犯行予告
部室に着いた静波達を、厳しい顔をした鷹雄が出迎えた。
「犯行予告が来たんだよ」
テーブルには、手紙がある。おそらく、それがその犯行予告なのだろう。
「鷹雄、何があった?」
漣も、部室に入るなりそう訊いてくる。奥の部屋で休んでいたまどかも、ソファーに座っていた。
「簡単に説明しておく。表世界の祭りで、無差別殺人をするっていう予告だ。『世界』の敵からとなっているが、やり方が今までにない。何が目的なのか、それすらも分からないんだ」
「……確かに、今までのやり方じゃないわね」
まどかはそう相槌を打ちながら、静波を見た。
「今まで、『世界』の敵はターゲットを定めて狙ってきたわ。それも、世間一般でいう悪党、と呼ばれる人達をね。でも、今回は無差別殺人だなんて……」
確かに、そう聞くと違う。
「模倣犯とか? 名前を騙っただけの」
漣が言うと、鷹雄は首を傾げる。
「弓彦に、読んでもらいたいな」
「そーいや、弓彦は?」
話している内に、部室にはメンバーが集まってきている。真緒、菜緒、愛、剛志。確かに弓彦の姿がない。あと、まだ見たことがない梨香も。
「弓彦は、多分梨香を探しに行っているんだと思うんだけど……」
「じゃ、弓彦先輩を探してくる」
そう言ったのは、剛志だった。答えも聞かずに、さっさと出て行く。
「なら、弓彦さん待ちかあ。急がなくてもよかったな」
真緒が呟き、菜緒にたしなめられる。
「あ、お茶でも淹れましょうか」
愛は立ち上がり、奥の部屋に行く。何となく、静波もその後について行った。
「あ、なんか手伝おうか?」
「あ……じゃ、コップを出してもらえますか?」
奥の部屋は初めてだ。簡単なキッチンがあり、コーヒーメーカーやヤカン、ポットもある。奥の方には食器棚があり、和風の茶碗から洋風のティーセットまであった。
「えっと……茶碗でいい?」
「はい、お願いしますね」
人数分の茶碗を用意し、お盆を探す。さすがに全部が乗るものはなく、とりあえず二回に分けようかな、と考える。
「お茶碗、熱いですから気をつけて下さいね」
手際よく急須でお茶を注ぎながら、愛が言う。丁寧にお盆に乗せ、静波はゆっくり運んだ。
「……静波、危なっかしい」
早速荒波にそう言われ、余計に手が震える。鷹雄が立ち上がり、茶碗を受け取った。手際よく配っていく。
「静波、ありがとう」
「や、こちらこそ」
はっきり言って、助かった。しかし、まだ次が待っている。愛の所に戻ろうとすると、彼女はお盆に残りのお茶を乗せて出てきた。
「静波さん、ありがとうございます。これで終わりですから」
良かった。
「……まだかなあ……」
お茶で一息つき、真緒が退屈そうに呟いた。弓彦には、広瀬からの伝言は伝わっていないのだろうか? それとも、彼の身に何かが起きているのか……
「剛志くんを探したいけど、行き違いになると面倒だな……。ナナコ、二人を探してくれるかい?」
鷹雄がそう言うと、ナナコは頷いた。小さな白狐の姿になり、スルリと出て行く。
「……こういうとき、ケータイがあればなあ」
静波の呟きに、鷹雄が首を傾げた。
「ケータイ?」
「ああ、携帯電話。もしくはスマホ。とにかく、個人用の持ち運び可能な電話、かな?」
