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神殺しの力











 「静、波……?」


 突然叫んだ静波に、荒波が目を見開く。言の葉を掛けたはずなのに、静波はこの場から離れようとしない。それどころか……


 「炎が……消えた?」


 炎が消え、風が止む。真緒と菜緒はまだ歌っているが、何の呪歌なのかは分からない。しばらくすると、二人は不思議そうにしながら歌を止めた。


 「呪歌が、効かない……?」


 「どうなってるの?」


 漣は、自分の手をじっと見ている。


 「炎が、出ない……」


 違和感はどんどん広がり、皆が静波を見る。


 「……静波? キミが……」


 鷹雄が問おうとしたとき、大きな雄叫びが響いた。


 「狗神!」


 ワン太郎が、どんどんと大きくなる。その身体から炎が揺らめき、いつか見た妖の姿になった。


 「ワン太郎、どないしたんやっ!?」


 驚いた流が、狗神に呼び掛ける。しかし、狗神は鷹雄に語り掛けた。


 《天行寺鷹雄、我との契約は、破棄された。しきたりに則り、その命をもらい受ける……》


 狗神は、鷹雄に襲いかかる! ナナコが対抗しようとするが、その動きは鈍い。その鋭い爪が振り下ろされた時。


 「おいたしたらアカンやろ……!」


 流が、鷹雄の前に飛び出した! 爪を両腕で受け止め、ギッと睨み付ける。


 「鷹雄に……手ぇ出すなっ!!」


 流の眼が、赤く光る。狗神のオーラが、どんどんと流に吸い込まれていく。


 《まさか……『神喰い』だと……!?》


 逃げようとする狗神だったが、流にどんどんと吸い込まれる。狗神の姿が消えるのと同時に、流はその場に座り込んだ。


 「ククク……」


 何が何だか分からずに見ていた特能ボランティア部のメンバーだったが、突然の笑い声にそちらを見る。


 「ようやく、我が呪いが解ける……」


 天樹の狐面に、ひびが入る。崩れ落ちた後には、細面の男が立っていた。


 「有り難う、と言うべきかな? 双海の禁忌の双子、『神凪ぎ』よ。ようやく、あの忌まわしい面から解放された」


 静波は、ただぼんやりと座り込んでいる。聞こえているのかどうかも分からない。


 「かみ……なぎ?」


 初耳の言葉に、荒波は繰り返す。そして、先程聞いた言葉を思い出した。


 『ナギはどっち?』


 「ナギ、は静波? でも、何で……」


 静波には、何の能力もなかったはずだ。言の葉の能力は、荒波一人が受け継いだ。だから、双海家の跡取りとして、厳格に育てられてきたのだ。


 「これが、神を倒す為に影世界が封印してきた『神殺しの力』。その強力さ故に、厳重に隠されてきた」


 天樹はそう言い、鷹雄に近づいてきた。驚いた鷹雄が、一歩引く。その目を見つめながら、天樹は話を続けた。


 「双海家の『神凪ぎ』、天行寺家の『神喰い』、広瀬家の『神透し』……五つの力の内、ここに三つが揃っている。まさに奇跡とも言えることだ」


 「静波、流……そして、広瀬先生?」


 鷹雄の問い掛けに、広瀬が頷く。


 「僕だって、全く知らなかったんだけどね。こんな『視える』だけの能力、何の役にも立たないって思ってたし」


 「そんな事を言わないで、聡」


 紅葉が優しくそう言い、広瀬の肩に手を置いた。


 「あなたの『神透し』で、この結界にひびが入っていた事が分かった。だから、ようやく会えたんじゃない」


 「ま、そういうこと」


 広瀬の笑いに、場は静まり返る。


 「さて、こんな強力な力を、表世界は黙って見逃すだろうか?」


 天樹は、鷹雄に語り掛ける。


 「おまえは見てきたはずだ。表世界で異端視され、迫害に遭ってきた者達を。おまえは知っているはずだ。居場所を得られず、苦しんでいる者達を」


 「……それは」


 鷹雄の呟きに、天樹は頷く。


 「おまえの力は、弱き者の為にあるのだろう。だからこそ、今のままではいけない」


 鷹雄は、天樹を見つめている。その視線には、最早怒りはない。


 「このままでは、弱き者への迫害は続き、影世界は危険だという理由で攻め込まれるだろう。……犠牲者が、数多く出ることになる。おまえの力が必要なのだ。これ以上、被害を出さない為に」


