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祭りの後

学園祭から一夜明け、日常が戻る……その前に。












 学園祭が終わり、寂しさが残る翌日。


 「あーあ、片付けさえなけりゃ、祭りは楽しかったのにな~」


 ぼやく漣に、鷹雄は笑う。


 「そんなこと言っている間に、手を動かした方が早いよ。さ、今日中に片付けなきゃ」


 学園祭の片付けの為、今日は授業は休みになっている。特能ボランティア部のメンバーは、他のクラブに呼ばれるがまま、片付けに奔走していた。


 「荒波、さっさとそれ、渡してくれよ」


 静波の言葉に、荒波は呆れたような声を返す。


 「そんなに張り切ってたら、明日は筋肉痛だよ?」


 言いながら、側の木片を渡す。昨日は屋台として使われていたが、今日はただの焼却ゴミだ。


 「じゃ、行ってくるから、また柱集めとけよ!」


 「……はいはい」


 自分に出来ることを探そうと決めた静波だったが、今日はただ力仕事をするしかない。せっせと焼却場まで運んでいると、剛志が悠々と追い抜いていった。


 「静波、お先~」


 「タケさん、あんまり張り切ると、焼却場でダウンするよ」


 忠告しながら、焼却場を目指す。


 「……ほら」


 先に焼却場に着いた剛志は、真っ赤な顔で座り込んでいる。静波も木片を焼却場に置き、さっさと荒波の所に戻る。


 「あれ? タケさんは?」


 「五分休憩。回復したら、戻ってくるよ」


 とにかく静波は木片を運ぶ。あらかた集まったら、待機していた漣が、一気に焼却した。


 「おお、キャンプファイアー」


 「昼間だけどな~」


 炎の管理は漣に任せ、静波は次にする事を探す。すると、愛が大きなパネルを運んでいるのが見えた。


 「ヨシちゃん、手伝うよ」


 「あ、静波さん。それじゃ、向こうにもパネルがまだあるので、お願い出来ますか?」


 頷いて向かえば、写真部の展示スペースだった。部員たちが、撤去作業に追われている。静波は一人に声を掛けてから、パネルを運んだ。


 「あ、こっちです」


 行った先は、あの部活棟別棟だった。どうやら、写真部の倉庫代わりの部屋があるらしい。薄暗い中に入り、二階の部屋にパネルを運ぶ。


 「大事な写真だろうに、こんな埃っぽい所に置いといていいのかな?」


 「……たくさんありますね」


 確かに、パネルはたくさんあった。布が掛けられているものの、随分汚れた物も多い。開校十年の新設校にしては、随分違和感があるように思えた。


 (こういうの、学校の怪談話に出てくる、旧校舎ってイメージだよな……)


 昔聞いた怪談が、胸を過ぎる。家で怖がらされた怪談は、主に妖が出てくる影世界物だった。年齢が高くなるにつれ、そういう怪談は怖くなくなっていったのだが、学校で友達とした怪談は、所謂都市伝説のような感じで、やたら怖かった。


