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予知夢

青葉戦撤退後、狗神対策をするメンバー。物部桜の予知で、解決できるのか……?












 静波は、ベッドから飛び起きた。まだ、心臓がうるさく鳴っている。


 「はぁ、はぁ、はぁ……」


 先程まで見ていた夢を思い出し、辺りを見回す。しかし、そこは狭い寮の部屋だ。


 「何? 蛇でも出た?」


 荒波の言葉に静波は身を震わせた。先程までの夢には、確かにあの大蛇が出てきていた。


 「ほんと、気が小さいんだから……」


 「うるさい」


 なんと言われようと、怖いものは怖い。こればかりは、どうしようもない。


 「今日は、占い部に行くんでしょ? 早く授業が終わればいいね」


 荒波にそう言われ、静波は頷いて答えた。






 「よお、特能ボランティア部はどうだった?」


 午前中の授業が終わり、剛志が声を掛けてきた。


 「タケさん、おはよう」


 挨拶すれば、剛志は鼻息を荒くする。


 「おはよう、はいいんだよ! まどか様と話したか? 特能部には入ったんだよな? な?」


 「うん、入ったけど……」


 「俺の推薦はどうなった!?」


 「えっ……えーと……」


 推薦もなにも、それどころではなかった。なにせ、入部して即異能バトルに連れて行かれたのだ。正直、昨日のことは悪夢なんじゃないかとさえ思う。


 「お前ら、その顔……さては、俺のことは言ってないな!?」


 剛志に詰め寄られ、静波はとにかく頷く。彼の右手が一瞬血管を浮かべたが、それもすぐに緩められた。


 「まあ、しょうがねぇな。お前さんらも昨日は忙しかったんだろ。歓迎会はあったのか? 好みの可愛い子はいたか?」


 好みの、と訊かれ、つい愛の顔が浮かぶ。


 「お、やっぱり野菊ちゃんだろ? らぶらぶ愛ちゃんなんだろ~?」


 「あの、彼女、名前で呼ばれたくないみたいなんで……」


 やんわりと忠告すると、剛志はキョトンとした顔になる。


 「らぶって、可愛い名前だと思うけどな~。あいって読むより変わってるし、なんかインターナショナルな感じで」


 「……」


 それは、当人でなければ分からない苦労だ。なまじメジャーな読み方がある分、呼び間違いも多いだろう。内気な彼女がそれを一回一回訂正するのも、きっと辛いに違いない。


 「っていうか、タケさん、ヨシちゃんのこと知ってたんだ」


 それなら食堂で言ってくれればいいのに、と言うと、剛志はガハハと笑った。


 「まぁまぁ、運命的な再会になっただろ? 感動的だっただろ? ん?」


 「いや、別に……」


 感動的というか、何というか……。弓彦という先輩と仲良さそうだという印象がやたらある。いや、多分一緒に行動していたせいだろうが。


 「今日も特能部行くんだろ? な、俺のことをちゃんとアピールしてくれよ? 友達だろ?」


 いつの間に友達になったんだか。そう思ったが、怪力の持ち主にそんなことを言う度胸はない。


 「よし、メシを奢ってやろう! 食堂行くぞ!」


 静波が頷いたのを見て、剛志は上機嫌になって歩き始める。


