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特能ボランティア部

ようやく特能ボランティア部の登場、そしてやたら新キャラが増えます。

勢いで書いていますが、よろしくお願いします!











 午後の授業は自習で、静波は荒波と共に高校二年の公立高校で受ける授業のテキストを、延々とやっていた。


 「うあ~、疲れた……」


 「静波のせいで、あんまり進まなかったじゃないか」


 「……すみませんねぇ」


 言いながら、テキストを片付ける。


 「静波、あのキザな会長さんを探すの?」


 「ああ、三年生の教室に行こう」


 二人で教室を出る。剛志はクラスメートと話している。わざわざ呼ぶことはないだろう。


 「三年は三階だ。行けば、多分いるんじゃないか?」


 「そうかもね」


 話しながら、二人は階段を上がっていった。






 「ここだ」


 三年の教室には、まだちらほら生徒が残っている。その中にあの顔があった。


 「会長さん」


 「やあ、キミ達」


 鷹雄は顔を上げ、手を振る。簡単に荷物を纏めると、二人の所に来た。


 「どうだった? 初めての授業は」


 「あはは」


 「まあ、それなりに」


 静波と荒波の答えに、鷹雄は優しく微笑む。


 「で、俺に会いに来たって事は……特能ボランティア部に入ってくれるのかな?」


 「あ~、取り敢えず、見学できますか?」


 静波の言葉に、鷹雄は頷いた。


 「いいよ。キミ達には、選ぶ権利があるからね」



 鷹雄に連れられて、二人は部活棟に入った。ここも三階建てで、いろいろな部活のプレートが付いている。


 「特能ボランティア部は、三階のフロアを全部使ってるんだ」


 三階には扉が一つだけ。その上には確かに『特能ボランティア部』と書かれたプレートがある。


 「さあ、どうぞ」


 扉を開けると、突然鷹雄に何かがぶつかってくる。慣れた様子で鷹雄は、ぶつかってきたものの首根っこを掴んだ。


 「こら、ナナコ。またケンカかい?」


 「鷹雄様~。ナナコ悪くないも~ん。悪いのはヒョウキだも~ん」


 掴まれているのは、小さな女の子だった。しかし、頭に大きな白い獣耳とお尻の辺りに大きな白い尻尾がある。


 「うわ、リアル獣っ娘」


 静波の呟きは聞こえなかったようで、ナナコという少女は必死に自分の潔白を訴えている。


 「あら、ヒョウキ。またナナコとじゃれあっていたの?」


 三人の後ろから、凛とした声が掛かる。まどかの声だ。


 「うん」


 ナナコの後ろから、額に角が生えた少年が現れる。二人とも、幼児といってもいいくらいの年齢に見えた。


 「あら、双海静波、荒波。入部する気になったのかしら?」


 まどかの言葉に、幼児二人が静波達を見る。


 「新顔だ」


 「わ、ほんとだ」


 「男の子だ」


 「うん、ほんとだ」



 ナナコとヒョウキは言いながら、二人の周りをウロウロ回る。


 「あたし、ナナコだよ。鷹雄様の使鬼なの」


 「おれ、ヒョウキ。まどか様の使鬼」


 「シキ……?」


 静波が聞き返すと、ナナコがバカにしたように笑みを浮かべた。


 「あんた、影世界の人間なのに使鬼も知らないの? 使鬼は、(あやかし)遣いが契約した、お手伝いさんみたいな妖だよ」


 「おれ、まどか様の命令なら、何でもする」


 「……へぇ」


 妖なら分かる。昔から散々祖母に脅されてきた。夜寝ないと妖がくるだの、好き嫌いして食べないと妖に食べられるだの、祖母はよくそう言って二人を脅したものだ。

 ただ、実在すると知ったのは、数秒前だが。


 「二人とも、中に入って」


 鷹雄に言われ、静波達は中に入った。三階を全部使っているだけあって、中はかなり広い。大きなテーブルと高級そうなソファーがあり、そこには女生徒が二人座っていた。


 「あ、双子だ」


 思わず言った静波の声に、二人は同時に顔を上げる。大きな瞳、丸いボブヘアー。二人は本当にそっくりだった。


 「あんた達だって、双子じゃん」


 片方が、その愛らしい姿に似合わない乱暴な口調でそう言った。


 「しかも、一年だし。鷹雄さん、こいつら何?」


 「部活見学者だよ。俺は勧誘したんだけどね」


 「ふーん」


 ジロジロと見る片割れの肩を、もう一人がぽんぽんと叩く。


 「真緒ちゃん、失礼よ。そんなに見ちゃ」


 こちらはイメージ通りの愛らしい声だ。


 「初めまして。私は高瀬 菜緒(たかせなお)。こっちはお兄ちゃんの高瀬 真緒(たかせまお)。よろしくお願いしまぁす」


 「あ、よろしくです」


 ん?