 「知ってますか? トイレの花子さんって」


 メジャーな怪談に、静波は頷く。


 「赤いスカートの、おかっぱの女の子だろ?」


 「あっ、知ってましたか。表世界では有名なんですけど、影世界ではあまり知られていないんですよ」


 そうだったのか。まぁ、影世界には学校はここだけなのだから、学校の怪談がないのは当たり前か。


 「そうなんだ。俺、影世界のことはあんまり知らないんだ」


 「そう言えば、昨日言ってましたね。ずっと表世界にいたって」


 二人で和やかに話していると、扉の方で音がした。


 「……こんな所でデートなんて、変わった趣味だな」


 入ってきたのは、鎮だった。手には、パネルを持っている。


 「あれ? どうして鎮が?」


 「剣道部は演武だけだったからな。手伝いをしてるんだよ」


 鎮はそう言いながら、パネルを置く。


 「ここでいいんだよな?」


 「……多分」


 ハッキリした答えは分からないが、「適当に置いといてくれ」と言われているから大丈夫だろう。


 「そう言えば」


 鎮は部屋を出ようとして、立ち止まった。意地悪げな笑みを浮かべる。


 「昔、この部室棟別棟で、お前らみたいにデートしてた物好きなカップルがいてな……」


 「いや、デートじゃないしっ!」


 「重要なのは、そこじゃない」


 デートを否定する静波を遮り、鎮は口の端を引き上げる。


 「二人は何度も、こんな薄暗い所でデートを重ねた。しかし、男はある日、女の後ろに誰かが立っているのを見てしまうんだ……」


 薄気味悪い口調に、これは怪談だと気付く。鎮は、更に調子に乗って話す。


 「女の後ろの人影は、だんだん女に近付いてくる。見えるのはこの部室棟別棟だけ、男はここでのデートを止めようと言うが、女は承諾しない。そしてある日、女の後ろの人影は、ハッキリと男の姿になり、ニヤリと笑ってこう言った……」


 オチに備え、静波は思わず唾を飲む。愛は静波の隣にくっつき、怖そうに聞いている。

 鎮は溜めながら、ようやく口を開いた。


 「娘を、よろしく……」


 「……?」


 「……?」


 キョトンとする二人に、鎮はニヤニヤと笑う。


 「どうだ? 怖かっただろ?」


 「……意味が分からないんだけど」


 正直に静波が言うと、彼は眉をひそめた。


 「だから、女の家系は魂喚びの能力者で、死んだ父親を無意識に喚んでたんだよな。たまたまこの部室棟別棟が磁場が良くて、魂喚びには最適だったという話」


 「いや、それの何が怖いんだ?」


 「だって、いきなり家族に紹介とか、しかも父親とか、怖くないか?」


 得意気な鎮に、思わず脱力する。愛も安心したのか、クスクス笑った。


 「おかしいな……表世界風の怪談だったはずなのに」


 鎮はブツブツ言っていたが、ふと二人に顔を向ける。


 「まあ、それはともかく、いちゃついてる暇があるなら、さっさと手伝えよ。写真部のパネル、まだまだあるぞ」


 言い残し、鎮は部屋から出て行った。


 「……言いたいだけ言って、行っちゃったな」


 「一年生の人ですよね。剣道部の」


 「ああ、佐川鎮。エリートの家系らしいよ。ま、あいつはイヤミな所はあるけど、悪いやつじゃないんだよな」


 言いながら、思い出す。確か、鎮の家族は裏警察の幹部だと、剛志が言っていた。あの冷酷そうな男を連想し、静波は首を振る。


 「静波さんって、お友達が多いんですね」


 愛はそう言いながら、歩き始めた。静波も手伝いの続きをしようと、後に続く。


 「あ、静波や」


 部屋を出たところで、声を掛けられた。背筋が冷える。この声は。


 「あ、流くん」


 天行寺流だ。今日は休みだが、何故か学生服を着ている(ちなみに、皆は片付けの為、Tシャツやジャージなどのラフな格好だ)。


 「ヨッちゃん、久し振り~。見て見て、新しい友達のワン太郎! ほら、ワン太郎、挨拶は?」


 流の言葉に、ワン太郎は行儀良く座ってワンッと吠えた。


 「静波とヨッちゃんが、なんで別棟におるん? 今日は休みやって、鷹雄が言うてたで」


 不思議そうな流に、愛が説明する。


 「あー、昨日学園祭やったんか。どうりで、なんやら騒がしかったわけや」


 納得したように、流は頷いた。しかし、今度は静波が首を傾げる。


 「知らなかったの?」


 愛が、流に尋ねる。おかしな話だ。学園祭は学校行事で、皆参加したはずだ。準備期間もあったし、本祭はかなり派手に行われた。いくら別棟にいたと言っても、知らないはずがない。