 「知ーらないっ」


 小声で荒波がそう言うのを聞きながら、静波も食堂に向かった。






 結局、荒波も静波に付いてきて、三人で食事になった。


 「奢ってやるってのに……」


 「お構いなく」


 荒波は恩を売られてはたまらない、と言わんばかりに断り、ホットサンドを頼む。


 「じゃ、遠慮なく」


 どうアピールするかは後で考えよう。そう思いながら、静波はハンバーグステーキのセットを頼んだ。剛志のこめかみが一瞬引きつる。


 「本当に遠慮なしか……俺はじゃあ、天丼スペシャルだっ」


 と言うわけで、なかなかのボリュームの昼飯がテーブルに並ぶ。三人で食べていると、隣に誰かがやってきた。


 「ここ、いい?」


 「ん、どうぞ」


 荒波がそう言うと、その人は荒波の隣に座る。ふと見ると、フードを被った女らしき人物が。


 「あ、占い部の……」


 「どうも、物部桜です」


 怪しさ爆発の格好のまま、彼女はスパゲティを食べ始めた。まじまじと見るのも失礼なような気がして、三人も食事に戻る(もっとも、剛志は桜を見てもいなかったが)。


 「今日、占い部に来るんでしょ?」


 あっという間にスパゲティを食べ終わり、桜は荒波に問い掛けた。


 「うん、そのつもり」


 荒波が答えると、彼女は得意気に微笑んだ。澄ました話し方で言う。


 「そうでしょう。午前中の予知夢で視ました」


 確認後でそう言われても、いまいち信用が出来ない。


 「この後、お時間はありますか?」


 「あ、はい」


 「では、談話室で」


 桜はそう言って食堂を出て行く。


 「ん? 俺も一緒でいいのか?」


 剛志がそう言い、天丼を更に流し込んでいく。食べ終えた三人は、談話室に向かった。





 「あら、こちらですわよ」


 談話室の中では、主に女子生徒が楽しそうに話している。その中を通って隅に行くと、待っていた桜がいた。


 「午前中の授業で、占い部に来られる貴方達を視ました。ですので、無駄な行動をしないように話をしようと思ったのです」


 テーブルに置いてあるココアを一口飲み、荒波を見る。


 「無駄?」


 「ええ」


 荒波の問い掛けに、桜が答える。静波は黙って聞くことにした。剛志は不思議そうに聞いている。


 「特能部の皆様は、私に探し物をさせたいようですが……元々、それは私の専門外です」


 桜はそう言い、俯く。


 「私に出来るのは、予知だけ。的中率も確かに問題がありますが、それ以前に予知では探し物なんて出来ません。精々、探しているものが見つかるかどうかを予知するくらいしか」


 「あ」


 確かにそうだ。予知で探し物が出来るはずがない。


 「探し物なら、特能部にも適任者がいるでしょう。瀬戸弓彦先輩のサイコメトリーは、かなり優れた能力ですし」


 「サイコメトリーって、どんな能力なわけ?」


 荒波が訊くと、桜は説明してくれた。


 「サイコメトリーとは、物体や人物から情報を読み取る能力です。読み取り方は人それぞれですが、大体は直接触れて読み取る方法ですわ」


 弓彦の方法は分からないが、あの青葉に直接触れることが出来るだろうか?