 天樹の差し出す手に、鷹雄が手を伸ばす。


 「鷹雄、正気に戻りなさい!」


 まどかの声も、届いていない。天樹は鷹雄の手を取り、微笑んだ。


 「さあ、おまえ達はどうする?」


 周りの炎は消え、焦げた彼岸花が揺れている。静波は、座り込んだまま目を閉じている。流は、天樹と鷹雄を睨み付けているが、やはり座り込んだままだ。


 「……鷹雄さん、どうして……」


 荒波の声に、鷹雄は虚ろな声で答えた。


 「……居場所を、作るんだ……。皆が、安心出来る世界を……」


 「これは、天行寺鷹雄の本音だよ」


 青葉がそう言い、ジャオウを撫でた。


 「元々、天行寺家は俺達の味方だ。ま、表向きにはそんな事言ってないがな」


 「……やっぱり、ね」


 まどかが、小さく呟く。


 「御父様が仰っていた通りだわ。やはり、天行寺家は私達の敵……」


 「さあ、特能ボランティア部の諸君」


 天樹の周りの空間が、歪み始める。いつか見た、移動系の能力か。


 「我々と共に、理想郷を創ろうではないか。我は、同志を拒むことはない……」


 差し伸べられた手を、虚ろな目の鷹雄を、皆は呆然と見ている。今まで敵対していた相手に、ついて行こうとは思わない。しかし、鷹雄をこのままにしておくわけには……


 「俺は、行く」


 そう言ったのは、漣だった。歪んだ空間に、青葉と紅葉、そして広瀬が飛び込む。鷹雄も続こうとした時、漣がその手を取った。


 「漣! 私達を、裏切るのっ!?」


 まどかの叫びに、漣は穏やかな声で答える。


 「俺の命は、鷹雄のものだ。鷹雄がどんな選択をしても、俺は鷹雄の剣であり、盾である……それに、変わりはないよ」


 歪みの向こうに、鷹雄と漣が消える。


 「鷹雄……漣!!」


 「……おまえは、来ないのか?」


 天樹が流に問い掛ける。流は、首を横に振った。


 「鷹雄は、『この学園の仲間を守れ』ってオレに言うたんや。……オレは、あの時の鷹雄を信じる」


 「……ゆっくり考えるといい。次に会う時に、また問おう」


 天樹が歪みの中に消えると、異空間が閉じていく。すっかり暗くなった空だけが広がり、何事もなかったかのようにフクロウの鳴く声が響いた。




















 特能ボランティア部の部室に、重苦しい空気が漂っている。


 「……どうしよ」


 ソファーで頭を抱えているのは、目覚めたばかりの弓彦だ。


 「オレっちが寝てる間に、何で部長も顧問もいなくなってんだよ……」


 「弓彦、落ち着きなさい」


 まどかが言うが、弓彦としては何が何だか分からないだろう。


 「っていうかさ、何でまどかは冷静なワケ? 仮にも婚約者が、敵側についちゃってさ……」


 「私は、婚約を認めてはいなかったわ。鷹雄はそのつもりだったようだけど……だから、正式には婚約者というわけではないわよ」


 「……だから、仮にもって言ったじゃん……」


 弓彦は溜め息混じりに呟き、机に突っ伏す。


 「で? 他のメンバーはどうしたんだよ」


 「……双海家の双子は、寮の自室に。牟岐剛志も、寮に戻ったようね。高瀬の双子は、夜風にあたるとは言っていたけれど……もう寮に戻ったのではないかしら」


 「……結局、皆寮に戻ったんじゃん。ま、夜だもんな」


 部室の窓に浮かぶ月は、朧気に見える。この向こうに消えていった鷹雄と漣の事を考えると、弓彦は溜め息しか出ない。


 「……弓彦も、鷹雄を追いかけるのかしら?」


 ぽつりとまどかが訊いた。視線は、外を向いている。弓彦も視線を月に向け、ぽつりと答えた。


 「オレっちは、ここにいるよ」


 静かな部室の中、二人はただ月を眺めている。朧月は、何も答えずに、ただ二人を見下ろしていた。




















 「静波……」