 何か違和感を感じ、静波は首を傾げる。


 「二人は二年生なんだ。まだ十二歳なのに、凄いだろう?」


 確かに襟元には二年のピンバッチが付いているが、違和感はそれじゃない。


 「……お兄ちゃん?」


 荒波が聞き返すと、菜緒は首を縦に振った。


 「そうだよ? 真緒ちゃんは、菜緒の自慢のお兄ちゃんだよ?」


 言われ、二人は真緒に視線を移す。


 「何? 僕の格好に、文句ある?」


 文句も何も、女子の制服にしか見えない。


 「菜緒の為だよ。僕らの力は二人で全力を出せる。でも、菜緒を男子棟に入れるわけにはいかない。だから、僕が我慢してるんだよ」


 静波としては、女装男子よりも男装女子の方が……


 「静波、何か顔が崩れてる」


 言われ、慌てて引き締める。特能ボランティア部に来てから、何か異世界に来てしまったような気がする。これはまるで……


 (あ、椎名が言ってた『理想郷』だ)


 前の学校の親友が、目をキラキラさせて薦めてきた、美少女が表紙の小説を思い出す。


 《俺は、いつか行くんだ……ケモミミ美少女と、剣と魔法の理想郷へ!》


 (……理想郷、ここにあるみたいだぞ)