 「とにかく、私の予知夢では探し物は出来ません。……一応、予知はしてみますけど、私も夢を意識して視ることは出来ません。期待はしないで下さいね」


 「はい」


 荒波が頭を下げ、慌てて静波も礼をする。剛志は首を傾げている。


 「放課後、部室に行こう」


 荒波はそう言うと教室に戻る。二人も一緒に後を追った。




















 午後の自習が終わり、二人は部室に向かった。


 「おい静波、俺のアピールしとけよ~!!」


 剛志の声が追い掛けてきて、静波は手を振って答える。


 「やあ、キミ達」


 部室には鷹雄がいて、二人を出迎えてくれた。


 「あの、昼に桜さんに会って」


 「……無駄だって。予知じゃ探し物は出来ないって言われたよ」


 静波と荒波の言葉に、鷹雄はそうか、と呟いた。


 「探し物なら、瀬戸弓彦に頼めって」


 更に荒波が言うと、鷹雄は困ったように笑う。


 「確かに、サイコメトリーなら契約書を探せるかもしれないけど……弓彦の能力は直接触れることが条件だ。あの青葉相手じゃ、かなり難しいだろうね」


 青葉に近付くには、まずは狗神と大蛇を相手にしなくてはならない。それでは本末転倒だ。


 「……ヨシちゃんなら、青葉に気付かれずに接近出来るかも知れない。でも、間接的な接触じゃサイコメトリー出来ない。参ったな……」


 鷹雄は壁にもたれ掛かり、顎に手をやる。ナナコが側に来て、同じように困った顔で鷹雄を見上げた。


 「じゃあ、鷹雄さんとまどかさんの妖で狗神と大蛇を何とか食い止める。その隙に、弓彦さんが青葉に近付いてタッチ。とか?」


 静波の提案に、鷹雄は更に眉間に皺を寄せる。


 「……ヒョウキ、セッカ、ナナコ、ツララ……後は、ユウグレ。鷹雄、五人で食い止めれば、一瞬くらいは時間が稼げるのではないかしら?」


 まどかがやってきた。話はしっかり聞いていたようで、ソファーに座って話に混ざる。


 「いや、しかし……」


 「分かっているわ。私も、あの子達を無闇に傷つけたくはない。でも、そんな甘いことを言っている場合ではないことも事実よ」


 まどかの言葉に、鷹雄は口を閉じる。


 「本当は、イザヨも来てほしい所だけれど」


 「まどかっ!」


 イザヨ、という名を聞いて、鷹雄が声を荒げた。初めて見る彼の姿に、静波達は目を丸くする。


 「……分かっているわ。あの子のお守りで遣えないんでしょう? それより、契約書を探し出して狗神を解放する事が先よ。弓彦にはかなり過酷な使命になるけれど、桜に無理ならやってもらうしかないわ」