 目を開けると、荒波の顔があった。


 「荒波? どうした?」


 静波が訊くと、荒波は表情を緩める。そして、慌てていつもの表情に戻した。


 「まったく……タケさんに感謝してよね。気絶した静波を、ここまで運んでくれたんだから」


 「……昨日、何があったんだっけ?」


 頭が痛い。とてつもない疲労感だ。荒波は首を傾げて、静波を見た。


 「覚えてないの?」


 「……何か、お前に言の葉を掛けられたような?」


 「その後は?」


 「うーん……?」


 首を傾げる静波に、荒波は肩をすくめる。


 「まあ、覚えてないんならいいさ。とにかく、もうすぐ朝ご飯の時間だけど」


 その言葉に、静波は時計を見る。


 「うわっ、もうすぐ遅刻じゃねえか! 何でもっと早く起こしてくれなかったんだよ!」


 「……早く仕度してよ」


 静波は慌てて身仕度し、荒波の後を追う。食堂に行くと、剛志が豪快に丼を食べていた。


 「おう、荒波、静波」


 「タケさん、送ってくれたみたいで、ありがとう」


 静波が礼を言うと、剛志は大声で笑う。


 「いいってことよ! ま、荒波には力仕事は無理だからな!」


 確かに、そうだろう。


 「タケさんも、遅刻しちゃうんじゃない?」


 荒波が席につき、食べ始める。剛志は最後の一口を終え、目を丸くした。


 「今日は、体育館に集合だぞ? 鷹雄先輩と漣先輩の、卒業報告があるからな」


 「卒業報告?」


 聞き慣れない言葉に、静波は聞き返す。


 「そ。卒業が決まったら、全校生徒に卒業したことと、その後の進路が報告されるんだ。本当は卒業式やるんだが、ま……ほら、あの二人はもう学園にいないし」


 「え?」


 静波はまた聞き返し、荒波を見る。荒波は少し顔を曇らせて、頷いた。


 「昨日、静波が気絶した後……鷹雄さんと漣は、『世界』の敵と一緒に行っちゃったんだ」


 初耳の情報に、静波は開いた口が塞がらない。


 「……だって、昨日は、敵対してた……」


 「その辺は、卒業報告の後に話があるってよ」


 二人が食べ終わるのを待ちながら、剛志はそう言う。静波は無理矢理朝食を喉に押し込み、三人で体育館に向かった。






 体育館に並んだ椅子が、左右に分かれている。男子が集まっている右側に、三人は向かった。空いている椅子に座り、壇上を見る。


 「……さて、揃ったかな?」


 学園長がそう言い、壇上に進んだ。厳かな雰囲気で、話を始める。


 「諸君の大先輩である、天行寺鷹雄くんが、昨日卒業した。同じく、朝倉漣くんもだ」


 主に女子から、ざわめきが聞こえてきた。少ししてざわめきが収まってから、学園長は話を続ける。


 「今は、『世界』の敵と行動を共にしているようだ」


 更に大きなざわめきが、体育館を包んだ。今回のものは、なかなか収まりそうにない。


 「諸君、静粛に」


 学園長が手を鳴らすと、ざわめきが少し落ち着いてくる。それを確認し、学園長はまた報告をした。


 「広瀬聡先生も、昨日で退職された。彼もまた、『世界』の敵側につくようだ」


 これまた初耳の話に、静波は目を丸くする。


 「……この事は、諸君の進路にも影響を及ぼすかもしれんが……」


 学園長はそう言い、優しい眼差しで生徒達を見つめる。


 「進路については、ゆっくり考えなさい。これで、今回の卒業報告は終了だ」


 壇上から下りる学園長を、呆然として見送る。その後に、治国谷が壇上に上がり、解散を促した。


 「ああ、特能ボランティア部は、学園長室に来なさい」


 治国谷の言葉に、皆が頷く。詳しい話を期待し、静波も頷いた。






 「突然の卒業だったね」


 学園長は、穏やかな声でそう言った。どことなく他人事のように聞こえたのは、気のせいだろうか?