 親友を思い出し、思わず遠くを見る。


 「あ、昨日の新入生」


 奥の扉から、男女が現れる。女子の方は、静波を見て頭を下げた。


 「あの、お昼は……すみませんでした」


 「あ、あの時の……」


 ぶつかってしまった、あの女子だ。確か、ヨシちゃん。


 「何だ、ヨシりん。もう知り合いになったんだ?」


 男子の方がそう言い、静波達に手を差し伸べる。


 「オレっち、瀬戸 弓彦(せとゆみひこ)、三年。能力はサイコメトリー。よろしくな!」


 「よ、よろしく」


 静波が手を握り返し、荒波が頭を少し下げる。弓彦は握った手を大きく振り、人懐こい笑顔を浮かべた。


 「あ、あの……三好、……です……」


 小さな声でヨシちゃんが自己紹介をする。しかし、肝心の名前が聞こえない。


 「え?」


 聞き返すと、彼女は俯いてしまう。そして、


 「三好 (みよしらぶ)、です……」


 ……名乗りたくない理由は、よく分かった。


 「えっと、何って呼べば……」


 訊くと、愛は俯いたまま答えた。


 「出来れば、名前じゃない方が……」


 「じゃあ、ヨシちゃんでいい?」


 「あ、そうしてもらえると……嬉しいです……」


 ようやく愛は顔を上げ、少し微笑む。


 「ヨシちゃん、弓彦、この二人はこの部活の見学者なんだ。いつも通りにしていていいからね」


 鷹雄に言われ、二人は頷く。そして、ソファーに座った。


 「鷹雄、昨日の報告なんだけど」


 弓彦がいい、鷹雄が真剣な顔になる。


 「あの社長が狙われた事件、裏でやっぱり妖が関わってる。昨日、ようやくまた社長が襲われた。そこに来たのが、いつもの狗神だった。確かにヨシりんが見たよ」


 「そうか……社長さんは?」


 「(れん)が、護った。まだ寝てる」


 鷹雄はチラリと奥の部屋の扉を見、また弓彦に視線を戻した。


 「弓彦、次は俺が行くよ。あの狗神とは、次こそ決着を付ける」


 「鷹雄、本気か?」


 弓彦は心配そうに言い、横目で愛を見た。愛も、弓彦を見ている。


 「瀬戸弓彦、何を隠しているの? 言いなさい」


 まどかが言うと、彼は言いにくそうに口を開いた。


 「漣が護って倒れた後、来たんだ……アイツが……青葉が」


 青葉、という言葉を聞き、一瞬で辺りの空気が変わった。皆の顔が強張っている。


 「……荒波、青葉って誰?」


 「僕が知るわけ、ないじゃない」


 二人で小声で話していると、鷹雄は難しい顔のまま二人の疑問に答えた。


 「『世界』の敵の一人。妖遣いの青葉。俺やまどかの天敵さ」


 出た、『世界』の敵。


 「キミ達も、影世界の住人だ。この部活に入るかどうかは別にして、影世界が今どういう状態か、全く知らないわけにはいかないね」


 鷹雄はそう言い、語り始めた。


 『影世界』の、今まで知らなかった現状を……




















 影世界と表世界。お互いに影響し合う、鏡合わせの世界。


 しかし、影世界の者は、表世界では異質とされ、いまやほとんどが認識されていない。異能を持つ者はその力を隠し、表世界に溶け込む努力をする。


 その現状に不満を持つのが、『世界』の敵と呼ばれる、異能者達だ。


 いつか、影が表を支配する。その理想を掲げ、表世界で乱暴な事件を起こす。


 『天樹(てんじゅ)

 『青葉(あおば)

 『紅葉(くれは)


 その三人が、この活動の主犯格だと思われる。


 『影世界の住人は、表世界を支える影となる』


 それは、ずっと古から守られてきた、暗黙のルール。 そのルールを守るため、柳谷は能力者を集めて学園を創った。


 影から闇に堕ちてしまった、かつての同志達を倒すために……




















 「はい、話が壮大過ぎて、理解出来ません」


 静波が言い、荒波が頷く。


 「双海家は、表世界に近いところにいるからね。それにしても、影世界の事を知らなすぎる気もするけど……」


 鷹雄は苦笑し、うーんと首を傾げる。


 「取り敢えず、『世界』の敵を放っておくと、キミ達が昨日までいた表世界も無事じゃ済まない。現実に、今や表世界の常識では解決出来ない事件が、次々と起こっている」


 愛がそっと新聞を差し出す。そこには赤いペンで、『連続カマイタチ切り裂き事件』という記事にチェックが付けられていた。


 「その事件、確かに妖の鎌鼬が関わっていた。まどかのヒョウキと俺のナナコが何とか倒したんだけど、妖遣い本人には辿り着けなかった」


 確か、一年程前に話題になった事件だ。いつの間にか風化して、忘れていたが。


 「こういう事件をボランティアで解決していくのが、俺たち特能ボランティア部ってわけだよ」


 「……」


 確かに危険な部活のようだ。しかし、これは在学中に元の世界と関われるチャンスかも……。


 「俺達は、一人でも多くの戦力が欲しい。キミ達の、言の葉遣いの力が」


 鷹雄の言葉に頷いたのは、意外にも荒波だった。


 「やるよ、僕」


 「荒波……」


 驚く静波を気にせずに、荒波は鷹雄を見る。


 「僕は、双海家の次期頭首になる。だから、知っておきたいんだ。影世界と言われる世界のことを」


 「荒波……」


 確かに、影世界はこれからの双海家にも関わりが出てくるだろう。


 (何故ばあちゃんは、俺達に影世界のことを何も教えなかったんだろう……?)