 まどかの冷静な声に、鷹雄はまだ困った顔のままだ。


 「おいおい、オレっちがどうしたって?」


 奥の扉から、弓彦が現れた。小首を傾げて四人を見回す。


 「瀬戸弓彦、青葉をサイコメトリーなさい」


 まどかの言葉に、弓彦は目を丸くした。


 「ウソ。前線でるの? オレっちが?」


 「……桜ちゃんの予知夢は探し物が出来ないって、本人から言われたよ」


 鷹雄がそう言うと、弓彦は口元を引きつらせて笑う。


 「うわー、マジなヤツだ。オレっち、戦闘能力無いんだけど。皆無なんだけど」


 「誰も戦えなんて言っていないわ。青葉に触って、契約書が何処にあるかを探ってほしいと言っているだけよ」


 「いやいや、それが難しいんじゃん。大体、読んでる間、オレっち無防備だからね? 守ってくれるんだよな?」


 鷹雄に縋り付く弓彦。しかし。


 「悪いけど、使鬼を遣っている間は俺達も他に気を回せない。漣にフォローを頼むつもりだけど」


 「冷たい……鷹雄が冷たいよ~、ナナコ~」


 弓彦は次にナナコに縋り付いたが、ナナコは尻尾で振り払った。


 「後は、青葉をおびき寄せるだけね……」


 弓彦を完全無視してまどかが呟く。


 「あの社長さんが餌になるわけ?」


 荒波が訊くと、鷹雄はおいおい、と咎めた。


 「餌は人聞きが悪いだろう。とりあえず、敵のターゲット、かな?」


 「いや、言い方変えても……」


 やることは同じ、あの社長を餌にして青葉をおびき寄せる。それは決定らしい。


 「遅くなったー。あれ? なんで弓彦が半泣きなの?」


 漣がやってきた。その後ろから、愛も顔を出す。


 「どうしましたか、弓彦さん」


 「聞いてくれよ~、鷹雄が冷たいんだよ~」


 今度は愛に縋り付く。静波はイラッとしたが、相手は先輩、何とも言えない。


 「なるほど。いいんじゃない?」


 漣はまどかから詳細を聞き、サイコメトリーに賛成する。半泣きの弓彦の肩を叩き、緩く笑う。


 「ちゃんとガードするよ~?」


 「お前、戦闘になると人格変わるからヤなんだよ!」


 確かに、炎を使っている漣は、まるで別人のようだった事を思い出す。


 「決まったことを、とやかく言わない! 相手が悪いけれど、死なない程度に身を張って頂戴」


 まどかが冷静に言い、弓彦が更に顔を引きつらせる。


 「「鷹雄さーん」」


 そこに、綺麗にハモった声が響いた。扉の方を見ると、ボブヘアーの双子少女(一人は偽女子)。


 「真緒、菜緒、遅かったね」


 鷹雄がそう言うと、双子は揃って頷く。その後ろに、もう一人。


 「どうも、鷹雄先輩」


 「あれ? 桜ちゃん」


 そこにいたのは、フード女子・桜だった。


 「先程、二年の授業が終わったもので」


 そう言い、桜はソファーにさっさと座る。真緒と菜緒も、半泣きの弓彦を怪訝な目で見ながら、それに続いた。


 「どうしたの? 何か、いい予知でも出来たのかな?」


 鷹雄は、桜にお茶を勧めながら話を聞く。


 「私は、ココアの方が……」


 図々しいことを言いながらも、桜は予知を始めた。


 「先程の自習中に予知夢を視たのですが、あの……今計画していることに、瀬戸弓彦先輩は関わっていますか?」


 「関わってるよ! 大関係だよ!!」


 何やらイヤな予感がするのか、悲鳴に近い声で弓彦が答える。桜は頷き、鷹雄に話を続けた。


 「私の予知夢では、弓彦先輩が大怪我を負い、作戦は失敗します。青葉の契約書の在処も不明のままです」


 「ひーっ! やっぱりとんでもない事になるんじゃねーか! オレっち、まだ死にたくねーよ!!」


 パニックになる弓彦を、愛が優しく宥める。


 「大丈夫ですよ、弓彦さん。予知成功率は60%、半分強ですし」


 「大怪我の確率60%で、安心出来るかー!」


 そりゃそうだ。


 「桜ちゃん、予知夢では青葉と俺達の戦いが視えたのかい?」


 「ええ」


 「じゃあ、未来を変えるしかないわけだ」


 何でもないことのように、鷹雄は軽く言った。桜もそれに頷いている。


 「未来を……変える?」


 意味不明な言葉に静波が繰り返すと、桜は説明を始めた。


 「予知夢で現れるのは、あくまで未来の一つです。これから先、一番起こる確率の高い未来だと思ってください。しかし、未来は枝分かれしている。私が視た未来とはわざと違うシチュエーションを作ることによって、未来は変化していく。そういうことです」


 「……はあ……?」


 分かったような、分からないような?


 「説明は置いておこう。とにかく、青葉と俺達の、予知夢での状況を教えてくれ」


 鷹雄の言葉に、桜は夢の話を始めた。


 「青葉を取り囲むように、使鬼が五体。ナナコ、ツララ、ヒョウキ、セッカ、ユウグレ。鷹雄先輩とまどか先輩がいる。あとは、漣先輩、弓彦先輩。何か変な中年男も一人。青葉の前には、狗神と大蛇。使鬼達で狗神と大蛇をブロックして、漣先輩が炎で道を作る。弓彦先輩がその中を走って青葉に触れようとしたところで、もう一体、敵の使鬼が現れて、中年男を攻撃。漣先輩はそれをガードしようとして、弓彦先輩から離れる。青葉と弓彦先輩の一騎打ちになり、青葉は弓彦先輩を小刀で刺す」


