、静波は手を上げる。
「あの、特能ボランティア部って、『世界』の敵と戦う部活なんだよな? 依頼書って何? あと、学園祭って?」
静波の質問に、特能ボランティア部のメンバーは顔を見合わせる。答えたのは、愛だった。
「特能ボランティア部は、確かに『世界』の敵と戦うことが目的で作られたと聞いています。でも、そうでない時間は学生達の手助けをしたい。そう鷹雄部長が強く希望し、依頼書を集めて別の部活の手助けをすることになったんです」
「ちなみに、学園祭は毎年秋にあるお祭りさ。表世界の学校にもあったろ? ここでも部活毎に発表したり、模擬店したり……まあ、普通の学園祭だよ」
弓彦の説明で、学園祭についてはよく分かった。荒波はまだ良く分かっていないようで、首を傾げている。
「そうだ、あんた達も依頼に行けばいいよ」 真緒がそう言い、意地悪げに笑った。
「僕らに付いてくれば、何となくわかるんじゃない?」
真緒と菜緒への依頼は、カラオケ部の新入部員への講義だったはずだ。
「いや、歌とかは……」
「付いてくるだけさ。見学ってやつ? 演劇部とか奇術愛好会よりは、マシだと思うけど」
「荒波、どうする?」
荒波はただ頷いた。カラオケ部に行くことには、異論はないようだ。
「じゃ、決まり。呼び捨てでいいよね? 後輩なんだし。静波と荒波、行くよ」
そう言うと、真緒はさっさと部室を出て行く。
「静波さん、荒波さん、よろしくです!」
菜緒がそう言い、静波の腕に絡み付く。引き摺られるように、静波も部室を出た。
カラオケ部に向かった静波達。そこにいたのは……
読んでいただき、ありがとうございます。
マイペースに頑張りますので、次もぜひよろしくです!