「……ああ、表世界から来た子は、みんな『使えない』って嘆く、あれね。そうか、こういう時に便利なわけか」
鷹雄は納得したように、何度も頷く。その隣で、荒波はまだ不思議そうにしていた。彼は、表世界にはいたがほぼ隔離生活の為、携帯電話には触れたこともない。
「ま、ナナコならすぐに見付けてくれるよ。……にしても、広瀬先生、弓彦に会えなかったのかな?」
小さいとは言え、それなりに広い学校内だ。広瀬も、弓彦を探しているのかもしれない。
「……嫌な予感がするわ」
ぽつりと、まどかが言った。静かになった部室内に、やけに大きく響く。
「嫌な予感って……学園内には部外者は入れないし、入るなら桜井のバスを使うはずだ」
「そうね……。桜井のバス以外なら、桜井家の人間の術しかないわ。でも、裏警察の人間達も、警察車両で入ってきていたようだし、何者かがこっそり侵入という話も、有り得なくはない」
まどかはそう言うと、鷹雄に視線をやった。
「そう、学園祭中の、昨日の内にならね」
鷹雄は黙り、顎に手をやる。首を傾げる静波に、漣がこっそり囁いた。
「普段なら、桜井のバスは学園側の要請時のみの運行になってるんだ。ただ、学園祭は客が多いから、バスも何便か走ってた。まあ、不審者防止の為に、バスに乗るには学園祭の招待チケットが必要になるわけだけど……」
チケットなら、確かに静波も家族に送っていた。それを使って、祖母は学園祭に来ていたわけだ。
「考えたくないけど、昨日ならチケットを強奪すれば、学園に入れたわけだ。それか、学園内の人間の関係者か……」
なるほど。
「でも、侵入者がいたとしてさ、どうして弓彦さんや梨香さんがここに来ないわけ? 弓彦さんも梨香さんも、『世界』の敵側には、ほとんど顔を知られてないはずだけど?」
真緒はそう言い、鷹雄を見つめる。鷹雄は黙ったまま俯いている。
「……弓彦に関しては、この前の青葉戦で、顔は知られたのかもしれないわ」
「あ、そうですね! 青葉さんなら、弓彦先輩がサイコメトリー出来ることも、知っているんでしょ?」
まどかと菜緒の会話に、鷹雄が顔を上げた。
「その仮説でいくと、この犯行予告は『世界』の敵からのもの、そして弓彦に『読まれ』たらマズいもの、ということになるけれど……何かしっくりこないな」
会話をしていても、みんなの意識は部室の扉に集中している。すると、ガタリと音がした。
「ナナコか?」
「いや、ごめんね」
入ってきたのは、広瀬だった。中を見て、首を傾げる。
「まだ集まってないのか。まったく……」
「広瀬先生、弓彦に会いましたか?」
鷹雄の様子に、広瀬はまた部室内を見回した。
「いや、弓彦は部室にいるかと思ってたんだけど……違うみたいだね」
「今、剛志くんとナナコが探しています」
そう聞いた広瀬の行動は早かった。部室からさっさと出て行く。
「先生?」
「学園長に、アポートを頼む。君たちは、そこで待機ね」
出て行った広瀬に、鷹雄は僅かに眉をひそめる。しかし、すぐにみんなの方を振り返った。
「待機だってさ」
「待機って言ったってさ……剛志だってまだ戻らないんだ。 ただ待つのは、性分じゃないんだよな~」
漣が欠伸をしながら言う。しかし、顧問からの待機命令に背くわけにはいかない。
「ナナコがどうしているのかなら、同調すれば解るよ」