 「静波君、キミはどうかな?」


 ぼんやりと考えていた静波に、鷹雄は穏やかに声を掛ける。


 「……荒波が入るなら、俺もお願いします」


 「良かった。これからよろしくね、二人とも」


 鷹雄が嬉しそうに笑って手を差し伸べる。今度は荒波も、しっかり握り返した。


 「じゃあ、漣も紹介しようぜ!」


 弓彦がそう言い、奥の扉に飛び込んでいく。


 「ほら、漣! 起きろよ!」


 「いやだ……寝かせろ……」


 ブツブツ言いながら、弓彦に引っ張られて出て来る少年。歳は、静波達と同じくらいか。


 「はい、こいつがうちの斬り込み隊長、朝倉 (あさくられん)だ! すっげえ操炎術を使うんだぜ!」


 「……どーも、漣です……」


 寝ぼけた顔で、漣は挨拶した。ガリガリと頭を掻き、大きな欠伸をする。


 「あと、うちの癒し系、春野 梨香(はるのりか)ちゃん。以上が、我らが特能ボランティア部だっ!」


 「……梨香ちゃんって?」


 辺りには、もう知らない顔はいない。弓彦に訊けば、彼はあははっと笑った。


 「彼女、安眠部も掛け持ちしてるから。今日は来るかな~?」


 「掛け持ち有り、なんだ……」


 可愛い子かな? と静波の想像は広がる。これまでの女子部員は、確かに剛志が言うとおりの綺麗どころ揃いだ。きっと、梨香も可愛いに違いない。


 「さて、新入部員も入ったところで……昨日の案件に戻ろうか」


 鷹雄がそう言うと、部員達はソファーに座った。弓彦に手招かれ、静波と荒波もソファーに座る。


 「昨日、ヨシちゃんと漣の活躍で、敵は狗神だと分かった。そして、その背後には青葉がいる。……あれ?」


 そこまで言い、鷹雄は首を傾げた。


 「漣、よく無事だったな。ヨシちゃんが助けたのかい?」


 そう言えば、弓彦の話では『漣が倒れた後、青葉が現れた』と言っていた。


 「そう言や、ヨシりんの記憶はそこまでで、後は読めなかったな。……何があったんだ?」


 弓彦も、不思議そうに首を傾げる。


 「えっ……私……あの、憶えてないんです……」


 オロオロと、愛が呟く。漣も肩を竦めるだけで、何も言わなかった。


 「私、いつも通りに気配を消していました。その間、弓彦さんが私から『読んだ』通りのものを見ました。でも……あの恐ろしい人が現れて、私、一瞬集中が切れたような……」


 愛の言葉に、鷹雄の表情が堅くなる。彼女の集中が切れた、ということは……


 (ヨシちゃんは、青葉に見付かった。しかし、倒れていた漣も、ただ立っていたヨシちゃんも、無事だった……。ヤツにとって、二人は敵ではないと認識されたのか、それとも……)


 「鷹雄、二人は無事だった。それでいいじゃないか」


 場の空気の重さに、弓彦が取りなすようにそう言った。愛は小さくなって、チラチラと鷹雄を見ている。小動物的な可愛さに、静波はつい守ってあげたくなった。


 「……そうだね、弓彦の言う通りだ。敵の狙いは分からないけど、二人が無事で本当に良かった」


 鷹雄はそう言い、愛に微笑む。彼女はようやくホッとした笑顔を見せた。


 「さて、社長の護衛だけど……やっぱり俺が行くよ。次こそ狗神を倒してみせる」


 「鷹雄、私が行くわ」


 鷹雄の言葉に、まどかが口を挟む。


 「狗神相手じゃ、ナナコは相性が悪い。ヒョウキも難しい相手だけど……セッカも連れて行くから」


 「俺も、使役してるのはナナコだけじゃない。それに、まどか一人を行かせるわけにはいかない」


 二人は一歩も引かず、じっと見つめ合う。険悪な雰囲気に、ナナコとヒョウキも固まったまま主人達を見詰める。


 「……分かったわ、二人で行けばいいのね」


 渋々折れたまどかに、鷹雄も仕方なく頷く。


 「あ~、鷹雄。他のメンバーはどうする?」


 弓彦が恐る恐る尋ねる。鷹雄は部員達を見回し、言った。


 「次は、狗神も本気で来る。漣と梨香を連れて行く。後……静波と荒波、キミ達も来てくれ」



 「えっ、俺達も!?」


 慌てる静波に対して、荒波は頷いて答える。


 「真緒、菜緒、キミ達はここにいてくれ。弓彦、ヨシちゃんの側を離れるな」


 「よし、分かった」


 頷く弓彦とは違い、真緒と菜緒は唇を尖らせた。


 「えー。留守番?」


 「菜緒も頑張るよ~?」


 「ダメだよ、二人とも。次には力を借りるかもしれない。今はじっとしておいてくれ」


 鷹雄の指示に、仕方なくというように二人は頷く。


 「……六人か。随分大掛かりになるな」


 弓彦が言うと、まどかが静波と荒波をチラリと見る。


 「鷹雄、青葉が出てくる可能性がある。初参戦の二人には荷が重いのではないかしら?」


 「……そうだね。でも、まだ彼等はこの『世界』を知らない。一度見ておいた方がいいよ」


 敵のボスっぽいのが出てくるのに、そんな見学気分でいいのだろうか?


 鷹雄の言葉に疑問を感じながら、静波はじっとして皆の会話を聞いていた。口を挟もうにも、何を言ったらいいのか分からない。


 「会長さん、静波はここにいちゃダメなのかな?」


 荒波がそう言った。その言葉に、静波は内心で喝采する。


 「いや、ダメだよ」


 漣が出てきた部屋の扉が開く。そこから出てきたのは……


 「やあ、顧問の広瀬だよ」


 また出た。


 「荒波君と静波君は、必ず一緒に行動させること。これは、双海家現頭首の君達のお祖母様からの、ここに入学させる際の絶対条件だからね」


 (ばあちゃん……何でだよ?)