 ヒッと小声で引きつった声。弓彦が想像してしまったのだろう。


 「その後、鷹雄先輩の呼び笛で帰還するも、中年男は置き去りにされて狗神に八つ裂きに。弓彦先輩はしばらく昏睡状態が続き……」


 意味ありげに言い、桜は手を合わせる。


 「いーやーだー!! 絶対前線に出ないぞー!!」


 弓彦の宣言に、鷹雄は溜め息を吐いた。


 「弓彦、とにかくそうならないように考えよう。まずは、メンバー変更からだな」


 「私と鷹雄、漣、弓彦は決定。後は、どうしましょうか……」


 まどかが考え込む。静波も考えようとして、ふと思い出した。


 「あ、鷹雄さん。特能ボランティア部に入りたいって言ってる人がいるんだけど……」


 静波の言葉に、鷹雄はん?と返す。


 「誰だい?」


 「一年の、牟岐剛志」


 「あー、怪力の……」


 ちゃんと剛志のことも知っているようだ。うーん、と考えている。


 「牟岐剛志……あのノリには付いていけないのだけれど」


 まどかはそう言って溜め息を吐く。


 「あの怪力は戦力的にはいいんだけどね……。性格が直情的過ぎて、すぐに能力を使って倒れちゃいそうで」


 確かに、あり得そうな。


 「ダメかな? 入部」


 まあ、無理ならそう言えばいい。頼まれたことはやったから、ハンバーグ分は働いた。

 そう思っていた静波だったが、鷹雄はうん、と頷いた。


 「じゃあ、今日の戦いを手伝ってもらおう。静波、剛志くんを呼んできてくれるかい?」


 「え?」


 聞き返し、剛志の顔を思い出す。


 「あ、はい!」


 静波は急いで、部室を出た。






 剛志はどこにいるのだろう?


 静波は寮に向かっていた。


 (帰宅部なら、もう寮に帰ってるよな……)


 この学園は、周りは山と森に囲まれ、どこにも寄り道するような場所はない。


 「誰か……あ、そこのお前!」


 通りかかった少年に声を掛ける。まだ幼い少年は、不思議そうに静波を見た。


 「牟岐剛志、知ってるか? どこにいるか、分かる?」


 少年は首を傾げ、その後に頷く。


 「タケさんなら、戻ってるよ! 二階の二〇五の部屋だよ」


 「お、ありがと!」


 礼を言い、静波は二階の二〇五号室を探す。


 「よお、静波!」


 二〇五号室に行くと、丁度剛志が出て来た。これから風呂なのか、着替えや桶を持っている。


 「部活、終わったのか? 早かったな」


 「いや、まだ部活中。じゃなくて、タケさんを呼びに来たんだよ。鷹雄さんに言われてさ」


 静波がそう言うと、剛志は一瞬大口を開けてポカンとし、風呂桶を取り落とす。


 「ま、ま、ま……マジでかっ!? ついに、俺が……俺が特能ボランティア部のエースにっ!? やったぜー!!」


 「いや、そこまで言ってないけどさ……」


 静波の言葉も、もう耳には入っていない。剛志は落としたものもそのままに、「待っててください、まどか様~!!」と叫びながら階段を駆け降りていった。


 「……」


 取り敢えず、風呂桶などを二〇五号室に戻し、静波も部室へと戻った。






 部室に戻ると、土下座姿の剛志と仁王立ちのまどか。


 「どういうシチュエーション?」


 荒波に訊けば、彼は肩を竦めた。


 「うるさい、くっつくな、側によるな! ……だって」


 部室に行って早々に、まどかの地雷を踏んだらしい。


 「まあまあ、まどか。そのくらいで許してあげなよ」


 お茶を持ってきた鷹雄が、まどかを諫める。まどかはその茶を飲み、奥の部屋に行った。


 バタンッ!