鷹雄はそう言うと、深呼吸をした。そのまま目を閉じ、じっと集中する。何をしているのか知りたかったが、声を出すのもはばかられる雰囲気だ。
「…………」
鷹雄はただ、目を閉じている。しかし、額にうっすらと汗がにじんでいる。
「たか……」
「逃げろ!!」
まどかの呼び掛けを遮るように、鷹雄が叫んだ。カッと目を見開き、荒く息を吐く。そのまま両手で印を結び、ブツブツと何かつぶやき始めた。
「……ナナコに何かあったようね」
まどかはそう言い、ヒョウキを呼んだ。
「ナナコの匂いを追って。とにかく、あの子を連れ戻すのよ。戦わなくていいわ」
「わかった」
ヒョウキは少年の姿のまま、部室から駆け出す。
「……何が起こってるんだよ?」
のんびりした表情を引き締め、漣が呟いた。鷹雄は一心不乱に何か呟いているし、まどかは目を閉じてじっとしている。もしかしたら、先程の鷹雄と同じような状態かもしれない。
「……俺達も、探しに……」
「た、たかおぉぉぉ~……」
静波が立ち上がった時、窓から白狐姿のナナコが転がり込んできた。その後ろから、ヒョウキも入ってくる。
「ナナコ、無事か!?」
「どうして、どうして式神がぁ……」
ナナコは鷹雄にすがりついている。ヒョウキはまどかに、何やら紙ゴミのようなものを渡した。
「……ありがとう、ヒョウキ。鷹雄、重要な手掛かりよ」
まどかが広げてテーブルに置いた紙。しわくちゃになったそれは、人の形のように見えた。
「……陰陽師、か」
鷹雄が呟く。
「おん、みょーじ? 何か、映画とかゲームの世界だな……」
今までもそうだったけど、と静波は呟く。
「……陰陽道の家系は、学園にも何人かいたはずだけど、どうしてナナコが襲われるんだ?」
混乱している鷹雄に、まどかが冷静に言う。
「それは、この『津乃峰 咲子』さんに訊いてみましょう」
人の形の紙には、何やら色々と達筆で書かれている。その隅の方に、小さいが読める字で確かに『津乃峰咲子』と書かれていた。
「……どうして、ヒトガタに名前なんか……」
「それも、咲子さんとやらに訊けば分かるのじゃなくて?」
鷹雄はしばらく考えていたが、やがて立ち上がる。
「津乃峰咲子といえば、一年くらい前に入学した一年生だ。まだ部活には入ってなかったはずだけど……とにかく、女子棟のどこかか女子寮にいるはずだけど」
「私、呼んできます」
愛がそう言い、部室から出て行く。確かに、まどかが行くよりもスムーズに呼び出せそうだ。今のまどかは、いつもの硬質な雰囲気に加えて、さらに棘のような苛つきを感じる。とてもじゃないが、穏便に話せそうではない。
「もぉ……綺麗にしてたのにぃ」
ナナコがブツブツ言いながら、少女の姿になった。乱れた髪を、櫛でゆっくり解かす。鷹雄は落ち着かない様子で部室内を右往左往しながら、チラチラと扉を見ていた。こんなに落ち着かない鷹雄を見るのは初めてだ。
「鷹雄、見苦しいわよ。少しは落ち着きなさい」
まどかの冷静な言葉も、まるで耳に入っていない。もっとも、彼女もただならぬ苛つきを隠そうともしていなかったが。
「結局、待機かぁ……。弓彦さんと、怪力マン。あと、広瀬せんせと……謎の陰陽師」
いつの間にか、待ち人が増えた気がするが……誰が一番に来るのか?