 「んー、昨日は別棟で、妖達とパーティーしてたんや。鷹雄にな、日頃の疲れを癒してあげてくれって頼まれてな」


 別棟やったら、大騒ぎしても大丈夫やしなー、と流は笑う。


 「ナナコとか、ヒョウキも一緒に?」


 「ナナコとヒョウキ、ユウグレ、セッカ、ツララ。後は、イザヨっていう新顔もおったで。鷹雄とまどかの使鬼やって聞いたけど?」


 ナナコとヒョウキは、幼児の姿をイメージ出来る。他の使鬼は見たことはないが、小さくなることは出来るのだろう。でなければ、この部屋に六匹の使鬼は入らない。


 「使鬼は酒飲みやからなあ、大変やったで」


 言葉とは裏腹に、流は楽しそうに笑う。


 キーンコーン……カーンコーン……


 「あ、片付け!」


 昼のチャイムで、静波はふと思い出した。今は片付け中で、写真部のパネルはまだまだ残っていると、鎮が言っていた。


 「あ、まだいたのか」


 鎮が、またパネルを運んできた。流を見て、首を傾げる。


 「誰だ?」


 「二年の、天行寺流や。よろしゅうな」


 人懐こい笑顔につられ、鎮は流に頭を下げる。


 「ほなな、ヨッちゃんと静波。また遊びに来てや」


 手を振る流に見送られながら、二人は別棟を出た。


 「……静波さん、大丈夫ですか?」


 歩いていると、愛に突然訊かれた。隣を見ると、心配そうな顔がある。


 「え?」


 聞き返すと、愛は微笑んだ。


 「手、力が入ってたから。緊張しているのかと思って」


 言われて初めて、拳を作っていたことを知る。


 「何か……苦手なんだよ、あいつ」


 理由は分からないが、とにかく威圧感を感じてならない。


 「流くん、授業にもほとんど出ないみたいですから、何か独特な雰囲気がありますよね」


 確かに、流は……いや、あの部室棟別棟自体、どこか切り離された空間のように感じる。皆が何かしらのコミュニティーを作っているこの小さな学園内では、やたら浮いた存在に思えた。


 「チャイムも鳴りましたし、お昼ご飯にしませんか?」


 愛に誘われ、静波は食堂に向かった。







 食堂は、大勢の生徒で溢れかえっていた。お昼時の混雑に、二人はパンを買って部室を目指す。


 「お帰り。僕の分のパンは?」


 部室で待っていた荒波に言われ、静波は口を尖らせた。


 「自分で行け、自分で」


 「とか言って、そんなに一人で食べるの?」


 袋に入った六つのパン。確かに、つい荒波の分も買ってしまった。


 「後で、金」


 「はいはい」


 昼食や間食、売店で買う筆記用具などは、仕送りの小遣いで賄っている。静波の小遣いは荒波より少なく、先月はカツカツ状態になってしまった。


 「ほい」


 袋を渡せば、荒波が好きな物を選ぶ。残った四つのパンにかじりついていると、目の前にコーヒーが置かれた。


 「アイスコーヒーだけど、どうぞ」


 「あ、鷹雄さん。ありがとう」


 鷹雄は微笑むと、隣の荒波の前にもアイスコーヒーを置く。愛にも渡すと、彼女は恐縮して固まっていた。


 「皆頑張ってくれているから、片付けも早めに終わりそうだよ。終われば今日は自由時間になるからね、後少し、頑張ろう」


 「はーい」


 返事をしながら、パンを食べる。少しすると、まどかが入ってきた。


 「……疲れた」


 弱音を吐かない彼女が、ポツリと漏らす。鷹雄がコーヒーを出せば、「紅茶の方がいいのに」と言いながら受け取った。


 「随分疲れてるね? 大丈夫かい?」


 「……少し休むわ」


 コーヒーを手に、奥の部屋に入っていく。その部屋にはソファーベッドがあったから、そこで休むつもりなのだろう。


 「昨日の映画、大好評だったみたいでね」


 鷹雄は嬉しそうに言った。


 「まどかのファンっていう男子が、握手や写真を求めて、追い掛けてきたらしいんだ。使鬼達は、昨日のパーティーで眠りについていたから、追い返すにも一苦労だったみたいでね」