 「……色々訊きたいんだけどさ」


 弓彦が言うと、学園長は何度も頷く。


 「そうだろうね……まずは、鷹雄くんの事を話そうか」


 学園長は椅子に座り直し、机に肘をつく。しばらく黙っていたが、やがて口を開いた。


 「鷹雄くんは……十一年前、本校の最初の生徒として入学した。この光輪学園は、我が柳谷家と天行寺家の財力で設立されてね……」


 昔を懐かしむように、学園長は言葉を切った。目を閉じ、しばらくじっとしていたが、また続ける。


 「あの頃は、鷹雄くんも十歳になるかどうかくらいだったかな。何にでも好奇心がある、素直な子だったよ」


 「……何故、学校を創立されたのですか?」


 まどかが口を挟んだ。鷹雄の事を昔から知っているまどかには、学園長の話はじれったいのだろう。


 「何故、設立したか……それは、この影世界にも教育が必要だと考えたから……というのは、表向きだね。私は、この閉鎖的な影世界に、もっと新しい考え方をもたらしたかった。朱鷺也は……『世界』の敵の仲間を増やしたかったようだがね」


 学園長はそう言い、机の上の写真立てを手に取った。


 「……朱鷺也との約束は、一つ。『絶対に公平であること』。裏警察の味方も、『世界』の敵の味方もしないこと。……とはいえ、結局はこの学園は『世界』の敵に敵対してしまったがね」


 確かに、静波達が入学した後、特能ボランティア部は『世界』の敵と戦ってきた。鷹雄やまどかは、はっきりと敵対心を持っていたはずだ。


 「……特能ボランティア部が発足したのは、五年前。その後、裏警察からの協力要請を受けるようになり、特能ボランティア部の卒業生が、裏警察に就職するようになった。……それで、天樹は見逃せなくなってきたのだろう。敵対勢力を増やしていく、特能ボランティア部の存在を。三年前、『世界』の敵はこの学園に攻撃を仕掛けてきた」


 それが、あの悲劇の柱が残されている事件。


 「その事によって、鷹雄くんの『世界』の敵への敵対心は……いや、憎しみと言ってもいいかもしれんが、その思いは強くなっていった。だが、心のどこかでは、ずっとくすぶっている願いがあっただろう」


 学園長は立ち上がり、弓彦の肩に手を置いた。


 「表世界で出会った、君や漣くんのように、異能故に社会から孤立した者。真緒くんや菜緒くんのように、夢を奪われる者。そんな存在が、許される……受け入れられる世界を作りたい。それが、鷹雄くんの夢だった」


 「……それを実現させようとしているのが、『世界』の敵……」


 まどかの呟きに、学園長が頷く。


 「野蛮極まりないやり方だがね。とにかく、君たちはどうする?」


 突然訊かれ、静波は目を瞬かせた。どうする、と言われても、どうすればいいのかが分からない。そう思ってから、改めて気付いた。自分たちが、鷹雄の指示で動いていたことを。