そこまで考えて、静波はふと気付いた。
「なあ、さっき『謎の陰陽師』ってお前言ったけどさ、女子寮にいるんだから知ってるんじゃないか?」
真緒は男子生徒だが、唯一特例で女子棟や女子寮にいる。知っていてもおかしくないが……
「一年生だっけ? 僕は知らないよ。興味もないし。菜緒は?」
「いつも一緒の真緒ちゃんが知らないのに、私が知ってるわけないじゃない~」
正体不明の一年生。こんなに狭いコミュニティーの中では、珍しい存在ではないだろうか? まあ、静波だって全男子生徒を知っているわけではないが。
(何か、不思議なところなんだよな……影世界って。繋がりが深いようで、意外とそうでもない)
そんなことを考えていると、部室の扉が荒々しく開いた。
「はぁっ、はぁっ……」
駆け込んできたのは、剛志だった。真っ青な顔で、荒く息を吐いている。
「剛志くん、どうしたんだ? もしかして、弓彦に何か……!?」
鷹雄の言葉に答えようと、剛志は深呼吸を繰り返す。落ち着くと、青い顔のまま唸った。
「弓彦先輩が、いきなり消えたんだっ!」
「……あー」
そりゃ、何も聞いていない剛志は驚いただろう。
「ごめん、キミが出た後に広瀬先生が来てね。学園長にアポートを頼んだんだ」
「なんだー、アポートだったのか! びっくりしたぞ!!」
剛志はそのまま座り込む。愛が冷たいお茶を淹れると、一気に飲み干した。
「弓彦は、見つかったんだね」
鷹雄がそう訊くと、剛志は頷く。
「ああ。ただ……何か、考え込んでたというか、悩んでいたようにも見えたような……いつもとは違う感じだった」
「……そうか」
鷹雄は、顎に手をやり考え込む。
「これで、弓彦先輩はもうすぐ来るんだし……後は陰陽師の人だけね」
菜緒がホッとしたように言った。広瀬は弓彦と一緒に来るだろう。そうすれば、あの手紙に残された『思い』が明らかになるはずだ。
「ただいま戻りました」
愛の声が聞こえた。扉が開き、愛ともう一人、小柄な少女が現れる。
「キミが、津乃峰さん?」
鷹雄の言葉に、少女は飛び跳ねるように身を震わせ、慌てて頭を下げた。
「は、はいっ! 津乃峰咲子です!」
小動物のようなその行動に、鷹雄は不思議そうな顔をする。
「キミが……うちのナナコを攻撃したのかい?」
「あっ……の……あの白狐ですよね!? 本当に、ごめんなさい!」
咲子は、ピョコピョコと頭を下げる。
「わっ、私、妖には色々……あの、イヤな思い出が……。なので、つい攻撃を……。ほ、本当にすみません!」
「……イヤな思い出、ねぇ」
鷹雄はまだ苦い顔をしていたが、必死に頭を下げる女子に、これ以上の追及をする気はないようだ。ソファーに座り、ナナコを撫でる。
「鷹雄ぉ~許すの~?」
ナナコは不服気に言うが、鷹雄は口をつぐんだままだ。代わりのように、まどかが言った。
「陰陽師のくせに、妖が苦手なの? 妙な話に思えるのですけど」
「み、妙って言われましても……小さい頃に、妖に追い掛け回されれば、苦手になっちゃいます……」
咲子は小さい声だが反論する。おどおどしながらも、さらに続けた。
「わ、私達の家に伝わる陰陽道は、妖を遣うよりも、術や符を使うもので……。だ、だから、妖は敵にしか見えないんです……」
「だからって、酷いよ~!! ナナコ、ちゃんと遣い手のいる使鬼なのにっ! 野良妖じゃないよ!」
ナナコは毛を逆立てる。鷹雄はそれを宥めながら、咲子を見た。
「キミにも色々事情があるみたいだけど、今後ナナコに攻撃を加えるようなら、俺も黙って見てはいないよ。分かってくれるかな?」
色男の静かな怒りに、咲子は可哀想なほど小さくなっている。何度も小さく頷き、涙目で鷹雄を見上げた。
「ほ、ほ、本当に、ごめんなさい……」
「……分かってくれれば、いいんだよ」