 「鷹雄さんも、ファンに追い掛けられたの?」


 荒波が訊く。鷹雄は爽やかに笑った。


 「握手はともかく、写真はね……。丁寧に対応したら、ちゃんと分かってくれたよ」


 カリスマ性抜群の鷹雄だからこその、切り抜け方だ。


 「使鬼といえば、ナナコちゃん達、流くんとパーティーしたって聞きました」


 愛がそう言うと、鷹雄は頷いた。


 「流は、ある事件であまり人前に出られなくなってしまったんだ。特に学園祭みたいな、外部の人間が集まる時にはね」


 だから、独りきりの流の為に、パーティーを用意したのかもしれない。そう思い、静波は鷹雄の優しさを感じた。


 「じゃ、俺は手伝いに行ってくるよ」


 手を振りながら、鷹雄は部室から出て行く。静波も食べ終わり、荒波に声を掛けた。


 「ほら、荒波も手伝え」


 「……はーい」


 諦めたのか、部室にいるのも飽きたのか。荒波は大人しく立ち上がる。


 「あ、私も……」


 急いでパンを食べようとする愛に、静波は「もう少し、休んだ方がいいよ」と声を掛ける。そして、荒波と一緒に部室を出た。






 「で? どこの手伝い?」


 写真部に行けば、鎮と剛志が全て運んだ後だった。正直、あの別棟に行かずに済んだことには、ホッとする。


 「そうだなぁ……」


 歩いてみても、ほとんど片付け終わった部屋しかない。


 「あ、恭一。片付けは?」


 前から歩いてくる恭一に、声を掛ける。彼はぼそりと答えた。


 「もうない」


 写経部は、読みにくい習字をたくさん並べていただけだったから、早くに終わったのだろう。イヤホンをいじりながら、恭一は無表情のまま言った。


 「静波、彼女が出来たと聞いたが?」


 「は? え? 彼女?」


 突然のことに、静波は軽くパニックになる。暗い雰囲気の恭一の口から『彼女』という言葉が出て来たのにも驚いたし、彼が噂話が好きなタイプにも見えなかったのだが。


 「……驚き、困惑……どうやら、ただの噂だったようだな」


 イヤホンを、はめ直す。どうやら、心の声を聴いていたようだ。無表情を一瞬崩し、ニヤリと笑う。


 「ちゃんと、鎮の誤解は解いておいてやる。とにかく、片付けが終わっていないのは、後は演劇部だけだ。腕に自信があるならば、手伝えばいい」


 妙な言い回しをして、恭一は去っていく。


 「どうする?」


 「ま、行ってみようぜ」


 静波は言い、演劇部の部室を目指した。






 昨日の惨劇はなかったかのように、演劇部の部室は慌ただしい雰囲気になっていた。


 「あ、そこの! 双子!」


 入り口に立っていると、いきなり声を掛けられる。太った男は二人の腕を掴むと、部室の奥に連れ込んだ。


 「ボランティア部の双子だよな? 手伝いを待ってたんだよ。いや~、助かった! さ、早くそれにアイロンを掛けてくれ!」


 「は?」


 問答無用で話を進めるこの男は、確か舞台挨拶をしていた、演劇部の部長だ。確か……忍、とかいう名前の。


 「アイロンって……」


 荒波も困惑顔で辺りを見回す。他にも数人が、衣装にアイロンを掛けている。蒸気が吹き出すアイロンを、二人は呆然と見つめた。


 「……アイロン、熱そうだけど」


 「そりゃ、熱でシワを伸ばす物、だからな」


 静波だって、アイロンの経験は、家庭科の授業でやっただけ、しかも掛ければ掛けるだけシワが出来たという、苦い思い出しかない。


 「あら? あの時の」


 困った二人に、また声が掛けられる。振り返れば、恵美が立っていた。昨日の刺々しさはなく、片付け作業中だというのに、フリルがついたスカートを穿いている。


 「あ……どうも」


 とはいえ、あの本性を見てしまった以上、何となく怖いイメージがある。畏まる静波に、恵美は甘い笑顔を向けた。


 「アイロン、したことないんでしょう? 助けてあげましょうか?」


 「ぜひ」


 荒波が間髪入れずに答える。蒸気が吹き出す未知の物体に触る勇気は、彼にはないらしい。静波も、とりあえず頷く。


 「忍ちゃ~ん、ちょっと、この二人とお話ししてくるね!」


 「ちょ、メグ、そいつらは手伝いで……」


 「じゃ、後はよ・ろ・し・く」


 恵美に連れられ、二人は無事に部室から逃げ出した。






 「ねえ、昨日のことだけど」


 中庭のベンチに座り、恵美は二人に話し掛けた。


 「私のこと、酷い女だと思ったでしょう? 婚約者を追いやって、他の男に夢中になるなんて」


 「……」


 「……」


 答えられるほど、二人に恋愛経験はない。確かに、自分が悠樹の立場ならば酷いと感じるかもしれないが、恵美の立場になればどうなのだろう? 意に添わぬ婚約をして、本当に好きな人への思いを断ち切るなど、出来るのだろうか?