 静波の知る祖母・満江(みつえ)は、いつも静波に優しかった。父や母は落ちこぼれの静波に厳しかったが、祖母はいつも味方だった。


 『いいのよ、静波。お前にはお前のやるべき事がある。だから、荒波に引け目を感じる必要はないからね』


 そう言っていつも慰めてくれた祖母が、何故か能力者だらけの学園に静波を入れ、荒波と決して離れるなと言う。


 (……どうして……?)


 訳が分からずに頭を抱える静波に、荒波も困惑した目を向ける。


 「まあ、そう言うわけだから。静波君も一緒に頑張ってね」


 広瀬に言われると、もうどうしようもなかった。仕方なく頷く。


 「社長の警護は今夜から。妖は夜に本来の力を発揮するから、襲われるのは夜だろう。先生、学園長にアスポートの用意をお願いします」


 「ん、分かった。前に送った所でいいね?」


 鷹雄は頷き、皆を見回す。


 「必要なものの支度をしてくれ。特に、漣はちゃんと目を覚ましておくこと。静波、荒波、キミ達は梨香の所に行ってきてくれ。今夜、社長の警護に行くと伝えてほしい」


 「え…、でも俺達、梨香さんの顔も知らないんだけど」


 静波が言うと、鷹雄はクスッと笑った。


 「梨香なら、この部活棟のどこかにいるはずだよ。顔見せも兼ねて、探しておいで」


 静波は頷き、荒波は嫌そうな顔をする。


 「じゃあ、一旦解散。警護に向かうメンバーは、八時に学園長室前に。残るメンバーは、視聴覚室に集まるように」


 鷹雄が言い、部員達は次々と部室から出て行った。



















 「さて、梨香さんを探すか」


 静波が言うと、荒波は機嫌の悪い顔を隠しもせずに唸った。


 「静波、行ってきてよ。僕は寮で支度するから」


 「ここじゃ、俺もお前もただの新入部員。下っ端はこき使われるもんなんだよ。ほら、行くぞ」


 文句が多い荒波を引っ張りながら、静波は二階に降りる。


 「一番近いところから行くか」


 プレートには、『安眠部』の文字。いきなりヒットだ。


 「すみませ~ん。梨香さん、いますか?」


 声を掛けながら引き戸を開ける。中は薄暗く、落ち着いた雰囲気の音楽が微かに聞こえる。リラックス出来るような、いい香りもしてきた。


 「あの~」


 中に声を掛けると、にゅっと顔が出て来た。


 「……何?」


 眠そうな女子だ。不機嫌そうに静波達を見ている。不機嫌度は荒波といい勝負だ。


 「あの、梨香さんですか?」


 恐る恐る訊くと、女子は首を振った。


 「梨香なら、今日はあちこち行くって言ってたわよ。多分、茶道部じゃない?」


 そう言うと、女子は部屋の中に入ってしまう。これ以上話すことはないらしい。


 「茶道部って、誰かが入ってたよな?」


 「うん、奏太とかいうやつ」


 言の葉遣いとしての資質なのか、荒波は人の顔と名前を憶えるのが得意だ。


 「茶道部、茶道部……あ、ここか」


 一階まで降り、茶道部のドアをノックする。


 「あれ? お前ら」


 和服の奏太が出て来て、首を傾げた。


 「特能ボランティア部に入るんじゃないのか?」


 「あ、そのボランティア部の、梨香さんって人を探してるんだ」


 静波の言葉に、奏太はさらに首を傾げる。


 「は? 梨香さんなら、もうここにはいないぞ?」


 「マジで? どこに行ったか知らないか?」


 「うーん……多分、占い部じゃねぇ?」


 占い部、と繰り返し、「サンキュ!」と言ってまた探す。


 「……また二階だったな」


 「……もう……寮に帰る……」


 段々疲れてきた静波に比べ、荒波はもう顔が青い。


 「ここが占い部か」


 ドアをノックすると、フードを被った人が出て来た。


 「双海静波くん、荒波くん。貴方達がここに来られるのは、二時間前から分かっていました」


 声からすると、女子のようだ。フードを目深に被っていて、顔はよく見えない。


 「さて、春野梨香さんをお探しなのでしょう?」


 フードの女はそう言い、二つの箱を取り出した。


 「貴方達が選ぶ箱は、二時間前の予知夢でちゃんと視ています。なので、選ぶと予知した箱に、梨香さんから預かったものを入れています」


 「……素直に渡してくれればいいのに」


 小さく呟く荒波を肘で小突きながら、静波は愛想笑いを浮かべた。この怪しさ、確かに占い部っぽい。