 「随分怒らせたね、剛志くん」


 苦笑いを浮かべる鷹雄に、剛志はペコペコと頭を下げた。


 「ありがとうございますっ! 鷹雄先輩!」


 「いいから、これからの話をしようか」


 ソファーに座り、剛志にも勧める。彼が座ってから、鷹雄は話を始めた。


 「キミの能力を借りたいんだ。ただ、敵はかなり強敵だ。キミには断る権利もある」


 「いやいや、俺は絶対やるぜ! この怪力で、役に立てるんなら!」


 息巻く剛志に、鷹雄はまあまあ、と落ち着かせる。


 「キミは、二年前に入学してきたんだよね。『世界』の敵には、会ったことあったっけ?」


 「いや、俺が入学する前に、この学園にそいつ等が来たって事は聞いてるが」


 初耳の話に、静波は驚いて鷹雄を見る。彼は真剣な顔で剛志を見つめていた。


 「そうか……そんなに前になるんだね。じゃあ、キミは会うのは初めてか」


 「その時に、噂だけ聞いたぞ。その襲撃事件で怪我人が大勢出たとか、退学したいっていう生徒とか親が何人もいたとか。後は……入学希望者も激減して、一時は学園存亡の危機だったってな」


 「……結局、影世界の学校はここだけだ。学園長や天行寺の人間の働きかけで、学園は存続することになった。ただ、条件として、カモフラージュの名家、桜井家の使い手達が、学園を奴らから隠すことになった。だから、この学園に来るには桜井家のバスを使うしかないんだ」


 なるほど、ここに来るためのあのバスの運転手は、その桜井家の人間だったわけだ。


 「だから、この学園にはもう奴らは入れない。戦うには、別の場所に行かないと。剛志くん、キミは俺達に付いてきてくれるかな?」


 「何度も聞くなよ。俺はいつでもオッケーだぜ!」


 剛志はそう言い、鼻息を荒くする。


 「僕も行く」


 それまで黙って聞いていた荒波が、突然そう言った。


 「荒波?」


 驚いた静波が弟を見れば、彼はいつもの涼しい顔で鷹雄を見ている。


 「荒波、来てくれるのかい?」


 「タケさんだけじゃ、心配だし。一応、世話焼いてくれる人だし」


 ドライに見えるが、荒波は案外義理堅い。


 「静波は?」


 「……荒波が行くなら、行くしかないだろ」


 本音を言えば、行きたくない。また大蛇を見るかもと思えば、すでに鳥肌が立ちつつある。

 しかし、荒波が行くなら行くしかないのだ。それが、大好きな祖母の言い付けなのだから。


 「なるべく、蛇は見ないようにするさ」


 「何だ、静波は蛇が嫌いか!」


 剛志は笑いながら、静波の頭を叩く。


 「俺が守ってやるぜ! 心配するな!」


 豪快な言葉を聞けば、なんだか心配が薄れる気がする。


 「じゃあ、今夜またあの屋敷に行く。メンバーは、俺、まどか、漣、弓彦、静波、荒波、剛志。前回より多いけど、目的は伊野社長の護衛と青葉へのサイコメトリー。その為に、作戦をたてよう」


 鷹雄の言葉に、皆頷く。そして、会議が始まった。





















 暗い部屋の中、朧気な光が幾つか見える。薄暗い中にぼんやりと浮かび上がる人影に、青葉は声を掛けた。


 「天樹、今日行ってくる」


 人影は軽く頷くが、表情は分からない。黒い狐の面が、その顔を隠している。


 「青葉、相手は学生だ。……殺すなよ」


 面でくぐもった声に、青葉も頷く。


 「……紅葉は?」


 青葉が訊けば、天樹はゆっくりと立ち上がる。


 「弟が気になるようだ。……おそらく、また結界の綻びを探しているのだろう」


 桜井の結界など、なかなか綻びなどないだろうに。


 小さく呟く天樹に、青葉は同意する。お陰で、学園に通じる道は閉ざされたままだ。


 「青葉、我々の悲願を成就するには、まだまだ我等は力不足だ。まだ……天運は我等にはない」


 天樹はまた座り、口を閉ざした。軽く頷き、青葉は部屋を出る。


 「天運、ねぇ……」


 溜め息を吐きながら、青葉は長い廊下を歩き始めた。


 次の戦いも目的は果たせそうにないと、感じながら。











読んでいただき、ありがとうございます!

今回は少し時間が掛かってしまいました。次も読んでいただけると嬉しいです。

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