 「……優しいね」


 恵美はそう言い、微笑んだ。


 「あんなこと言ったけど、私、本当は悠樹のこと、そんなに嫌いじゃない。ただ、それ以上に総夜様が好きなだけ。……こんなこと、家じゃ言えないんだけどね」


 辛そうにそう言い、恵美は花壇に目をやった。赤い花が、風に揺れている。


 「……悠樹には、手紙で伝えようと思ってたの。本当は直接言うべきだと思ったんだけど、裏警察は面会時間も限られてるし、私も学園に入学しちゃったから出られないし」


 赤い花から目を逸らさずに、恵美は話を続ける。まるで、独白のように。


 「だから、部室に悠樹が来たときは驚いたわ……。しかも、獣化して、正気もなくして……」


 ギラギラとした紅い瞳を思い出し、恵美は身を震わせた。獣化能力者とはいえ、正気を失った姿は見たことがない。


 「……悠樹が怖かった。だから、何とか追い返したかった。許してもらえないのなら、いっそ嫌われようと思って、酷い事もいっぱい言った。……でも」


 恵美は、静波に視線を向けた。その瞳には、涙が浮かんでいる。


 「やっぱり嫌われたくないなんて、我が儘だよね?」


 「……」


 慰めてあげたいと思うが、それは何の解決にもならないだろう。悠樹が感じたことは、悠樹にしか分からない。


 「……卒業したら、会いに行けば?」


 黙っていた荒波が、ポツリとそう言った。静かな視線で、恵美を見つめている。


 「悠樹さんに会って、謝ればいいよ」


 言葉にすれば、簡単なことだ。しかし、実行するにはかなりの勇気がいるだろう。見つめる恵美から視線を逸らし、荒波は立ち上がった。


 「アイロンから助けてくれて、ありがとう。じゃ、僕たちは行くよ」


 「あ、荒波!」


 そのまま歩き始めた荒波の後を、静波は追い掛ける。チラリと恵美の方を振り返れば、彼女は座ったままじっと赤い花を見つめていた。






 「嫌われたくない、か」


 かなりキツい口調で罵っていた彼女の意外な思いに、静波は呟いた。


 「あの人、ハマり役だったんだね」


 荒波は荒波で、頷きながらそう呟く。


 「は?」


 「あの映画の、沙雪役。意地悪だけど、とにかく自分の思いに忠実な人だった」


 どうやら初めての映画は、荒波に相当感動を与えたらしい。


 「……ま、俺達があれこれ考えても、何の解決にもならないけどさ」


 後は、恵美の問題だ。きっと彼女だって、二人から答えが欲しいとは思っていないだろう。


 「唯一の手伝いがアイロンじゃ、後は俺達が出来ることはないな。部室に戻ろうか」


 静波は言うと、荒波も頷く。そのまま戻ろうとした時、目の前に人影が現れた。


 「あれ? 広瀬先生」


 「や、君たち」


 広瀬は軽く手を挙げ、二人を見た。


 「用事は終わったかい? 緊急だけど、部室で話がある。すぐに戻ってくれ」


 「あ、はい」


 静波の返事を聞き、広瀬は去っていく。二人は、部室に向かった。




















 暗い室内、静かに座る人影。


 「天樹様……」


 黒い狐面の男に、妖艶な女が声を掛ける。


 「……紅葉か」


 紅葉と呼ばれた女は、その言葉だけで嬉しそうに微笑む。


 「青葉は、新たな使鬼との契約の為、妖の里に向かいましたわ」


 「……妖の里か」


 妖の里は、影世界でも秘境と呼ばれる場所にある。しばらくは帰ってこられないだろう。


 「次は、私が行きますわ。宜しいですか? 天樹様」


 紅葉の言葉に、天樹は頷く。紅葉は恭しく頭を下げ、暗い部屋を出た。


 「……天樹様……」


 暗い室内に孤独を感じ、紅葉は溜め息を吐いた。共に行動するようになりもう七年は経つが、彼の孤独を癒すことは、未だに出来ずにいる。


 「理想、理想……天樹様の理想は、まだ遠い所にあるのね」


 一人呟き、紅葉は長い廊下を歩き始めた。

 次の戦いに、ほんの少しの期待を込めて……












広瀬のメッセージを聞き、集まる特能ボランティア部。しかし……


読んでいただき、ありがとうございます。ちょっとスランプ気味になっていますが、次も読んでいただけると嬉しいです!


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