鷹雄の苦い顔も、ようやくいつもの優しい笑顔になる。咲子はしばらくポカンとしていたが、顔を赤らめて下を向いてしまった。
「すげー、天然タラシ」
「案外、計算ずくかもよ?」
こっそり剛志と静波が話していると、鷹雄はその笑顔のまま二人に振り向く。何とかごまかそうと軽く笑った静波だったが、その背後から扉の開く音がした。
「や、遅くなったね」
「広瀬先生」
入ってきたのは、広瀬だった。その後ろから、弓彦もやってくる。
「弓彦、どこに行っていたんだ?」
鷹雄が訊くと、弓彦は困ったように眉をひそめた。
「あー、梨香を探してたんだよ。ま、結局断られたんだけどさ」
「? どうして?」
静波には、さっぱり理由が分からない。弓彦は少し黙っていたが、チラリと鷹雄を見てから話し始めた。
「梨香は、二年前の『世界』の敵の襲撃事件から、戦闘が嫌になったんだよ。正確には、人が傷つくことを極端に恐れている。だから、治癒には協力してくれても、戦場には行こうとはしないし、こういう話し合いにも参加しようとはしないんだ」
「……流が傷付けた生徒たちを、梨香は必死で治癒してくれた。しかし、その甲斐なく、亡くなった生徒もいた……。その時、彼女は本当に苦しんだと思うんだ。……でも」
鷹雄は苦しげに呟く。
「俺たちには、梨香の能力が必要だ。それが分かってくれているからこそ、梨香も退部はしないでくれているんだと思う」
なるほど、だから彼女は部室にもあまり来ないというわけなのか。
「それよりさ」
弓彦は、不思議そうに首を傾げた。
「そこの女子は?」
「あ、彼女は津乃峰咲子さんだよ」
鷹雄の言葉に合わせて、咲子は頭を下げる。弓彦も会釈しながら、「で?」と鷹雄に訊いた。
「ちょっとしたトラブルがあってさ……でも、もう解決したから」
「あ、あの、私、もう失礼しますっ」
咲子は深々と頭を下げると、急いで扉から出て行った。ポカンとした弓彦が、鷹雄を見る。
「……何なんだ、あの子?」
「まあまあ、とにかく、この手紙を視てほしいんだ」
釈然としない弓彦をソファーに座らせ、鷹雄はあの『犯行予告』を渡す。弓彦はそれを手に取り、目を閉じた。
「……何か分かるといいね」
真緒が呟く。皆が見守る中、弓彦はゆっくり目を開けた。
「……黒い、悪意。狐の面。腕輪。それと……女の声」
弓彦は深く息を吐いた。額には汗が流れている。
「……何もかも、終わりにしてやる……。声は、そう言ってた」
「……狐の面」
鷹雄には、心当たりがあるようだ。まどかも、小さく頷いている。
「何か、分かったのか?」
静波の質問に、鷹雄は頷いた。
「黒い狐面は、『世界』の敵の首領・天樹のものだ。いつも面を被っているからね。なら……」
「その女の声は、紅葉のものである可能性が強いわ。これは、『世界』の敵からの犯行予告である可能性はかなり高い」
『世界』の敵といえば、あの青葉を思い出す。そして、青葉の操っていた、あの大蛇を。
「……静波、顔が強張ってる」
荒波に言われ、慌てて平穏を装ってみる。
「大丈夫だよ、静波。紅葉は青葉と違って、妖を遣う力はない。ただ……」
鷹雄はそう言うと、漣を見た。
「炎と風は、相性が悪すぎる。漣は、今回は休んでいてくれ」
「え、鷹雄? オレ、やるよ?」
目を瞬かせながら、漣が言う。しかし。
「ダメだ。漣の炎が風で広がれば、祭りは大惨事になる」
鷹雄の言ったことを理解し、漣は机に突っ伏す。そのまま、微かに頷いた。
「行くのは、俺とまどか。あと……ヨシちゃんも来てくれ。荒波、静波、キミ達も頼む。いざという時の為に、真緒と菜緒も」
「はーい!!」
「ようやく出番かぁ」
真緒と菜緒が頷く。愛は硬い表情のまま、「はい」と答えた。
「静波、行くでしょ?」
「……ああ」
何の能力もないとはいえ、荒波の行く所には行かなくてはならない。しかも、今回は愛が一緒なのだ。