 「……学園長」


 弓彦が、困惑したように呼び掛けた。少し黙っていたが、意を決したように尋ねる。


 「隠してること、あるよな? 『柳谷光誠(やなだに こうせい)』って、誰?」


 「……君には、隠し事は出来なかったね」


 学園長はそう言い、机の引き出しを開けた。中から、写真立てを取り出す。


 「光誠は、私の一人息子だ。今は……天樹と名乗っているがね」


 天樹。『世界』の敵の、首領。


 「……初めから、御存知でしたの?」


 まどかの問いに、学園長は重々しく頷いた。


 「当然だ。だが、光誠が何を考えているのか……それは、さっぱり理解できないがね」


 写真の中で、無邪気に笑う少年。そして、優しく微笑む学園長。


 「……もう一つ、隠していた事がある」


 学園長はそう言い、写真立てを見つめた。


 「……我が柳谷家にも、『神殺しの力』が伝わっているのだよ。そしてその力は、恐らく光誠が持っている」


 「……天樹は、『神殺しの力』はあの場に三つと言っていたわ。『神凪ぎ』、『神喰い』、『神透し』……」


 まどかの言葉に、学園長は話を続ける。


 「柳谷家に伝わるのは、『神惑い』。……相手の精神を操作する能力だ」


 「じゃ、鷹雄さんがあいつらについて行ったのは……」


 真緒の言葉に、学園長は首を振る。


 「『神惑い』は、掛けられた者の思いの一部を増大させ、それしか考えられないようにする。……鷹雄くんの今の考えは、彼の隠してきた本心だとも言えるわけだ」


 「……でも、正気に戻せば、元の鷹雄さんに戻れるわけだよね」


 真緒はそう言い、菜緒も表情を明るくする。


 「そうかもしれないね。ただ、『神殺しの力』は、ほとんどが伝承として残っているだけで、どう対処すればいいかは分からないんだよ」


 学園長も知らない対処を、学生であるメンバーが知っているわけはない。皆しばらく黙っていたが、やがてまどかが口を開いた。


 「……伝承では、『神殺しの力』は五つでしたわよね? 『神凪ぎ』、『神喰い』、『神透し』、『神惑い』……後一つは、どこの誰が持っているのかしら?」


 訊くが、学園長は首を振る。


 「さて……ただ、この力については、双海家が詳しいと聞いているが」


 双海家、と聞いた皆の視線が、静波と荒波に注がれる。


 「いや……知らないし」


 「同じく。静波のことだって、知らなかったのに」


 皆のがっかりした顔に罪悪感が沸くものの、知らないものをどうしようもない。


 「特能ボランティア部の存続については、部員の諸君で決めてほしい。……後、光誠の……いや、『世界』の敵への対応も、君たちの意思に任せるよ」


 学園長はそう言い、ゆっくりと椅子に座った。その表情に今まで見たことのない疲れを感じ、まどかは礼をして退室する。他のメンバーもそれに倣い、部室に向かった。






 愛が、皆にお茶を配る。特能ボランティア部の部室には、皆が揃っていた。鷹雄と漣以外は。


 「……で? これからどうすんの?」


 弓彦が訊くが、誰も答えない。


 「私は、戦うわ」


 まどかが呟いた。


 「特能ボランティア部として、『世界』の敵と戦う。でも、裏警察に加担するつもりもないわ」


 「じゃ、オレっちもそうする」


 弓彦がそう言い、ニヤニヤ笑う。


 「……私をダシにしないでちょうだい」


 まどかが言うが、弓彦は無視して皆の方を見る。


 「で? 皆は?」


 「私も、特能ボランティア部に残ります」


 愛はそう言い、弓彦に微笑む。


 「鷹雄さんに、もう一度訊きたいんです。……私に、居場所はあるのかどうか」


 「ヨシちゃん……」


 居場所なら、ここにあるじゃないか。そう言いたかった静波だが、言葉にならない。


 「僕たちも、特能ボランティア部の仲間でしょ」


 真緒がそう言い、菜緒が頷く。


 「鷹雄さんには、すごくお世話になったんだよ。だから、今度は菜緒たちが鷹雄さんに恩返ししなくちゃ、ね~」


 「俺は、まどか様についていくぞ!」


 剛志の大声に、部室の空気が少し和らぐ。


 「僕も、特能ボランティア部に残るよ」


 荒波がそう言い、静波を見た。


 「静波はどうするの? このまま、何も見なかったことにして逃げるの?」


 「逃げるって……俺にとっては、昨日からのことは、何が何だか分からないことだらけなんだけどさ……」


 正直、意味が分からない。意識がなくなって、起きたら自分に『神凪ぎ』の力があると言われ、そして鷹雄と漣がいなくなった。そして今、特能ボランティア部として鷹雄達と戦うかどうかを聞かれている。


 ……だが。


 「俺だって、このまま何も知らないでいられないよ。戦うことで何か分かるのなら……戦うさ」


 「……じゃ、皆このままってことだな」


 弓彦がそう言い、嬉しそうに頷く。皆もようやく表情が緩んだ、その時だった。


 「ちょっと、いいでしょうか?」


 突然部室に入ってきたのは、占い部の桜だった。辺りをキョロキョロ見回し、弓彦の腕を引っ張る。


 「早く、カラオケ部に行きますわよ!!」


 「え、え、何?」


 「『世界』の敵から、何か放送があるみたいですの!」


 弓彦は驚き、カラオケ部に走る。皆もその後に続く。


 「あ、こっちだよ!」


 カラオケ部の部長の優斗が、手招きする。モニターには、今まで側にあった顔が映っていた。


 《……俺は、ずっと見てきた。この世界の不条理を》


 まっすぐ見つめてくる瞳には、あの時の虚ろさはない。力のある光を放つ瞳で、鷹雄はじっとこちらを見つめる。


 「鷹雄……!」


 まどかも、食い入るように鷹雄を見つめる。不穏な空気のまま、鷹雄がゆっくりと口を開いた。











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