 「さあ、どうぞ」


 言われ、静波は右の箱に手を伸ばす。フードの女は一瞬息を飲み、サッと箱を左右入れ替えた。


 「……え?」


 「さあ、どうぞ」


 澄ました声で言われ、静波は仕方なく左の箱に手を伸ばす。最初に取ろうとした箱だ。


 「……空気、読んで」


 フードの女は小声で言い、また左右を入れ替える。


 「……すみません」


 納得できないまま謝り、静波は左の箱を取る。開けると、三枚の札が入っていた。


 「……?」


 「そう、貴方が私の予知夢通りに選んだ箱に入っていた札。それこそが、梨香さんが特能ボランティア部の為に力を込めた『癒やしの札』です」


 ホッとしたような口調で、フードの女が言った。


 「え……いや、梨香さんを探してこいって言われたんだけど」


 納得いかないままそう言えば、女は笑みを零す。


 「梨香さんは、今夜は護衛に行けないと。詳しくは、箱の中の手紙を」


 箱には確かに手紙も入っている。封筒を見れば、『鷹雄ちゃんへ』と宛名が書かれていた。


 「ありがとうございます……」


 とりあえず受け取り、礼を言う。女は手を振って見送った。






 「どうしようか?」


 学園長室に向かいながら、静波は荒波に言った。


 「? 手紙と札を届ければいいんじゃないの?」


 不思議そうに荒波が言う。


 「いやいや、結局梨香さんは探せてないし」


 「でも、僕らが梨香さんに会えなかったのは、二時間前にあの占い師さんに予言されてたみたいだし。事情を言えば、何とかなるんじゃない?」


 まあ、会えなかった以上、それしかする事はないのだが。


 「あ、まだ全員揃ってない」


 学園長室前に着くと、そこには漣とまどかしかいなかった。


 「あら、双海静波、荒波。梨香はどうしたのかしら?」


 まどかに訊かれ、静波は占い部での事を話した。


 「また欠席ね……仕方ないけど、厳しい戦いになるわ」


 まどかが言い、漣が頷く。


 「代わりに、これを預かったんだけど」


 静波が札と手紙を渡す。まどかは手紙をチラリと見て、札を漣に渡した。


 「貴方が一番必要だわ」


 「ん、あんがと」


 漣は受け取り、ヘラリと笑う。目は覚めているようだが、ぼんやりした雰囲気の男だ。


 「仕方ないよ、梨香は数少ない癒し手だ。忙しいからね」


 「……そうね。後は鷹雄だけど……」


 まどかがそう呟くと、足音が近づいてきた。


 「お待たせ。あれ? 梨香は?」


 鷹雄の言葉に、まどかが手紙を渡す。封を開けて、鷹雄は便箋に目を走らせた。


 「……そうか、まだ駄目か」


 呟き、手紙をポケットに入れる。


 「さて、梨香は来れなかったけど、この五人で警護にあたる。漣は炎で社長をガード、俺とまどかは使鬼で狗神を退治する。静波と荒波は隅で状況を把握、もしもこちらが劣勢になれば、助けを呼んでくれ」


 鷹雄はそう言うと、笛を取り出した。


 「これは『呼び笛』。これを吹けば、学園長に聞こえるようになっている。そうすれば、アポートで俺達を学園長室まで戻してくれる」


 言いながら、静波の首に呼び笛を掛ける。


 「……学園長」


 ノックをして入れば、学園長は人を安心させる笑顔を浮かべた。


 「ターゲットとなっているのは、表世界では悪徳業者と呼ばれるような稼業の社長だ。だが、相手が『世界』の敵ならば、我等が戦うしかない。これは、我々か奴らか、どちらかが滅ぶしかない戦いだ」


 学園長がそう言い、鷹雄が頷く。


 「将来ある諸君には荷が重いだろう。しかし、私は信じている。影世界が滅びることなく、これからも表世界と寄り添っていけると!」


 どうやら、これは特能ボランティア部が活動する前の口上のようで、漣やまどかはほぼ聞き流しているようだ。


 「さあ、行きなさい。君達の戦いの場へ!!」


 場が青く光り、浮遊感に包まれる。そして、学園長の「アスポート!!」の声と共に、部員達は一気に『何か』に飲み込まれていった。






























.

だんだん学校と関係なくなりつつありますが、とりあえず部活が続きます。

続きも読んでいただけると嬉しいです!

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