(いざという時は、俺がヨシちゃんを守らなきゃ……)
否が応でもテンションが上がる。静かに燃える静波を、荒波が肘でつついた。
「何妄想してんの? 顔に出過ぎ」
「う、うるさいなっ」
静波の赤い顔を見て、愛がくすりと笑う。
「剛志くんは……やっぱり必要かな。キミの予想不能な行動力は、力になるし」
「お、お……おおおーっ!! ついに、俺の時代が! 任せろ、俺がその女をパパッと懲らしめてやるぜ!」
感情高ぶる剛志に、まどかが冷ややかに呟く。
「ただし、こちらの計画はちゃんと理解して、邪魔だけはしないようにしてちょうだいね」
剛志は吠えながらも、しっかり頷く。
「じゃ、俺とまどか、高瀬兄妹と双海兄弟、剛志くん、ヨシちゃん。……多いかな?」
首を傾げる鷹雄に、まどかが首を振る。
「表世界の祭りに紛れて、敵を探す必要がある。人手は多い方がいいわ。使鬼だって、目立たない子しか連れていけないし」
「それもそうか……表世界の祭りって、どれくらいの人がいるものなんだい?」
聞かれ、表世界出身者は互いに顔を見合わせる。
「都市部か地方かでも、だいぶ違うと思うけどな……ちなみに、うちの近くでやってたやつは、結構閑散とした感じ」
静波が言うと、弓彦はへぇ~と呟いた。
「オレっちは、小さい時に家族と行ってたけど……なんか、すっげぇ人だったな。妹が迷子になったら、いつもオレっちが探してたんだよなー。今思えば、サイコメトリーのおかげなんだろうけど」
懐かしそうな弓彦の話に、鷹雄は微笑む。
「どんな規模のものかは分からないけど、とりあえず人手は多い方が良さそうだね。ナナコとヒョウキは子どもになれるけど、他の使鬼は待機してた方が良さそうだ」
「……そうね」
鷹雄の言葉に、まどかも同意する。
「話は纏まったかな?」
広瀬がそう言い、机の上の犯行予告書を手に取った。
「祭りは三日後、場所は……ま、学園長にアポートしてもらうから、関係ないか。くれぐれも、表世界の人間を巻き込まないように気をつけて、速やかに無差別殺人を阻止してくれ」
ハードな任務を軽い口調で言い、彼は微笑む。三日後に備える為、これで今日の部活は終了した。
「浴衣にする? それとも、甚平?」
静波が訊くと、荒波は眉をひそめた。
「いきなり何?」
「え? だって、祭りに紛れるんだろ? なら、服だって合わせなきゃさ」
「……僕、外の祭りに行ったことないし」
荒波は双海家の次期頭首として、双海家の中での祭りには必ず出席していた。しかし、確かに外でしている祭りに出た記憶はない。
「あー、確かに。じゃ、浴衣にしようぜ。お揃いで」
「……双子がお揃いとか、悪目立ちしない?」
とは言えど、三日後に着るためには、今ある服で考えなければならない。確か祖母が用意してくれたお揃いの浴衣なら、どこかにあったと思うのだが。
「お二人は、浴衣ですか?」
後ろから来ていた愛が、そう声を掛けてきた。静波が頷くと、楽しそうに微笑む。
「お二人ともカッコいいですから、お似合いでしょうね」
「あ、ヨシちゃんも浴衣?」
訊くと、愛は首を傾げる。
「あ、私は……多分、任務用のいつもの服になると思います。いつもの格好じゃないと、集中できないんで……」
「あ、そうなんだ……。遊びに行くわけじゃないもんな」
口ではそう言いながら、静波はガッカリする。愛の浴衣姿を見たかったのに……。
「ほんと、顔に出過ぎ」
荒波の声が小さく聞こえ、静波は横目で睨む。愛はただ微笑んでいるから、聞こえてはなかったようだ。
「影世界のお祭りには、遊びに行けるといいですね」
愛はそう言って会釈し、女子棟の方へ歩いていく。
「……今のって、誘われたんだよな?」
後ろ姿を見つめながら、隣の荒波に確認する。しかし、返事はなく……
「あっ、あいつ!」
さっさと去っていく背中を見つけ、静波は慌てて追い掛けた。




